日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
27 巻, 4 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
総説
  • 朝倉 利久
    2018 年 27 巻 4 号 p. 303-308
    発行日: 2018/08/16
    公開日: 2018/08/15
    ジャーナル オープンアクセス

    傍腎動脈腹部大動脈瘤(pararenal abdominal aortic aneurysm; PRAAA)に対するendovascular aortic repair(EVAR)は,欧米を中心にFenestrated EVAR(F-EVAR),Chimney(Snorkel),EVAR(C-EVAR, S-EVAR),Branched EVAR(B-EVAR)が施行され,その良好な初期成績が報告されるようになってきた.本邦においては未承認であるが現在世界的にPRAAAに対して臨床応用されているendovascular aneurysm sealing(EVAS)といった新しい概念による治療法を含めたステントグラフト関連企業のpipelineを紹介する.一方,PRAAAに対するEVARは長期成績が不明のため開腹人工血管置換術(GR)を選択する施設も多く,当院や他施設のGRを第1選択としたreal worldの手術成績と長期成績は良好であった.PRAAAに対するEVARは長期成績および追加治療率などを考慮すると現時点においてはGRが第1選択と考えられる.しかしながら,対象症例数は少数ではあるがGR耐術不能症例は確かに存在し,high-risk症例においてはEVARはGRと同等の長期成績が期待される.PRAAAの更なる手術成績の向上のためには,血管外科医がGRとEVARの両者に精通し,症例に応じたtailor-made手術を施行することが重要である.

  • 内田 徹郎, 貞弘 光章
    2018 年 27 巻 4 号 p. 337-345
    発行日: 2018/08/29
    公開日: 2018/08/29
    ジャーナル オープンアクセス

    胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)は,胸部大動脈瘤のみならず大動脈解離の治療体系に大きなパラダイムシフトをもたらした.従来,Stanford B型急性大動脈解離は保存的治療がスタンダードであったが,合併症を伴う急性B型解離に対してはTEVARによる積極的な急性期外科治療介入が普及し,良好な短期成績が報告されている.さらに最近の知見では,TEVARは長期的にも偽腔の血栓化を促進し,胸部大動脈の血管径拡大を予防する大動脈リモデリングに有効であると報告されており,合併症を有する急性B型解離に対するTEVARは急性期治療の第一選択として確立されてきた.一方,急性期に保存的治療を受けた後の遠隔期に大動脈径拡大による解離性大動脈瘤化を呈し,外科治療を必要とする症例が少なからず存在する.こうした瘤化や破裂など遠隔期の大動脈関連イベントを予防する観点から,合併症を認めない急性B型解離に対してもTEVARが考慮されるようになったが,遠隔期予後を含めたエビデンスの蓄積はいまだ十分ではなく,わが国をはじめ欧米でも第一の治療法としては確立されていないのが現状である.急性A型解離は非常に重篤な疾患だが開胸手術の成績は比較的良好であり,わが国のみならず全世界的にも急性A型解離に対する治療のスタンダードは開胸下の人工血管置換術である.逆行性A型解離における下行大動脈へのエントリー閉鎖を目的としたTEVARはガイドラインにも収載され普及しつつあるが,上行大動脈へのTEVARは開胸手術が困難と考えられるハイリスク症例を対象としたレスキュー目的で限定的に行われており,一般的には普及していない.急性B型解離は保存加療,急性A型解離は緊急開胸手術という従来のシンプルな治療体系は,確実に変貌を遂げようとしている.エビデンス蓄積に基づいた治療を適切に選択してゆくことが重要である.

原著
  • 小林 平, 濱本 正樹, 小澤 優道, 海氣 勇気
    2018 年 27 巻 4 号 p. 267-272
    発行日: 2018/07/23
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】重症下肢虚血に対する静脈グラフトを用いた遠位バイパスは長期開存という面で優れている.しかしながらグラフトの狭窄により,遠隔期に開存が得られない症例もある.今回遠位バイパス術後のグラフト狭窄に対する血管内治療の成績を検討した.【方法】2009年4月から2016年10月まで当院で静脈グラフトを用いて施行した遠位バイパス術315グラフトのうち,遠隔期にグラフトに対して血管内治療を施行した50グラフト(17%)を対象とした.【結果】血管内治療は2.5~3.0 mmのバルーンを使用して,低圧,長時間拡張を行った.初回手技成功は48グラフト(96%,2グラフトは過拡張によりグラフト破綻)であった.平均観察期間は42カ月,1グラフトあたりの平均血管内治療回数は1.9回であった.遠隔期に10例でグラフト閉塞し,2次開存率は1年84%,3年77%であった.大切断回避率は3年95%であった.【結論】遠位バイパス術後のグラフト狭窄に対する血管内治療の成績は良好であった.グラフトへの血管内治療は外科的な再血行再建術以外のオプションとなる可能性がある.

