Journal of Veterinary Medical Science
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実験感染マウスにおける狂犬病ウイルスの経時的広がりとその分布
Sinchaisri Tip-Aksorn永田 伴子吉川 泰弘甲斐 知恵子山内 一也
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1992 年 54 巻 3 号 p. 409-416

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抄録

狂犬病ウイルスCVS株を, 脳内, 眼球内, 鼻腔内, 筋肉内, 皮下それぞれの経路でマウスに接種した後, 中枢神経系におけるウイルスの広がりをアビジン-ビオチン複合体(ABC)法を用いた免疫化学的および病理組織学的手法によって経時的に検索した. 脳内接種と眼球内投与群でのみマウスは致死性感染を生じたので, この2経路において詳細な検討を行った. 脳内接種マウスでは, ウイルス抗原は主に大脳皮質の神経細胞, 錐体細胞, 海馬の顆粒細胞に認められた. 眼球内接種マウスにおいては, 最初に三叉神経節に検出され, 続いて大脳皮質と小脳に広がっていく傾向が観察された. 海馬で眼球内接種の初期では極く僅かの細胞に抗原が認められたのみであった. いずれの経路においても感染マウスの中枢神経系には炎症像もNegri小体も認められなかった. この結果から, 死に至る運動失調や衰弱といった臨床症状は, 炎症反応によるものではなく, ウイルスの神経系機能への直接的な影響に起因することが示唆された. また, 通常の病理組織学的検査や海馬のスタンプ標本の蛍光抗体法では狂犬病の同定ができない症例が存在する可能性が示唆され, 狂犬病を疑われて早期に死亡した患者や屠殺された動物などの検査には, ABC法が有用であると考えられた.

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