日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
31 巻, 5 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
講座
  • 松原 健太郎, 尾原 秀明, 北川 雄光
    2022 年 31 巻 5 号 p. 299-302
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/10/05
    ジャーナル オープンアクセス

    大腿膝窩動脈(femoropopliteal: FP)領域における末梢動脈疾患に対する血行再建術の主体は,外科的手術(open surgery: OS)から血管内治療(endovascular treatment: EVT)になりつつある.しかしFP領域においても,総大腿動脈を含む病変や,高度石灰化を伴う病変,長区域の複雑病変などは,EVTの長期成績は未だ満足のいくものではなく,より安定した長期成績が期待できるOSの臨床的な有用性は揺るぎないものである.EVTとOSのガイドラインや最新のデータを常に把握しながら,個々の患者の解剖学的特徴と手術リスクを勘案し,適切にOSを選択していくことが重要である.

原著
  • 青木 淳, 丸田 一人, 益田 智明, 尾本 正
    2022 年 31 巻 5 号 p. 291-297
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/10/05
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】ステントグラフト内挿術(EVAR)術後,瘤縮小に影響する因子を検討した.【方法】2009年8月~2021年12月のEVAR症例で,瘤径が5 mm以上縮小79例と拡大18例を対象とした.2013年3月から術後にトラネキサム酸(TXA)を半年間投与し,2015年7月からEVAR術中にコイル塞栓を施行し,患者背景,EVAR終了時の開存大動脈分枝を検討した.【結果】縮小群で,抗血小板剤内服症例が有意に少なく,TXA内服症例が有意に多く,EVAR終了時に下腸間膜動脈(IMA)閉塞,開存している腰動脈(LA)本数2本以下の症例が有意に多く,瘤縮小の可能性は,抗血小板剤内服0.1倍,TXA内服6.5倍,IMA閉塞7.8倍,開存LA 2本以内3.9倍と推測された.【結論】EVAR終了時にIMAが閉塞,開存LA本数が2本以内で,術後にTXAを投与すると,瘤が縮小する可能性が高くなると考えられた.

    Editor's pick

症例
  • 池松 真人, 内田 敬二, 安田 章沢, 長 知樹, 小林 由幸, 松本 淳
    2022 年 31 巻 5 号 p. 269-272
    発行日: 2022/09/14
    公開日: 2022/09/14
    ジャーナル オープンアクセス

    臓器血流障害を伴う急性大動脈解離Stanford B型(TBAAD)に対する開窓術は血管内開窓術と外科的開窓術がある.外科的開窓術は直視下に腸管を評価できる点が有用で,今回術中ICG蛍光法で腸管血流改善を確認した症例を経験した.症例は70歳男性で来院3日前に腹痛・腰痛を発症し大動脈解離の診断で当院に転院搬送された.造影CTでdynamic obstructionによる腹腔動脈,上腸間膜動脈のmalperfusionが疑われた.ほぼ全ての肋間動脈は偽腔から起始しており,TEVARによるentry閉鎖では偽腔血栓化により脊髄梗塞を起こす可能性があったため,外科的開窓術を行った.腸管は色調が不良でICGの取り込み低下を認めたが,開窓術後に改善した.ICG蛍光法を大動脈解離のmalperfusionに対し使用した報告は検索し得た限り過去にない.外科的開窓術は直視下にその治療効果を術中に確認できICG蛍光法の併用でより確実な血流評価が可能であった.

