-
小川 達也, 林田 智博, 加藤 源太郎, 山本 修, 七条 健
2020 年29 巻4 号 p.
193-196
発行日: 2020/07/10
公開日: 2020/07/10
ジャーナル
オープンアクセス
症例は84歳,男性.1年間に2度の右大脳半球の脳梗塞を発症した.CTにて,不整な粥腫により内腔が狭窄し,径が17 mm大に拡大した腕頭動脈を認めた.遊離粥腫による塞栓が脳梗塞の原因と考えられた.血管径が拡大し,脳保護が難しいことから血管内治療は不適と判断した.手術は直視下で腕頭動脈を結紮し,腋窩–腋窩動脈交叉バイパス術で血行再建を実施した.術後経過は良好で,脳合併症は認められず,第6病日に退院した.腕頭動脈病変が原因と診断された脳虚血疾患に対して本法は低侵襲かつ有効な方法と考えられた.
抄録全体を表示
-
金山 拓亮, 橋詰 賢一, 本多 正徳, 髙木 秀暢, 池端 幸起, 志水 秀行
2020 年29 巻4 号 p.
197-201
発行日: 2020/07/10
公開日: 2020/07/10
ジャーナル
オープンアクセス
腹部大動脈瘤,左内腸骨動脈瘤に左遺残坐骨動脈を伴う稀な合併症例を認めたため報告する.症例は74歳男性.整形外科手術後の造影CTにて腹部大動脈瘤,左内腸骨動脈瘤,左遺残坐骨動脈を診断され,当科紹介となった.下肢血流は遺残坐骨動脈により保持していたため,遺残坐骨動脈の血流維持と瘤の治療に対して腸骨分枝用ステントグラフト(GORE Excluder Iliac Branch Endoprosthesis; IBE)を使用する方針とした.術後のType IIエンドリーク(EL)を予防する目的で内腸骨動脈瘤からの分枝動脈に対して,コイル塞栓を先行し,2週間後にIBEを挿入した.最終造影で明らかなELはなく,術後造影CTでも左遺残坐骨動脈血流は良好であった.現在術後1年半経過したが左遺残坐骨動脈血流は良好で瘤化や血栓形成はない.IBE使用による遺残坐骨動脈の温存は一定条件下に有用な方法と考えられた.
抄録全体を表示
-
植村 友稔, 澤崎 優, 泊 史朗, 藤井 太郎
2020 年29 巻4 号 p.
203-207
発行日: 2020/07/10
公開日: 2020/07/10
ジャーナル
オープンアクセス
症例は72歳,男性.突然の左上肢痛にて当科受診となった.造影CTにて左上腕動脈閉塞と弓部大動脈内血栓を認めたため,左上腕動脈緊急血栓除去術を施行した.術翌日歩行障害,呂律難を来たし,頭部MRIにて小脳梗塞を認めた.抗凝固薬内服を開始し,症状安定していたが,術後104日目に高次脳機能障害を認めた.頭部MRIにて脳腫瘍像,造影CTにて弓部大動脈内血栓様構造物の増加,左副腎,脾臓,両腎に梗塞像と腫瘍像を認め,血管内腫瘍による全身血行性転移,および腫瘍塞栓症が疑われた.全身状態不良のため手術適応外と判断し,緩和ケアを行い術後111日目に上腸管膜動脈塞栓症にて死亡された.剖検所見では弓部大動脈にポリープ状腫瘍を認め,病理学的に内膜肉腫の診断となった.腫瘍細胞を脳,脾臓,腎臓,副腎でも認めた.血管内腫瘍は稀な疾患であるが,急性血栓閉塞症の一因となりうることを留意することが重要である.
抄録全体を表示
-
玉川 友樹, 舩津 俊宏, 横山 淳也, 小野 恵, 中尾 彰太, 白川 幸俊
2020 年29 巻4 号 p.
209-213
発行日: 2020/07/17
公開日: 2020/07/17
ジャーナル
オープンアクセス
今回,多発外傷に伴う鈍的外傷によって生じた稀な仮性肺動脈瘤および大動脈内膜損傷の一手術例を経験したので報告する.症例は65歳の男性.単独バイク事故で救急搬送となった.全身精査の結果,外傷性クモ膜下出血,腹腔内出血に加えて左仮性肺動脈瘤と大動脈峡部内膜損傷が認められた.まず穿頭術および開腹止血術が行われ,その術後経過からヘパリン使用が可能と判断された第10病日に,ウシ心膜パッチによる左肺動脈修復術を施行した.左肺動脈本幹は半周以上にわたり断裂していた.次いで第17病日に,胸部大動脈ステントグラフト内挿術を施行した.術後経過は良好で,第72病日にリハビリテーション病院へと転院となった.術後8カ月以上経過した現在も軽度の後遺症はあるものの,仮性肺動脈瘤や大動脈瘤の再発なく元気に外来通院している.