  • 藤岡 俊一郎, 入澤 友輔, 宝来 哲也, 保坂 茂
    2018 年 27 巻 4 号 p. 281-287
    発行日: 2018/08/05
    公開日: 2018/08/08
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】DeBakey 3b型,広範偽腔開存型慢性B型大動脈解離に対する胸部ステントグラフト内挿術(以下,TEVAR)の至適手術時期を明らかにするために,その治療成績と大動脈のリモデリングを検討した.【方法】慢性B型大動脈解離に対してTEVARを施行した12例を対象とし,手術時期が発症3カ月から1年未満を慢性早期群(5例),発症後1年以降を慢性後期群(7例)とし,術後CTの経時的変化から評価した.【結果】両群ともに術後対麻痺,脳梗塞,在院死亡を認めず,全例で胸部下行大動脈偽腔の血栓化と偽腔径の経時的縮小,胸部下行大動脈径の減少を認め,慢性早期群と慢性後期群との間で大動脈のリモデリングに差を認めなかった.【結論】慢性B型大動脈解離に対してTEVARを行い,良好な中期成績およびaortic remodelingを得た.発症から1年以上経過した慢性後期群においてもTEVARは有用な治療戦略と考える.

    Editor's pick

  • 松下 恭, 清水 理葉, 下山 正博, 巴 崇, 長尾 萌子, 安 隆則, 堀 貴行, 緒方 孝治, 福田 宏嗣
    2018 年 27 巻 4 号 p. 313-317
    発行日: 2018/08/28
    公開日: 2018/08/28
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】腋窩動静脈を用いた前胸部バスキュラーアクセス作成術(axillo-axillary loop graft; AALG)の経過および予後につき検討を行う.【方法】2012年9月より2016年7月までにポリウレタン製人工血管を使用して腋窩動静脈を用いたAALGを8例(6例はarteriovenous graft; AVG,2例はarterioarterial graft; AAG)に作成した.【結果】透析導入から前胸部アクセス作成術までの期間は15.0±11.3年であった.一次開存率は1年で66.7%,3年で50%,二次開存率は1年で88.3%,3年で66.7%であった.【結論】両上肢または下肢の血管でのアクセス作成が困難となった場合に皮下トンネルカフ付カテーテル留置が選択されることが多いが,AALGも一つの選択肢として有用であると考えられた.

症例
  • 加藤 一平, 岩倉 具宏, 戸口 幸治, 浅川 紀子, 津村 康介
    2018 年 27 巻 4 号 p. 259-262
    発行日: 2018/07/12
    公開日: 2018/07/12
    ジャーナル オープンアクセス

    太い異所性腎動脈(ARA)を有した馬蹄腎合併の腹部大動脈瘤(AAA)に対し腹部ステントグラフト内挿術(EVAR)を選択する場合,ARA血行再建とType IIエンドリーク予防の必要性は議論の分かれる点である.今回われわれは,血行再建を行わず,Type IIエンドリーク予防処置を行ったEVARを施行し良好な結果を得たので報告する.76歳の女性で5.5 mm径のARA一本を有した馬蹄腎合併のAAAを認めた.術前腎機能は正常で両側腎動脈は通常位置から分岐していた.ARAをコイル塞栓術しさらにその起始部を覆うようにアオルタエクステンダーを留置した.その後腎動脈下から通常のEVARを行った.術後造影CTで峡部を中心とした腎梗塞を起こしたが,ARAからのType IIエンドリークは予防できた.腎機能も温存でき,太いARAを有した馬蹄腎合併のAAAに対してもEVARを安全かつ効果的に行える可能性が示唆された.

