日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
原著
腹部大動脈瘤破裂術後abdominal compartment syndrome(ACS)の予防と対策
相澤 啓坂野 康人大木 伸一齊藤 力三澤 吉雄
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ジャーナル オープンアクセス

2010 年 19 巻 6 号 p. 657-663

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抄録
【目的】腹部大動脈瘤破裂手術の際,閉腹後に腸管の高度浮腫や,血腫などによって腹腔内圧が上昇し発症するabdominal compartment syndrome(腹部コンパートメント症候群,以下ACS)は致命的な合併症として知られている.ACSの予防のため腹壁の2期的閉腹やACSを発症した際の対策として再開腹減圧が有効と言われており当院での症例に対し検討を行った.【方法】腹部大動脈瘤破裂手術の際に腸管の浮腫が強く閉腹困難と判断した症例は切り開いた点滴パックを腹壁に縫着し仮閉腹とした.また初回手術時に閉腹可能であっても術後にACSを発症したと判断した症例は前述と同様の仮閉腹法を用い減圧を行った.【結果】2006年1月~2008年11月の間に手術を行った36例の破裂性腹部大動脈瘤(内腸骨動脈瘤破裂2例を含む)を対象とした.初回手術時に閉腹せず仮閉腹とした症例は36例中7例で,3例を失ったが,4例は閉腹が可能でACSの再発は認められなかった.36例中29例は1期的に閉腹を行った.このうち26例は再開腹を必要とせず,3例を失ったがACSとの関連は否定的であった.1期的に閉腹を行った29例中3例は閉腹後にACSを発症したと判断し再開腹減圧を行った.1例は人工血管感染のため死亡したが,2例は再閉腹を行い軽快退院となった.多変量Logistic回帰にてショック症例(収縮期血圧90 mmHg以下),術中最低base excess(以下BE)<-13の症例,Cr>2.0 mg/dlは開腹処置の危険因子であった.【結論】当施設での症例でACSのため死亡した症例は認められず,ACS予防のための2期的閉腹やACSを発症した際の開腹減圧は有効な治療であると考えられた.
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