抄録
1990年4月に大阪港の2箇所の埠頭について調査を行い35匹のハツカネズミを捕獲した. このハツカネズミ35匹中18匹が抗体を保有していた. これら35匹のハツカネズミの脾臓乳剤を3~4週齢のマウスに脳内接種し, 発症の認められたものから脳材料および血清を採取し, その脳乳剤をVero-E 6細胞に接種した. 生残したマウスについてはその抗体を測定した. 35例中14例よりWE株に対する抗血清と反応するウイルスが分離された. これらのうち代表的な3株の抗原を作成し, マウスの発症期血清, 回復期血清について抗体価をWE株に対するそれと比較したが差は認められなかった. また初代において死亡を認めなかった7株をマウスに継代し, その生残マウスにつきWE株を用いて攻撃したが何れも耐過した. この結果これら分離ウイルスはLCMVと同定した. 抗体陽性ハツカネズミ18匹中4例, 抗体陰性17匹中10例からそれぞれウイルスが分離された. 抗体陽性ネズミでウイルスの分離されたものは総て4ヶ月齢未満のものであったのに対し, 抗体陰性ネズミでは何れの月齢からもウイルスが分離された. また分離ウイルス株の中にはマウス継代してもマウスを殺さない株が存在した. この様な株は従来組織培養継代により認められているが自然界からの分離は報告されていない. 本論文はわが国で初めての野生動物からのLCMVの分離報告である.