  • 田畑 光紀, 崔 尚仁, 佐藤 誠洋, 高橋 範子, 佐伯 悟三
    2018 年 27 巻 4 号 p. 263-266
    発行日: 2018/07/13
    公開日: 2018/07/18
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    鈍的外傷による血管損傷はまれであり,なかでも総腸骨動脈に断裂を認めることはほとんどない.症例は58歳男性,作業中に右下腹部を強打し,強い右下腹部痛のため救急搬送された.来院時ショックバイタル,右下肢冷感を認め,右大腿動脈は触知しなかった.造影CT検査で,右総腸骨動脈損傷を認めた.循環動態安定のためハイブリッド手術室で左大腿動脈より大動脈閉塞バルーンを挿入,開腹した.術中所見で右総腸骨動脈は断裂し,断裂部に高度石灰化を認めた.またS状結腸およびS状結腸間膜損傷を認めた.総腸骨動脈は中枢,末梢を縫合閉鎖し,FFバイパス術を行い,S状結腸切除術を施行した.術後は右下肢の虚血再灌流による横紋筋融解症を生じ,一時的に血液浄化療法を導入したが,術後66日目に独歩で退院した.総腸骨動脈断裂による重篤な出血性ショック状態に大動脈閉塞バルーンを用いることで救命,救肢しえた.

  • 菅野 靖幸, 清水 理葉, 武井 祐介, 堀 貴行, 小川 博永, 福田 宏嗣
    2018 年 27 巻 4 号 p. 273-276
    発行日: 2018/07/31
    公開日: 2018/07/27
    ジャーナル オープンアクセス

    感染性大動脈瘤の病原菌はしばしば不明であることが臨床的に経験される.不明である原因菌の正体として,近年さまざまな新規病原菌が多数報告されている.今回,われわれは感染性大動脈瘤の起因菌としては稀とされるHelicobacter cinaediが病原菌と診断した感染性大動脈瘤の2症例を経験したのでここに報告する.

  • 原田 英之, 佟 暁寧, 栗山 直也, 木村 文昭
    2018 年 27 巻 4 号 p. 277-280
    発行日: 2018/08/09
    公開日: 2018/08/08
    ジャーナル オープンアクセス

    感染性腹部大動脈瘤(IAAA)は,まれで,予後不良な疾患である.症例は,86歳女性で発熱があり,腹痛と背部痛が出現したため,当院に救急搬送された.血液検査でWBC 12300/mm3, CRP 16.5 mg/dLと高値で抗生剤治療を開始した.造影CTの結果,傍腎動脈および破裂性嚢状IAAAの診断で緊急手術となった.瘤は周囲組織と癒着していた.腎動脈分枝直上の大動脈を遮断し,大動脈内を見ると後壁に4.0×2.0 cmの内膜欠損孔があり膿が貯溜していた.両側の腎動脈にballoon catheterを留置し,冷却した生理食塩水を還流した.大動脈内を洗浄後,内膜欠損孔をウシ心膜パッチにて閉鎖した.大動脈切開部を閉鎖し大網を充填した.術後発熱,背部痛も消失し,CRPも抗生剤投与により陰性化した.術中採取した膿の培養は菌陰性であった.退院後11カ月間経口抗生剤を投与した.術後7年目の現在経過良好である.

  • 中村 康人, 熊田 佳孝, 水野 裕介, 増田 暁夫
    2018 年 27 巻 4 号 p. 289-292
    発行日: 2018/08/05
    公開日: 2018/08/08
    ジャーナル オープンアクセス

    IgG4-RDは,血清IgG4高値と組織でのIgG4陽性形質細胞浸潤・線維化を特徴とする疾患群であり,その中でもIgG4関連胸部大動脈疾患は極めてまれである.今回,心タンポナーデを伴う偽腔閉塞型大動脈解離と考えられ緊急手術を行ったが,術後にIgG4-R ITAAと診断された症例を経験したため報告する.症例は62歳男性,繰り返す嘔吐で救急搬送され,心タンポナーデを伴う偽腔閉塞型A型解離と診断し緊急手術を行った.術中所見で,上行大動脈は著明に肥厚していたが,大動脈解離は認めなかった.病理組織診断では,IgG陽性形質細胞の浸潤を認め,30%がIgG4陽性であった.術後血液検査では,血中IgG4は基準値を超えており,IgG4-R ITAAと診断した.ステロイド投与なしで外来通院中であるが,多彩な病変を合併する可能性があり,長期的な経過観察が必要である.