抄録全体を表示
-
中島 英彦, 中村 隆, 三宅 啓介, 山倉 拓也, 合田 晴一
2020 年29 巻4 号 p.
215-218
発行日: 2020/07/17
公開日: 2020/07/17
ジャーナル
オープンアクセス
遺残坐骨動脈は稀な先天性の血管形成異常で約半数に瘤化を認めるとされる.動脈瘤形成に伴う症状として,血栓塞栓による下肢虚血の報告は散見されるが,破裂は稀である.今回,外傷を契機に遺残坐骨動脈瘤破裂をきたした一例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
抄録全体を表示
-
石田 敦久, 森田 一郎, 磯田 竜太郎, 間野 正之
2020 年29 巻4 号 p.
219-223
発行日: 2020/07/17
公開日: 2020/07/17
ジャーナル
オープンアクセス
破裂性腹部大動脈瘤術後abdominal compartment syndrome(ACS)に対してABTHERA治療システムが有効であった1例を経験したので若干の文献的考察を含めて報告する.症例は71歳男性.腹痛にて救急搬送され,単純CTにて破裂性腹部大動脈瘤と診断された.緊急EVAR施行した術後にACS発症し,開腹減圧術と腹部Negative Pressure Wound Therapy(NPWT)の1方法であるABTHERA治療システムを施行した.本システムは,腸管浮腫・浸出液の管理,腸管色調観察・閉腹手技が容易であった.
抄録全体を表示
-
堀部 達也, 野口 亮, 高木 淳, 細田 康仁, 岡本 健, 福井 寿啓
2020 年29 巻4 号 p.
225-229
発行日: 2020/07/17
公開日: 2020/07/17
ジャーナル
オープンアクセス
閉塞性動脈硬化症に対するカテーテル治療後に発症したステント留置部感染性仮性動脈瘤に対する手術例を経験した.症例は68歳女性.両下肢の閉塞性動脈硬化症に対して右外腸骨動脈および左総腸骨動脈から外腸骨動脈にかけてステント留置を施行された.ステント留置後4カ月後に持続する左背部痛があり,背部痛自覚4日後に近医を受診.発熱と炎症反応の上昇を認め,血液培養でグラム陽性球菌が検出された.また造影CTで,左総腸骨動脈起始部から外腸骨動脈にかけて低吸収域および造影剤漏出の所見を認め当科紹介となった.感染性仮性動脈瘤の診断で緊急で腋窩–両大腿動脈バイパス術,感染瘤切除術,大網充填術を施行した.術後経過は良好であり,術後22日で転院となった.
抄録全体を表示
-
渋川 貴規, 白川 岳, 大森 崇弘, 阪越 信雄
2020 年29 巻4 号 p.
231-234
発行日: 2020/07/17
公開日: 2020/07/17
ジャーナル
オープンアクセス
人工血管による血行再建術後遠隔期に人工血管関連の合併症に対する再手術を要する症例が一定の割合で存在する.症例は86歳男性.1998年腹部大動脈瘤,2006年胸部大動脈瘤に対して人工血管置換術を施行,以後近医で経過観察されていた.CTで右内腸骨動脈瘤と診断され,2018年10月当科紹介となった.当院CTで右内腸骨動脈瘤47 mm, 人工血管(Yグラフトのボディ)周囲45×40 mmに拡大していた(2014年7月35×33 mm).造影CTで人工血管左脚の中枢周囲に造影剤の漏出を認めたが,吻合部異常なし,脂肪織濃度上昇なく感染兆候もなかった.人工血管劣化による破綻を疑った.血管内治療を選択し,上臀/下臀動脈をコイル塞栓後,全人工血管を内腔から被覆するようにステントグラフトを内挿した.術後CTで造影剤の漏出は消失した.低侵襲手術で良好な結果を得たので報告する.
抄録全体を表示
-
内野 宗徳, 麓 英征, 大崎 隼, 中山 義博
2020 年29 巻4 号 p.
235-239
発行日: 2020/07/28
公開日: 2020/07/29
ジャーナル
オープンアクセス
近年,血管内治療は各領域で頻用されており,血管外科として穿刺部合併症への対応を求められる症例が今後増加する可能性がある.症例は80歳女性,他院で血管内治療後,上腕動脈仮性動脈瘤の治療のため当院へ紹介された.超音波検査では橈骨動静脈は腋窩で高位分岐し,肘部で上腕動脈の体表側を走行していた.仮性動脈瘤は上腕動脈と連続し,上腕動脈–橈骨静脈間の動静脈瘻を形成していた.治療は圧迫により静脈への血栓の流出をコントロールしつつ,超音波ガイド下に仮性動脈瘤内へトロンビン注入を行った.仮性動脈瘤は血栓化し,動静脈瘻と共に根治を得た.血管破格を有する患者に加療を行う場合,予期せぬ合併症を発生することがあるため注意が必要である.仮性動脈瘤に対する超音波ガイド下トロンビン注入療法は症例を選べば,動静脈瘻を合併していても低侵襲で治療可能であり,有用な治療法のひとつとなり得る.
