2023 年 32 巻 2 号 p. 129-135
血管外傷には動脈外傷,静脈外傷があるが,ここでは診断の遅れが致命的となる動脈外傷について解説する.発生機序としては,鋭的損傷と直達・介達外力による鈍的損傷があり,医原性損傷もしばしばみられる.臨床所見は,出血,血腫,仮性瘤形成のほか,鈍的損傷では動脈解離,内膜損傷とそれに伴う閉塞・血栓形成などがあり,出血性ショックや重篤な血流障害をきたすこともある.診断は多臓器損傷の合併も多く,造影CTによる全身撮像が第一選択であるが,さらに血流不全を把握するため血管造影が必要となることも多い.治療は損傷部に対し直接縫合,パッチ形成,グラフト置換などの外科的修復術のほか,血管内治療として塞栓術,ステントグラフト留置などが行われる.また治療戦略として出血性ショック例に対する一時的中枢側バルーン留置下での緊急手術や血行動態の比較的安定した多臓器損傷例に対するダメージコントロールサージェリーも成績向上のために考慮する必要がある.本稿では,自験例の提示も含め血管外傷の発生機序,診断法,治療戦略について解説する.