ウイルス
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72 巻, 1 号
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総説
  • 安田 二朗
    2022 年 72 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル フリー
     エボラウイルス病,マールブルグ病,ラッサ熱,クリミア・コンゴ出血熱,南米出血熱は極めて致死性が高いウイルス性出血熱であり,わが国で一類感染症に指定されている.これらの感染症に対する効果的なワクチンや治療薬は現在も尚数えるほどしか存在せず,その効果も限定的である.これらの感染症の原因ウイルスはBSL-4に分類されており,ワクチンや治療薬等の開発や病態解析等に必須である感染実験を行うにはBSL-4施設が必要である.しかしながら,わが国には,これまで平時からBSL-4病原体を用いた実験を行うことができるBSL-4施設は整備されておらず,研究開発を進める上で大きな障壁となっていた.このような状況を打開すべく,長崎大学医学部キャンパスに2021年7月末BSL-4施設が竣工した.今後,厚生労働大臣によるBSL-4施設の指定を受け,特定一種病原体等を搬入した後,全国の研究者が平時から基礎・応用研究に利用することができるわが国初のBSL-4施設として,いよいよ本格稼働することになる.本稿では,施設設置の経緯と施設の概要,そして今後への期待を記す.
  • 李 明恩, 駒 貴明, 岩崎 正治, 浦田 秀造
    2022 年 72 巻 1 号 p. 7-18
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル フリー
     南米出血熱とは南米大陸におけるアレナウイルス科マーマアレナウイルス属のウイルスによる出血熱の総称である.南米出血熱には1. フニンウイルス感染によるアルゼンチン出血熱,2. サビアウイルス感染によるブラジル出血熱,3. ガナリトウイルス感染によるベネズエラ出血熱,4. マチュポウイルス感染によるボリビア出血熱,そして5. チャパレウイルス感染による出血熱の計5つが含まれる.これらのウイルスは系統学的,血清学的,そして地理的にラッサウイルス等が含まれる旧世界アレナウイルスと異なる新世界アレナウイルスに分類される.本稿では,南米出血熱の原因となる新世界アレナウイルスについてその基礎と感染予防・治療法研究の現状を概説する.
  • 松野 啓太, 西條 政幸
    2022 年 72 巻 1 号 p. 19-30
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル フリー
     クリミア・コンゴ出血熱(Crimean-Congo hemorrhagic fever,CCHF)はクリミア・コンゴ出血熱ウイルス(CCHF virus,CCHFV)の感染によって引き起こされる致命率の高い急性熱性疾患であり,エボラウイルス病などとともにウイルス性出血熱に分類される疾患である.CCHF患者はアフリカ,ヨーロッパ,アジアで散発的に発生しており,その発生地域は主なCCHFVの媒介節足動物であるHyalomma属のマダニの分布域と一致する.日本国内での患者発生はない.CCHFVは自然界においては動物とマダニの間で生活環を形成して存在している.家畜を含む幅広い種類の動物種がCCHFV感染に感受性であり,ヒトはCCHFVを保有するマダニの刺咬,あるいはウイルス血症を伴う動物(主にヒツジなどの家畜)との直接的接触で感染する.CCHFは人獣共通感染症である.臨床症状は初期では症状が非特異的熱性疾患であり,重症例では出血,意識障害などの症状が出現する.ダニ媒介脳炎,重症熱性血小板減少症候群,さらには最近北海道で新規ブニヤウイルス感染症として発見されたエゾウイルス感染症など,日本でもダニ媒介性ウイルス感染症が相次いで発生している.世界的に最も重要なダニ媒介性ウイルス感染症であるCCHFについても,その動向を今後も注視していく必要がある.
特集:新型コロナウイルス感染症の数理解析
  • 笹波 美咲, 西浦 博
    2022 年 72 巻 1 号 p. 31-38
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル フリー
     2020年12月から世界中でCOVID-19ワクチン接種が推進されてきた.わが国では2021年2月17日からCOVID-19のワクチン接種が実施され,同年12月1日にはブースター(3回目)接種も開始された.COVID-19の流行対策の政策の決定や評価,変異株によって大きく変化する流行状況の分析において,日本国内での人口レベルでの免疫状況(免疫ランドスケープ)を把握することは欠かせない.本稿では数理モデルを用いた免疫ランドスケープの定量化や予測の方法を紹介する.構築されたモデルでは,COVID-19ワクチン接種率の予測,それぞれの流行株変異株に対するワクチン効果,1回目接種後の免疫の上昇(immune build-up),2・3回目接種後の免疫失活,自然感染による免疫が考慮され,その実装によって年齢群別の免疫保持者割合を把握することが可能になった.
  • 朴 炯基, 禹 周賢, 岩波 翔也, 岩見 真吾
    2022 年 72 巻 1 号 p. 39-46
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル フリー
     生命医科学研究領域では,さまざまな解析手法を駆使したビッグデータ利活用による新しい研究分野が台頭する時代になり,機械学習を中心としたデータ駆動型アプローチが注目を集めている.しかし,例えば,社会が直面している感染症・がん・臓器疾患に目を向けた場合,臨床試験や医療機関から得られる高精度(経時的)医療データには制約があり,その大量取得は容易ではない.特に,新興感染症発生時であれば,限られた症例数から得られる臨床データを用いて,治療戦略を開発したり,公衆衛生上の対策を策定する必要がある.つまり,多くの臨床データはビッグデータではないため,データ駆動型アプローチの適用がしばしば困難になる.本稿では,COVID-19の臨床データに対して,主にモデル駆動型アプローチを適用し,限られたデータから生物学的に重要な情報がどのように抽出され,また,それらがどのように社会に役立つのかを議論する.
