日本血管外科学会雑誌
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総説
急性大動脈解離に対するステントグラフト内挿術
内田 徹郎 貞弘 光章
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ジャーナル オープンアクセス

2018 年 27 巻 4 号 p. 337-345

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抄録

胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)は,胸部大動脈瘤のみならず大動脈解離の治療体系に大きなパラダイムシフトをもたらした.従来,Stanford B型急性大動脈解離は保存的治療がスタンダードであったが,合併症を伴う急性B型解離に対してはTEVARによる積極的な急性期外科治療介入が普及し,良好な短期成績が報告されている.さらに最近の知見では,TEVARは長期的にも偽腔の血栓化を促進し,胸部大動脈の血管径拡大を予防する大動脈リモデリングに有効であると報告されており,合併症を有する急性B型解離に対するTEVARは急性期治療の第一選択として確立されてきた.一方,急性期に保存的治療を受けた後の遠隔期に大動脈径拡大による解離性大動脈瘤化を呈し,外科治療を必要とする症例が少なからず存在する.こうした瘤化や破裂など遠隔期の大動脈関連イベントを予防する観点から,合併症を認めない急性B型解離に対してもTEVARが考慮されるようになったが,遠隔期予後を含めたエビデンスの蓄積はいまだ十分ではなく,わが国をはじめ欧米でも第一の治療法としては確立されていないのが現状である.急性A型解離は非常に重篤な疾患だが開胸手術の成績は比較的良好であり,わが国のみならず全世界的にも急性A型解離に対する治療のスタンダードは開胸下の人工血管置換術である.逆行性A型解離における下行大動脈へのエントリー閉鎖を目的としたTEVARはガイドラインにも収載され普及しつつあるが,上行大動脈へのTEVARは開胸手術が困難と考えられるハイリスク症例を対象としたレスキュー目的で限定的に行われており,一般的には普及していない.急性B型解離は保存加療,急性A型解離は緊急開胸手術という従来のシンプルな治療体系は,確実に変貌を遂げようとしている.エビデンス蓄積に基づいた治療を適切に選択してゆくことが重要である.

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