抄録全体を表示
-
石澤 愛, 渡辺 徹雄, 関根 祐樹, 外山 秀司, 内田 徹郎, 貞弘 光章
2020 年29 巻4 号 p.
241-244
発行日: 2020/07/28
公開日: 2020/07/29
ジャーナル
オープンアクセス
腹部大動脈瘤(AAA)に発症した急性大動脈閉塞症(AAO)はまれな疾患であり,突発する広範な虚血から生命予後は極めて不良である.症例は82歳女性.両下肢脱力,冷感で救急搬送された.CTで最大短径41 mmのAAAおよび瘤内から両外腸骨動脈の血栓閉塞を認め,AAAに発症したAAOの診断で緊急手術の方針とした.血栓除去術のみでは血流再開が得られずステントグラフト内挿術(EVAR)を追加,両下肢の血流再開を得た.術後明らかな虚血再灌流障害はなく,術後第21日目にリハビリテーション転院となった.本疾患は腸骨大腿動脈領域の閉塞性病変や大動脈壁在血栓の塞栓などの機序が考えられるが,1カ月前のCTではAAAの壁在血栓や腸骨動脈領域の狭窄はなかった.併存する臓器障害,AAAの形態,末梢の閉塞性病変,手術侵襲をふまえた治療戦略が重要であり,本例に対するEVARは低侵襲かつ迅速な血流再開を得られ有用であった.
抄録全体を表示
-
河本 達也, 高橋 宏明, 後竹 康子, 魚谷 健祐, 杉本 貴樹
2020 年29 巻4 号 p.
245-248
発行日: 2020/08/14
公開日: 2020/08/14
ジャーナル
オープンアクセス
今回,異なる受傷起点による鈍的損傷による急性解離性動脈閉塞の5例を経験したので報告する.症例1は36歳男性,ショベルカーの先端部分が下腹部へ直撃し,左総大腿動脈の閉塞を認めた.症例2は49歳男性,レジャーボートより転落し右鼠径部を挫創,右浅大腿動脈の閉塞を認めた.症例3は71歳男性,漁業作業中に網が左足に巻き付いて海に転落し受傷,左膝窩動脈の閉塞を認めた.症例4は79歳男性,右手をついて転倒し右上腕骨脱臼骨折と上腕動脈閉塞を認めた.上記4例に対しては,閉塞部位の中枢,末梢健常動脈間の静脈グラフトによるバイパス術3例,閉塞部位の切除・静脈グラフトによる置換術1例を行った.症例5は78歳男性,漁船作業中に約50 kgの碇が右鼠径部に直撃して受傷,右外腸骨動脈から大腿動脈の閉塞を認めた.本例には同側大腿動脈の真腔よりBare Metal Stentを挿入し,外腸骨動脈中枢のentry閉鎖を行い,真腔の拡大を得た.全例で良好な血流の改善が得られ,救肢し得た.
抄録全体を表示
-
伊東 千早, 森重 徳継, 助弘 雄太, 桑原 豪, 伊東 啓行
2020 年29 巻4 号 p.
249-252
発行日: 2020/08/21
公開日: 2020/08/15
ジャーナル
オープンアクセス
稀な左側下大静脈を合併した傍腎動脈型腹部大動脈瘤(AAA)に対する胸腹部大動脈置換術を経験した.症例は79歳男性.腎動脈下腹部大動脈置換の既往がある.術前CTで上腸間膜動脈分岐部直下から最大短径80 mmのAAAを認め,また左側下大静脈は起始部から左腎静脈合流部までは大動脈の左側を上行し,そのレベルで大動脈前面を右側へ横断していた.手術はStoneyの切開と後腹膜腔アプローチで行い,左腎は前方へ脱転せずにその腹側で剝離した.部分体外循環開始後に大動脈の前方を交差する左側下大静脈を一時に離断することで大動脈瘤の全貌を得た.胸腹部大動脈置換後,離断した左側下大静脈は牛心膜ロールグラフトで再建した.剝離,体外循環の確立および再建方法に工夫を要したので報告した.
抄録全体を表示
-
亀田 柚妃花, 加藤 全功, 井上 凡, 今井 康雄
2020 年29 巻4 号 p.