トピックス
  • 堀江 真行
    2022 年 72 巻 1 号 p. 47-54
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル フリー
     私たち生物のゲノムには内在性ウイルス様配列(endogenous viral element: EVE)とよばれるウイルス由来の遺伝子配列が存在する.EVEの多くは数百万年以上前に宿主生物のゲノムへと組み込まれたことが知られており,太古のウイルスの「化石」として,存在年代・宿主生物・配列(系統)を知る貴重な手がかりとなる.私たちは近年,RNAウイルスであるボルナウイルス由来のEVEの大規模検索と網羅的な「古ウイルス学」的解析によって,約一億年にわたるボルナウイルス感染の歴史の一端を明らかにした.本稿では上記の研究を概説するとともに,得られた知見の中でも特に「古ウイルス学とウイルス学の接点」を詳説する.
  • 金井 祐太, 納田 遼太郎, 小林 剛
    2022 年 72 巻 1 号 p. 55-62
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル フリー
     レオウイルス科のウイルスは9~12分節に分かれた二本鎖RNAをゲノムとして有しており,乳幼児のウイルス性下痢症の原因ウイルスとして重要なロタウイルスをはじめ,哺乳類,鳥類,両生類,魚類,爬虫類,昆虫,植物,菌類等,広範な宿主に感染する多様なウイルス種が含まれる.レオウイルス科において組換えウイルスの人工合成技術であるリバースジェネティクス系の確立は,そのゲノム構造の複雑性から他のウイルス科に比べ遅れていた.しかし,哺乳類オルソレオウイルスの完全なリバースジェネティクス系が2007年に確立されると,それに次いでブルータングウイルス,ロタウイルス等,公衆衛生上重要なウイルスのリバースジェネティクス系が確立された.最近ではレオウイルス科で最多の12分節ゲノムを持つコルチウイルス属のリバースジェネティクス系についても確立されたことでレオウイルス科の研究において新たな展開が期待される.本稿ではレオウイルス科のリバースジェネティクス系の原理とその応用について概説する.
  • 矢原 耕史
    2022 年 72 巻 1 号 p. 63-66
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル フリー
2021年度杉浦奨励賞論文
  • 岩崎 正治
    2022 年 72 巻 1 号 p. 67-78
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル フリー
     ウイルスは限られた自身の構成要素(核酸,脂質,タンパク質)や宿主細胞機構を巧みに利用し,効率的な増殖を果たしている.ウイルス増殖に寄与するウイルス−ウイルス及びウイルス−宿主相互作用を分子レベルで理解することで,ウイルスが病気を起こすメカニズムや,ウイルス感染症に対する新しい治療法及び予防法の開発につながることが期待される.我々はマイナス鎖RNAウイルスである麻疹ウイルスやラッサウイルスについて,上記相互作用の解析による増殖分子機構の解明や,得られた知見を基にしたワクチン開発研究に取り組んできた.本稿では,これまでの研究で得られた成果について概説する.
  • 佐々木 道 仁
    2022 年 72 巻 1 号 p. 79-86
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル フリー
     新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を含む人獣共通感染症原因ウイルスの多くは野生動物を起源とする.今後も発生することが予想される新たなウイルス性人獣共通感染症への備えとして,さまざまなウイルスの自然宿主,自然界における存続機構と伝播経路に関する知見を蓄積することが重要である.筆者らは,アフリカおよびインドネシアの研究者と共同で,現地のコウモリ,げっ歯類動物,霊長類動物および節足動物が保有するウイルスを対象とした研究を実施している.これまでに,上記の動物から,人に病気を起こすウイルスやこれまで知られていない新規ウイルスを多数見出した.本稿では,パルボウイルスとロタウイルスに関する成果を中心として紹介したい.
  • 古瀬 祐気
    2022 年 72 巻 1 号 p. 87-92
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/10/27
    ジャーナル フリー
     感染症はいまなお人類の公衆衛生上の脅威であり,特にウイルス感染症に関しては病態や疫学など不明な点が多いのが現状である.私は,これまで医師・基礎研究者・行政アドバイザーなどさまざまな立場に身を置きこの問題を扱ってきた.基礎研究に関しては,特にインフルエンザウイルスをはじめとする呼吸器ウイルスの感染伝播ダイナミクスや遺伝子変異の解析を通じて,ウイルス感染症のヒト集団における実態を定量的に把握するためのマクロな理論研究や,細胞内におけるウイルスの生活環や病原性のメカニズムを明らかにするためのミクロな分子生物学研究を行っている.また,エボラウイルス感染症やラッサ熱のアウトブレイク時にはWHOの感染症コンサルタントとして現地で感染症対策に当たったり,2020年2月からは厚生労働省のクラスター対策班参与として新型コロナウイルス感染症の疫学調査や統計解析に携わるなどして,感染拡大を制御するための公衆衛生的なアドバイスを行政組織に対して学術的な見地から行っている.臨床ウイルス学・疫学・数理生物学・進化学・遺伝学・分子生物学を統合させた学際的な研究を行うことでウイルス感染症の統合的な理解を目指しており,研究によって得られた知見や成果を現場へと還元し最終的にはウイルス感染症の制御に資することを目標としている.
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