抄録
ノルウエー産で、かび臭物質ジオスミンを産生する原因生物と確認されているO.brevisの増殖とジオスミン産生に必要な鉄の形態について検討するため、培地中のEDTAを除き、あるいはBPDSを添加して、またEDTAの代わりにDESFを添加した培地と、標準培地での比較培養実験を行った。
培地中にEDTAが存在しない場合には、O.tenuis、A.macrospora及びP.tenueの琵琶湖産の3種のラン藻は増殖阻害を起こした (A.macrosporaはEDTA添加時に比べ、10%程度の増殖は認められた) 。しかしO.brevisはEDTAを加えなくても増殖することができる、すなわちコロイド状態の鉄及び酸化鉄のような難溶性鉄を溶解し、利用することができる機能を有することが明らかになった。
またBPDSを添加したCT培地中では、Fe (III) -EDTA中の鉄は光照射下で2価に還元され、添加しているBPDSと反応し、Fe (II) -BPDSキレートを生成するため、A.macrosporaやO.tenuisは鉄を利用出来ず、増殖阻害を起こした。しかしO.brevisの場合にはP.tenueと同様に阻害を起こさず、増殖することができた。
O.brevisはFe (III) -EDTAの代わりに微生物シデロフォアであるデスフェリオキサミン (DESF) のFe (III) キレートを用いても増殖することができるが、他の3種のラン藻O.tenuis、A.macrospora、P.tenueは同条件下で増殖できなかった。
以上に述べたように、O.brevisは、通常のCT培地に含まれるFe-EDTAのもとで増殖できるのはもちろんのこと、EDTA欠乏下でも増殖できる (すなわちコロイド状態の鉄及びさらに熱力学的に安定な酸化鉄までも利用できる) 、BPDS共存下で増殖可能である、並びに微生物シデロフォアであるDESFを利用することができる (このことは他の生物が産生した鉄溶解性物質を利用できる可能性があることを示唆している) 点で、生物の生育に必須な鉄の存在に関して劣悪な環境条件下でも生育できる大きな利点を有していることがわかった。こうしてノルウエー産のO.brevisは琵琶湖産のA.macrospora、P.tenue、O.tenuisに比べて鉄吸収の機能においてきわめて幅広い環境変化に適応していることが判明した。