Journal of Veterinary Medical Science
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犬糸状虫症における肺動脈圧と死虫体との関連
平野 勇二北川 均佐々木 栄英
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1992 年 54 巻 5 号 p. 897-904

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抄録

犬糸状虫の死に伴う肺動脈塞栓病変と肺動脈圧の変化との関連性を検討するため, 死虫体を実験犬の肺動脈内に挿入した. 実験犬は犬糸状虫寄生の有無と虫体挿入後の肺動脈圧および臨床症状の変化により4群に分類した. 非寄生群(4例)では肺動脈圧は虫体挿入1週後に上昇した(10.9mmHgから16.6mmHg)が4週後には低下した. 臨床症状, 右心循環動態, 血液ガスおよび肺血管造影所見は肺動脈圧の変化と平行して変動した. 実験終了直後の剖検所見では, 死虫体周囲の血栓形成は肺後葉に最も多く認められ, 血栓と血管壁は一部で癒着していたが, 大部分は遊離して間隙が認められた. 寄生I群(5例)は非寄生群とほぼ同様の変化を示した. 寄生II群(4例)では, 虫体捜入前から肺動脈圧が高く(25.7mmHg)諸検査の結果も異常値を示していた. 虫体挿入後は4週まで肺動脈圧が上昇し(34.1mmHg), それに伴って臨床症状は悪化し諸検査の結果もさらに異常値を示した. 血栓は肺の各葉に広く形成され, 肺動脈内膜面全体に癒着していた. 寄生III群(2例)では, 虫体捜入1週後に肺動脈圧は上昇し(19.4mmHgから28.2mmHg), 重度の呼吸困難を示して, 9日後と10日後に死亡した. 剖検所見では, 血栓病変の他に肺実質の水腫または空洞形成が認められた. 以上の結果から, 死虫体の栓塞に伴う肺動脈圧の上昇および臨床症状の悪化は, 虫体が死亡する前の肺動脈病変ならびに血栓形成に伴う肺実質病変の程度と比例することが明らかになった.

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