抄録
私たち生物のゲノムには内在性ウイルス様配列(endogenous viral element: EVE)とよばれるウイルス由来の遺伝子配列が存在する.EVEの多くは数百万年以上前に宿主生物のゲノムへと組み込まれたことが知られており,太古のウイルスの「化石」として,存在年代・宿主生物・配列(系統)を知る貴重な手がかりとなる.私たちは近年,RNAウイルスであるボルナウイルス由来のEVEの大規模検索と網羅的な「古ウイルス学」的解析によって,約一億年にわたるボルナウイルス感染の歴史の一端を明らかにした.本稿では上記の研究を概説するとともに,得られた知見の中でも特に「古ウイルス学とウイルス学の接点」を詳説する.