253-256
発行日: 2020/08/21
公開日: 2020/08/15
ジャーナル
オープンアクセス
症例は68歳男性.弓部大動脈瘤に対して左鎖骨下動脈再建を伴うOpen stent graft内挿術の既往あり.また,甲状腺機能低下症に対しホルモン補充療法中であった.手術から約3カ月後,喀血および多量血胸による出血性ショック,緊張性気胸で死亡した.病理解剖にて残存大動脈瘤肺内穿破を認めた.病理所見では,大動脈瘤壁で中膜の完全消失が見られた.瘤壁以外でも大動脈中膜に粘液腫様変化を認めた.甲状腺は慢性甲状腺炎(橋本病)の所見であった.甲状腺機能低下による高コレステロール血症に起因した動脈硬化性変化や組織の粘液腫は多数報告されているが,大動脈壁の粘液腫様変化が病理学的に確認できた症例は極めて稀である.慢性甲状腺炎においても大動脈中膜病変を認める可能性があり,大動脈解離発生や瘤形成を念頭におく必要がある.
抄録全体を表示
-
早麻 政斗, 尼子 真生, 松村 仁, 鈴木 博之, 和田 秀一
2020 年29 巻4 号 p.
265-269
発行日: 2020/08/26
公開日: 2020/08/26
ジャーナル
オープンアクセス
症例は76歳男性.4年前に75 mmの紡錘状腹部大動脈瘤に対してEVARを行い,腰背部痛を主訴に前医を受診し切迫破裂を疑われ当院に搬送された.CT検査で動脈相,静脈相共にendoleakは認めなかったが,腹部大動脈瘤は90 mmと拡大を認め切迫破裂と診断し緊急手術を行った.瘤径拡大の原因が不明であり,またステントグラフト中枢側の大動脈遮断や腹部分枝の再建などが必要になる可能性を考慮し,胸腹部大動脈瘤手術に準じたアプローチで手術を行った.ステントグラフトを摘出し,腹部大動脈置換術とbare stentのhookによる左腎動脈損傷を認めたため左腎動脈再建術を行った.術後経過は良好で独歩退院した.Type V endoleakによる瘤径拡大に対して,胸腹部大動脈瘤手術に準じたアプローチでの腹部大動脈置換術を経験したので報告する.
抄録全体を表示
-
阪口 仁寿, 森島 学, 瀧本 真也, 上田 遼馬, 杉田 洋介, 岩倉 篤
2020 年29 巻4 号 p.
271-274
発行日: 2020/08/26
公開日: 2020/08/26
ジャーナル
オープンアクセス
症例は67歳男性.右外腸骨動脈–右浅大腿動脈バイパス術後32日目に右大腿創部より膿の流出を認めた.創部の培養からMicrococcus luteusを検出.人工血管感染と診断した.人工血管温存目的でVacuum assisted closure(VAC)療法を開始した.Double sponge technique, 50 mmHgの低圧持続吸引で行った.VAC開始後,徐々に人工血管を覆うように良好な肉芽形成を認め,VAC開始49日後には人工血管はすべて肉芽で覆われ,最終的に創部は完全に閉鎖した.感染から4年を経過した現在でも感染の再燃も認めていない.その後,鼠径部の人工血管感染を2例経験したが,すべて同様のVAC療法のみで出血などの合併症なく,創傷治癒に成功した.VAC療法は人工血管を温存可能で低侵襲かつ簡便であり,今後,鼠径部の人工血管感染に対する治療戦略の主流になると考えられた.
抄録全体を表示
-
小泉 滋樹, 吉田 壮志, 坪田 秀樹, 小山 忠明
2020 年29 巻4 号 p.
275-279
発行日: 2020/08/26
公開日: 2020/08/26
ジャーナル
オープンアクセス
症例は開腹歴のある85歳女性.最大短径10 cmの腹部大動脈瘤破裂に対して,緊急で腹部大動脈ステントグラフト内挿術(EVAR)を施行した.術前ショック状態にて左上腕動脈から下行大動脈に大動脈遮断カテーテルを挿入して血流をコントロールした.EVAR終了後に腹部コンパートメント解除のために外科的開腹減圧を行った.後腹膜は瘤および血腫で膨隆していた.開腹後血行動態は著明に改善した.術後1週間で3度試験開腹し閉腹を試みたが後腹膜腔の膨隆のため,定型的筋膜閉鎖による閉腹は困難であった.術後8日目に造影CTにて人工血管のmajor leakがないことを確認したのち,後腹膜腔の血腫を可及的に除去した.さらに瘤を切開してステントグラフトを露出し,周囲の瘤内血腫を除去したうえで,瘤を縫縮した.後腹膜腔の膨隆は改善し,定型的筋膜閉鎖による閉腹が可能であった.
抄録全体を表示