抄録
鶏における日本産肝蛭感染の阻害因子を明らかにするため, in vivoおよびin vitroにおいて各種の検討を行った. メタセルカリア(MC)の経口投与, 脱嚢幼肝蛭の体内注入および外科的な肝表面への移入のいずれの投与方法によっても感染の成立をみなかった. 経口投与例の糞便からMCの被嚢のみが感染後1-2日に多数検出された. また, 鶏胆汁を用い42℃で行った実験ではMCの脱嚢は良好であった. したがって, 最重要感染阻害因子は口腔から肝臓に至る移行経路に働くものではなく, 虫体の成長過程に存在することが推察された. 病理組織学的には, 実験鶏の肝臓における病変は出血, 好酸球およびリンパ球による浸潤など他の感受性動物における肝蛭病変と質的に異なることがなく, 組織反応による感染阻害は認められなかった. 脱嚢幼肝蛭を50%子牛血清加RPMI 1640培地を用いて培養したところ, 温度上昇とともに肝蛭の生存は著明に困難となり, 42℃では培養3日ですべてが死滅した. 鶏血清を用いても37℃では肝蛭はよく生存したが, 42℃では4日ですべて死滅した. 鶏においては高体温が肝蛭感染阻害の最大要因であると推察された.