抄録
要旨:症例は93 歳女性.慢性心房細動の既往がある.突然の左上肢の脱力,疼痛,痺れを主訴に救急搬送された.左上肢に冷感,チアノーゼを認め,造影CT で左鎖骨下動脈の造影不良を認め,塞栓症による急性動脈閉塞症と診断した.左上腕動脈よりバルーンカテーテルによる塞栓除去術を施行したが,術中に意識レベルが低下,下顎呼吸,除脳硬直をきたした.頭部MRI で橋,小脳,両視床に梗塞巣を,MRA で脳底動脈の描出不良を認め,脳幹梗塞と診断した.有効な治療法がなく,術後約10 時間後に死亡した.一般に塞栓症による上肢の急性動脈閉塞はバルーンカテーテルによる塞栓除去術で予後良好と考えられているが,今回われわれは,塞栓除去術により脳幹梗塞を合併し死亡した症例を経験したので報告する.