2019 年 28 巻 1 号 p. 79-84
上行大動脈の浮遊血栓症は稀であるが,悪性腫瘍の合併,化学療法施行に伴う血栓形成傾向がその一因となったと推察される症例を経験した.症例は61歳男性.2年前に直腸癌に対する手術を施行,術後の補充化学療法中であったが,突然のめまいと協調運動不全を発症.小脳梗塞の診断で入院となった.CT上塞栓源だと疑われる上行大動脈壁に付着する腫瘤を確認した.さらなる塞栓症の原因となると判断し緊急上行大動脈置換術を施行した.腫瘤は上行大動脈壁の動脈硬化病変に伴う潰瘍底に付着していた.病理組織上の診断は混合血栓であり,急速に形成されたものであると予想された.悪性腫瘍合併症例,化学療法施行中の症例における血栓塞栓症は知られた病態であるが,塞栓源として心腔内のみならず,大動脈内での血栓形成も念頭に入れて精査を行う必要がある.