抄録
P=S型有機燐剤であるフェンチオンとダイアジノンの致死用量をラットに静脈内投与すると, アトロピンでは桔抗されない末梢性の急激な血圧低下がみられ死亡した. この作用はコリンエステラーゼ阻害とは別の作用によるものと考えられ, その作用部位を明らかにするためにラットの摘出大動脈と摘出心房に対する作用を検討した. フェンチオン, ダイアジノンともに摘出大動脈内皮剥離標本の高濃度K+収縮(IC50=2×10-5M, Ca2+=1.5mM下)およびノルエピネフリン収縮(IC50=7×10-5M, Ca<2+<=1.5mM下)を抑制し, その作用には用量依存性がみられた. 一方, 摘出心房(右心耳)の自動収縮に対する作用はこの濃度のフェンチオン, ダイアジノンでは弱かった. よって, 血圧低下は血管収縮に対する直接抑制作用に起因し, この作用はムスカリンレセプターを介するものではないと考えられた. 大動脈標本の栄養液中のカルシウム濃度を上昇させると抑制は桔抗されたので, 収縮抑制作用には血管平滑筋細胞のカルシウム動態ないしは利用効率を変化させる作用が関与していることが示唆された.