  • 原 亮太, 小谷 真介
    2022 年 31 巻 5 号 p. 273-277
    発行日: 2022/09/14
    公開日: 2022/09/14
    ジャーナル オープンアクセス

    高血圧にて近医通院中の47歳男性.背部の収縮期雑音を契機に大動脈縮窄症と診断された.狭窄部末梢に囊状瘤を形成しており,狭窄部以遠の大動脈は狭小化し,側副血行路の発達を認めた.ABI検査は右0.62, 左0.63であった.手術適応と診断し,早期社会復帰を希望のためステントグラフト内挿術を選択した.左大腿動脈から経皮アプローチでステントグラフトを留置した.上下肢の血圧差は収縮期圧80 mmHg→30 mmHg, 平均圧30 mmHg→7 mmHgに改善した.ABIは右1.03, 左1.01に改善し,術翌日に退院した.造影CTでエンドリークはなく,狭窄部が拡張したことを確認した.術後合併症は認めず,降圧薬の減量が可能となった.大動脈縮窄症に対する標準治療は外科手術だが手術侵襲が大きく,バルーン拡張術やステント留置も大動脈破裂や解離の危険性がある.ステントグラフト内挿術は安全で低侵襲であり有効な選択肢の一つであると考えられた.

  • 眞鍋 嘉一郎, 川尻 英長, 井上 知也, 沼田 智, 神田 圭一, 夜久 均
    2022 年 31 巻 5 号 p. 279-282
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は61歳男性.前医でフォローアップされていた右大腿深動脈瘤(DFAA)の最大短径が1年間で30 mmから40 mmと急速拡大を認めたため,破裂のリスクが高いと判断し,外科的治療を選択した.縫工筋内側アプローチ法でDFAAの中枢側は確保できたが,瘤の剝離を進めた際に末梢側の確保に難渋した.そのため,縫工筋外側アプローチ法を追加することでDFAA末梢側を確保し人工血管置換術を施行した.術後合併症はなく,術後CTで良好なグラフトの開存を確認した.

  • 豊福 崇浩, 三橋 洋介, 米倉 孝治, 菅野 範英
    2022 年 31 巻 5 号 p. 283-286
    発行日: 2022/09/30
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル オープンアクセス

    先天性動静脈奇形に合併した静脈性血管瘤からの肺塞栓症は非常に稀であり,治療法は確立されていない.血管瘤縫縮と抗凝固療法で良好な経過が得られている症例を経験したので報告する.症例は28歳女性,肺塞栓症のため他院で下大静脈フィルターを留置,抗凝固療法施行後,手術目的で当院紹介受診.エコーおよび造影CT, 下肢MRAで右下肢の後脛骨動脈および腓骨動脈領域の先天性動静脈奇形の診断.拡張した右膝窩静脈からの血栓が肺塞栓症の原因と診断し右膝窩静脈性血管瘤を縫縮した.術後10年経過したが,経過中に症状の再発等は認められない.

  • 露木 肇, 犬塚 和徳, 佐野 真規, 片橋 一人, 竹内 裕也, 海野 直樹
    2022 年 31 巻 5 号 p. 303-306
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/10/05
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は6歳女性.5歳で川崎病罹患歴があった.外傷の既往なし.左大腿部の有痛性腫瘤を主訴に前医受診した.造影CT検査で,左浅大腿動脈に径33×31×37 mmの動脈瘤を認め,当科紹介となった.冠動脈瘤や,他の末梢動脈瘤は認めなかった.有症状で破裂の危険もあり,外科治療適応と判断した.手術は左大腿部を縦切開し,動脈瘤を露出した.動脈瘤切除後の動脈形成術は困難と判断し,大伏在静脈をreversed graftで使用した再建術を行った.瘤壁の病理では,中膜の高度な浮腫状,粘液腫様の肥厚があり,炎症細胞浸潤を伴う一部中膜の破壊が観察された.川崎病は全身の血管炎を来す疾患で冠動脈病変が有名であるが,末梢動脈瘤はまれで,とくに浅大腿動脈瘤は本邦・海外ともに報告はない.

