抄録
生命医科学研究領域では,さまざまな解析手法を駆使したビッグデータ利活用による新しい研究分野が台頭する時代になり,機械学習を中心としたデータ駆動型アプローチが注目を集めている.しかし,例えば,社会が直面している感染症・がん・臓器疾患に目を向けた場合,臨床試験や医療機関から得られる高精度(経時的)医療データには制約があり,その大量取得は容易ではない.特に,新興感染症発生時であれば,限られた症例数から得られる臨床データを用いて,治療戦略を開発したり,公衆衛生上の対策を策定する必要がある.つまり,多くの臨床データはビッグデータではないため,データ駆動型アプローチの適用がしばしば困難になる.本稿では,COVID-19の臨床データに対して,主にモデル駆動型アプローチを適用し,限られたデータから生物学的に重要な情報がどのように抽出され,また,それらがどのように社会に役立つのかを議論する.