  • 桑野 彰人, 野上 英次郎, 伊藤 学, 柚木 純二, 古川 浩二郎, 西田 誉浩
    2018 年 27 巻 4 号 p. 293-296
    発行日: 2018/08/16
    公開日: 2018/08/15
    ジャーナル オープンアクセス

    膝窩静脈性血管瘤は稀な疾患であるが,時として致死的な血栓塞栓症をきたす場合がある.症例は19歳男性.運動時に右臀部を強打し,同部位に巨大な血種を形成,数日後に当院整形外科に入院し右臀筋内血種除去術を施行された.手術翌日に,肺塞栓症に加え脳梗塞を発症した.未分画ヘパリンによる抗凝固療法を開始したが,再度重篤な肺塞栓および脳梗塞を発症し,心停止をきたし脳浮腫に至った.精査の過程で卵円孔の開存,右大腿から膝窩上部への深部静脈血栓と血栓を伴う右膝窩静脈性血管瘤(3×4 cm)を認めた.塞栓源の除去に加え今後の再発予防目的に当科に紹介となり,膝窩静脈性血管瘤切除術を施行した.術後は,血栓塞栓症の再発は認めなかった.膝窩静脈性血管瘤は致死的な血栓塞栓症の原因となることがあるので,早期の適切な治療介入が必要である.抗凝固療法のみでは治療が不十分となることもあるので,速やかな外科的介入を考慮する必要がある.

  • 小林 龍宏, 内野 英明, 中村 健, 金 哲樹, 島貫 隆夫
    2018 年 27 巻 4 号 p. 297-301
    発行日: 2018/08/16
    公開日: 2018/08/15
    ジャーナル オープンアクセス

    大動脈気管支瘻は稀な病態だが,早急な外科的治療がなされなければ致命率は極めて高い.大動脈気管支瘻に対する開胸手術は今日においても高い周術期死亡率であるが,一方で近年は胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)の良好な成績が報告されている.今回われわれは,下行大動脈瘤破裂による大動脈気管支瘻に対して,緊急でTEVARを施行した2例を経験した.症例1は81歳男性.胸部大動脈瘤で上行弓部全置換術後.症例2は78歳男性.慢性腎不全で血液透析患者.2例とも主訴は喀血で,CTで下行大動脈瘤破裂による大動脈気管支瘻の診断となり緊急でTEVARを施行した.術後抗生剤を継続し,感染所見やエンドリークを認めず経過は良好であった.大動脈気管支瘻の再発やステントグラフト感染などのリスクはあるものの,低侵襲かつ迅速なTEVARは,下行大動脈瘤破裂による大動脈気管支瘻に対する有効な救命手段と考える.

  • 前田 和樹, 高橋 信也, 岡田 健志, 三井 法真, 片山 桂次郎, 末田 泰二郎
    2018 年 27 巻 4 号 p. 309-312
    発行日: 2018/08/16
    公開日: 2018/08/15
    ジャーナル オープンアクセス

    腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療(EVAR)の遠隔期の問題点として,エンドリーク(EL)による瘤拡大がある.われわれは,Type 1a ELの発生と瘤拡大を来したため血管内治療を行った1例を経験した.症例は88歳男性.腎動脈下腹部大動脈瘤に対してEVARを施行された2年半後に,大動脈瘤径の拡大を認めた.CTおよび血管造影にてType 1aおよびType 2 ELを診断した.Type 1a ELに関して,中枢側ランディングゾーンが腎動脈下に十分にとれないが,右腎動脈分岐部が15 mm左よりも中枢側であることから,アオルタ・エクステンションに左腎動脈に合わせた開窓を行って留置した.術後Type 1a ELは消失した.本法は,EVAR術後のType 1aに対する治療法のオプションとなり得ると考えられた.

