抄録
本学動物病院に1989年から1990年の間に来院し, 前立腺肥大症と診断された4-15歳の犬25頭のうち7頭に対して, anti-androgen製剤である酢酸クロルマジノン(CMA) 2mg/kg/dayを3または4週間連日経口投与した. その投与開始前後にX線および超音波画像診断装置により前立腺の大きさを計測して, その容積を算出した. また, これらの犬のうち3頭については, 精液性状検査も実施した. 前立腺肥大症の犬全頭および5-7歳の正常犬4頭の末梢血を採取し, 血漿中LH, 4-androstenedione, 5α-dihydrotestosterone, testosteroneおよびestradiol-17βの濃度を測定した. 血尿や排便・排尿困難などの臨床症状は, CMA投与開始後10日以内に消失した. CMA投与終了後の前立腺容積の平均値(±S.E.)は, 投与前の39±4%に減少した. 治療前の前立腺肥大症の犬の血漿中testosterone濃度は, 正常犬のそれに比較して有意に低値を示した(P<0.01). CMA投与終了後にも採血を実施した6頭の各種ホルモンの血漿中濃度は, LHを除き投与前の値に比較して, いずれも有意に低下した(P<0.05). また, 投与終了後の精子数と精子活力は減少し, 精子奇形率は増加した. 以上の成績から, 前立腺肥大症の犬に対するCMAの経口投与により精巣機能は抑制されてしまうが, 前立腺容積は著しく減少し, 短期間で臨床症状が改善されることが判明した. しかし, 治療後約6ヵ月で再発する例も認められた.