2008 年 17 巻 1 号 p. 13-17
【背景】静脈血栓塞栓症(VTE)は悪性腫瘍患者に多く,肺塞栓症(PE)の塞栓源となって突然死の原因となる.悪性腫瘍患者の治療中とくに化学・放射線療法の際のPEに対する適切な予防法の確立は重要である.【対象と目的】2003年 1 月より2007年 3 月までに当院に入院したVTE 120例のうち,悪性腫瘍に対する化学・放射線療法を要する症例を対象とし,基礎疾患の治療上,抗凝固療法に加えてIVCフィルターが肺塞栓症予防に有効か否か検討した.【結果】悪性腫瘍を有する症例は52例で,そのうち,長期的に化学放射線療法を行う患者は39例であった.悪性腫瘍の進行度は,Stage I:7 例,II:4 例,III:11例,IV:17例で,進行癌であることが多かった.39例のうち30例は抗凝固療法のみ(非フィルター群)で対応し,残りの 9 例は抗凝固療法に加え永久型IVCフィルター(フィルター群)を留置した.平均16.9カ月の観察期間中,症候性PEを発症したものがフィルター群に 1 例あったが,非フィルター群にはなかった.また,抗凝固による出血性合併症をおこしたものはなかった.遠隔期血栓の状況が確認できた症例が27例(フィルター群 7 例,非フィルター群20例)あったが,血栓が増加する症例は予後不良の傾向があり,いったん血栓が消失しても,癌の再発とともに血栓形成がみられたものが 3 例あった.一方,経過中17例が死亡したが,肺塞栓症による死亡はなく全例癌死であった.【結論】IVCフィルターは悪性腫瘍患者の化学放射線療法中のPEを予防しているとはいえなかった.むしろ血栓は悪性腫瘍の病状に関係すると考えられた.