抄録
心筋組織の前, 後大静脈壁への分布が, 多くの哺乳類で報告されている. また, 肺静脈壁への分布は, 種々の脊椎動物で観察されている. 一方, 鳥類では, 大静脈については報告がなく, 肺静脈に関しても十分な形態学的検討は行われていない. そのため, これらの主要静脈壁に分布する心筋組織の系統発生学的起源については, 全く検討されていない. そこで, ニワトリを用い, 前, 後大静脈, 肺静脈を, 光顕および電顕を用いて観察し, それらの部位における心筋組織の進化的起源について検討した. 心筋組織は, 前大静脈では鎖骨下静脈基部まで, 後大静脈では肝臓前線まで, 肺静脈では総肺静脈から肺門付近まで分布していた. この結果から, これらの主要静脈壁における心筋組織は, 進化的に保守的であり, その系統発生学的起源は, 鳥類にまでさかのほることができると考えられた. 微細形態学的には, 前大静脈, 肺静脈の心筋細胞は, 左心房の心筋細胞と類似し, transitional cellの存在が特徴的であった. 一方, 後大静脈の心筋組織では, 特殊心筋細胞の分布が確認された. また, これらの結果から, 同構造が循環血流の制御に寄与していることが示唆された.