  • 大城 規和, 野口 権一郎
    2018 年 27 巻 4 号 p. 319-322
    発行日: 2018/08/29
    公開日: 2018/08/29
    ジャーナル オープンアクセス

    仮性上腕動脈瘤は外傷,医原性,感染を原因として報告されている.今回,感染性心内膜炎(Infective Endocarditis: IE)治癒後に発症した感染性仮性上腕動脈瘤を経験したので報告する.症例は77歳男性,1年前にStreptococcus agalactiaeGroup B)を起炎菌としたIE罹患後,多発脳梗塞および左中大脳動脈瘤破裂を併発した.脳動脈瘤切除およびクリッピング術後3カ月抗生剤治療を行い,血液培養陰性,CRPと白血球の正常化を確認し退院となった.1カ月前から右上腕肘部が急速に腫脹し受診,CTで上腕動脈瘤と診断した.急速拡大する動脈瘤は破裂や塞栓源となりうるため手術を施行した.動脈瘤を切除し自家静脈による血行再建を行った.病理組織学所見と抗生剤治療の既往からIE治癒後に続発した感染性仮性上腕動脈瘤と診断した.

  • 関 功二, 湖東 慶樹, 辻本 優, 横川 雅康
    2018 年 27 巻 4 号 p. 323-326
    発行日: 2018/08/29
    公開日: 2018/08/29
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は31歳,男性.自動車の助手席に乗車中に遭遇した交通事故後に強い腹痛を訴えるため救急搬送された.搬送時はショック状態で,両側大腿動脈の拍動は触知できず両下肢色調は蒼白で冷感を認めた.造影CTでは小腸,結腸周囲に血腫形成と腹腔内遊離ガスを認めたことに加え,下腸間膜動脈直下の腹部大動脈に大きな内膜剝離を認め,剝離部位より末梢の大動脈は虚脱を認めた.外傷性腸管損傷および外傷性腹部大動脈損傷による下肢虚血の診断で緊急手術を施行し,小腸および結腸切除と腹部大動脈剝離内膜切除を施行した.術後下肢虚血症状は消失し,造影CTでは剝離内膜の残存を認めず,内膜切除部位の拡張や狭窄も認めなかった.鈍的外傷による腹部大動脈損傷は稀だが,腸管損傷や実質臓器損傷に合併することも多く致命的となるため,注意深い診断と適切で速やかな治療が必要である.

  • 長崎 和仁, 朝見 淳規, 白杉 望
    2018 年 27 巻 4 号 p. 327-331
    発行日: 2018/08/29
    公開日: 2018/08/29
    ジャーナル オープンアクセス

    大腿膝窩動脈領域完全閉塞病変に対しては,自家静脈バイパス術が第一選択とされるが,静脈条件が不良である場合には難渋する.今回われわれはRing-stripperを用いた浅大腿動脈血栓内膜摘除術と自家静脈バイパス術を併用した1症例を経験した.症例は,67歳男性.左下肢安静時痛を認め,当院受診となった.下肢動脈CTA検査にて,左浅大腿動脈起始部から膝窩動脈3分枝直上にまで及ぶ完全閉塞を認めた.膝窩部左大伏在静脈は静脈条件良好であったが,その他の伏在静脈は壁肥厚を伴った狭窄病変が散在し,条件不良であった.左大伏在静脈を全長にわたってグラフトとして使用することは困難であると判断し,浅大腿動脈領域は血栓内膜摘除術を,膝上膝窩動脈から後脛骨動脈にかけては自家静脈バイパス術を施行した.術後1年目の下肢動脈CTA検査にて狭窄病変を認めたため,血管拡張術を追加施行した.術後2年経過しているが,症状もなく経過している.

  • 福廣 吉晃, 小川 達也, 北山 仁士, 溝端 康光
    2018 年 27 巻 4 号 p. 333-336
    発行日: 2018/08/29
    公開日: 2018/08/29
    ジャーナル オープンアクセス

    膝窩動脈損傷は,骨傷や脱臼との関連が指摘されており,本邦ではこれまで143例の症例報告がなされている.その中でも鈍的外傷により骨傷や脱臼を伴わない膝窩動脈損傷の報告例は15例であり稀である.症例は47歳,男性,就業中に下肢を挟まれ受傷した.右大腿から膝窩にかけて疼痛と圧痛を認めたが,明らかな膝関節脱臼,靭帯損傷,骨傷は認められなかった.膝窩動脈以下の動脈拍動は触知せず,造影CT検査にて膝窩動脈の高度狭窄を認めたため,自家静脈によるバイパス術を行い良好な結果が得られた.膝関節脱臼,靭帯損傷,骨傷を伴わない鈍的下肢外傷の症例でも動脈損傷をきたすことがあり注意が必要である.

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