2022 年 31 巻 5 号 p. 327-331
腹部大動脈瘤が破裂を来たすことなく,外傷による圧迫で下肢急性動脈閉塞症を来たした報告は稀である.症例は62歳,男性.鉄鋼と高所作業車のバスケットの間に腹部を挟まれて受傷した.右下肢の運動麻痺,感覚障害および血色不良があり,当院に救急搬送となった.造影CTにて内腔に突出する形の血栓を有する40 mm大の腹部大動脈瘤と右総腸骨動脈から末梢の造影欠損を認めた.緊急右下肢動脈血栓除去術を施行し,大腿動脈以下の血栓は除去できた.しかし瘤化した右腸骨動脈領域に血栓の残存を認めたため,引き続き,腹部大動脈人工血管置換術を施行した.術後に下腿の減張切開を必要としたが,筋腎代謝症候群を起こすことなく,救肢・救命できリハビリ転院となった.本症例は腹部大動脈瘤以外には血栓塞栓症を来たすような原因は認めなかった.このため,外傷による腹部圧迫が,腹部大動脈瘤内血栓による末梢動脈閉塞症を引き起こしたと判断した.