2020 年 29 巻 4 号 p. 271-274
症例は67歳男性.右外腸骨動脈–右浅大腿動脈バイパス術後32日目に右大腿創部より膿の流出を認めた.創部の培養からMicrococcus luteusを検出.人工血管感染と診断した.人工血管温存目的でVacuum assisted closure(VAC)療法を開始した.Double sponge technique, 50 mmHgの低圧持続吸引で行った.VAC開始後,徐々に人工血管を覆うように良好な肉芽形成を認め,VAC開始49日後には人工血管はすべて肉芽で覆われ,最終的に創部は完全に閉鎖した.感染から4年を経過した現在でも感染の再燃も認めていない.その後,鼠径部の人工血管感染を2例経験したが,すべて同様のVAC療法のみで出血などの合併症なく,創傷治癒に成功した.VAC療法は人工血管を温存可能で低侵襲かつ簡便であり,今後,鼠径部の人工血管感染に対する治療戦略の主流になると考えられた.