  • 北島 史啓, 服部 努, 白水 御代, 田中 正史
    2022 年 31 巻 5 号 p. 307-310
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/10/05
    ジャーナル オープンアクセス

    大腿–腓骨動脈バイパス術後に末梢側吻合部仮性動脈瘤を認め,超音波ガイド下トロンビン注入療法(US-guided thrombin injection: UGTI)を施行した症例を報告する.症例は86歳の女性で,右大腿–腓骨動脈バイパス術施行後1年半を経過し右下腿に疼痛を伴う拍動性腫瘤が出現したため来院した.血液検査上感染兆候なく,下肢超音波と血管造影にて末梢側吻合部仮性動脈瘤を認め,UGTIを施行した.施行後,合併症なく術後1週間で独歩退院となった.感染兆候のない末梢血管バイパス術後仮性動脈瘤に対してUGTIは安全で有効であり文献的考察を含め報告する.

  • 細川 恭佑, 酒井 美晴, 海ヶ倉 紀文, 和多田 晋
    2022 年 31 巻 5 号 p. 311-315
    発行日: 2022/10/12
    公開日: 2022/10/12
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は77歳,男性.急性腹症のため救急搬送され,造影CTにて左総腸骨動脈瘤破裂と診断し,緊急手術を施行した.腎動脈下から大動脈分岐までの距離が55 mmと短く,IFU(instruction for use)外であったが,Doube D Technique(DDT)を用いたステントグラフト内挿術を施行した.術後4時間後に腹部コンパートメント症候群をきたし開腹減圧術を追加した.術後2日目に後腹膜血腫除去術と閉腹術を施行した.術後3日目,左脚のType Ibエンドリークを認め,左脚を追加した.以降エンドリークなく経過している.腹部大動脈瘤破裂に対するステントグラフト内挿術は年々増加しており,解剖学的要件を満たしていれば第一選択とされている.開腹手術に比して低侵襲であり,同等以上の成績が報告されており,今後適応の拡大が予想される.DDTはIFU外の破裂症例に対しても有用な代替手段と考える.

  • 山口 高広, 松田 成人, 小林 靖彦
    2022 年 31 巻 5 号 p. 317-320
    発行日: 2022/10/14
    公開日: 2022/10/14
    ジャーナル オープンアクセス

    静脈性血管瘤(venous aneurysm, VA)は静脈の延長,蛇行を伴わない限局性の拡張病変で,稀な疾患である.深部静脈に形成されたVAは局所の症状が乏しく,多くは無症状であるが,膝窩静脈静脈性血管瘤(popliteal venous aneurysm, PVA)は重篤な呼吸苦から肺血栓塞栓症(pulmonary embolism, PE)と診断され,発見されることがある.症例は46歳男性で胸痛と労作時呼吸苦で来院され,造影CTにてPE, 動静脈瘻(arteriovenous fistula, AVF)を伴ったPVAと診断され,抗凝固療法開始し,呼吸状態の改善後に手術を行った.手術はAVFを閉鎖し,PVAを縫縮した.術後経過良好にて術後15日に退院となった.PVAにAVFを伴う例は極めて稀であり,術前の診断ならびに外科的処置においては十分に考慮しておく必要がある.

  • 脇坂 穂高, 木原 一樹, 近藤 庸夫, 大上 賢祐, 鈴木 友彰
    2022 年 31 巻 5 号 p. 321-325
    発行日: 2022/10/21
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル オープンアクセス

    異所性右鎖骨下動脈(ARSA)は先天性の弓部分枝異常である.ARSA合併の手術においてはARSAや瘤へのアプローチや循環停止時の脳保護法,ARSAの再建や処理方法などが問題点となる.今回われわれはARSAを伴う3例の胸部真性大動脈瘤患者に対し,frozen elephant trunkを用いて手術を行った.1例目で術後に右椎骨動脈領域の脳梗塞を認めた.その原因として以下の2つの要因を考えた.1つは循環停止前に瘤周辺を剝離,圧排したことにより瘤内血栓の塞栓が起きた可能性である.もう1つは人工心肺開始時の圧の下がったARSAをTEEが圧迫し,右椎骨動脈が低灌流となった可能性である.これらを対処するため,2例目以降は循環停止前にARSAをバルーンで閉鎖することにより瘤周辺の剝離操作を最小限とし,ARSA特有の頸部血管の圧変化を注意することで脳梗塞を含む合併症なく,良好な結果を得ることができたので報告する.

  • 古賀 佑一, 里 学, 西田 泰治, 牛草 淳, 川﨑 裕満
    2022 年 31 巻 5 号 p. 327-331
    発行日: 2022/10/21
    公開日: 2022/10/21
    ジャーナル オープンアクセス

    腹部大動脈瘤が破裂を来たすことなく,外傷による圧迫で下肢急性動脈閉塞症を来たした報告は稀である.症例は62歳,男性.鉄鋼と高所作業車のバスケットの間に腹部を挟まれて受傷した.右下肢の運動麻痺,感覚障害および血色不良があり,当院に救急搬送となった.造影CTにて内腔に突出する形の血栓を有する40 mm大の腹部大動脈瘤と右総腸骨動脈から末梢の造影欠損を認めた.緊急右下肢動脈血栓除去術を施行し,大腿動脈以下の血栓は除去できた.しかし瘤化した右腸骨動脈領域に血栓の残存を認めたため,引き続き,腹部大動脈人工血管置換術を施行した.術後に下腿の減張切開を必要としたが,筋腎代謝症候群を起こすことなく,救肢・救命できリハビリ転院となった.本症例は腹部大動脈瘤以外には血栓塞栓症を来たすような原因は認めなかった.このため,外傷による腹部圧迫が,腹部大動脈瘤内血栓による末梢動脈閉塞症を引き起こしたと判断した.

  • 藤井 大志, 辻口 友貴, 町田 海, 坂本 大輔, 永吉 靖弘, 高野 環
    2022 年 31 巻 5 号 p. 333-336
    発行日: 2022/10/26
    公開日: 2022/10/26
    ジャーナル オープンアクセス

    鎖骨下動脈瘤は末梢動脈瘤の中でも稀な疾患である.治療に関しては,その原因や発生部位によって,アプローチや治療方法が異なってくる.今回われわれは,胸郭内右鎖骨下動脈瘤に対して胸骨上方部分切開にて,良好な視野が得られ手術施行できたので報告する.症例は73歳男性.当科外来で術後経過観察中,以前から認めていた右鎖骨下動脈瘤が1年で20 mmの増大あり,手術目的に入院となった.胸骨第二肋間で逆L字切開し,皮膚切開線を鎖骨上窩まで延長した.腕頭動脈と右鎖骨下動脈末梢側をePTFEグラフトでバイパスし,瘤は空置した.術後造影CTで,瘤内への血流認めず,バイパスの血流も良好であった.胸郭内右鎖骨下動脈瘤に対して胸骨上方部分切開によるアプローチは,良好な視野が得られ,低侵襲であるため有用な治療手段の1つであると考える.

  • 永田 恵実, 佐藤 善之, 髙橋 皇基
    2022 年 31 巻 5 号 p. 337-341
    発行日: 2022/10/27
    公開日: 2022/10/27
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は52歳男性.突然の胸痛を主訴に救急搬送された.CTで左鎖骨下動脈分岐直後にentryを有する偽腔開存型急性B型大動脈解離を認めた.真腔狭小化と上腸間膜動脈(superior mesenteric artery; SMA)閉塞によるvisceral malperfusion, 腹部大動脈瘤壁の解離による切迫破裂と診断した.救命にはvisceral malperfusionの解除が急務であり,胸部ステントグラフトをzone3に留置し,entry閉鎖と真腔狭小の解除を先行した.さらにSMA閉塞に対し,ステントを留置して再灌流に成功した.腹部大動脈瘤切迫破裂に対しては開腹人工血管置換術を施行した.術後は下痢が遷延し長期的な腸管安静を必要としたが,腸管切除は要さず術後41日目に独歩退院した.一期的に胸部ステントグラフト内挿術,SMAステント留置術,開腹人工血管置換術を施行し救命した一例を経験した.

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