抄録
ウシ赤血球内寄生原虫Theileria sergentiの感染に伴うウシ赤血球膜のガングリオシド組成の変化を, T. sergenti感染前後の赤血球を用いて分析した. T. sergenti感染前のウシ赤血球膜のガングリオシドの主要な成分は, GM3, sialosylparagloboside (SPG), i型ガングリオシドならびにI型ガングリオシドであった. 一方, 感染後においては, GM3量は変化を示さなかったが, SPGおよびi型ガングリオシドの量が僅かに, I型ガングリオシドの量が顕著に減少した. また, 全脂質結合性シアル酸も感染後の赤血球において減少した. さらに, 顕著に減少したI型ガングリオシドの量は, 原虫の寄生率の減少とともに回復した. これらの現象は, T. sergenti感染後の赤血球においては必ず認められた. 同様の変化は, ウシ赤血球膜由来のガングリオシド画分を組み込んだリポソームとT. sergenti原虫とのイソキュベーションにおいても認められた. これらのことから, SPGとi型ガングリオシドの僅かな減少ならびにI型ガングリオシドの顕著な減少は, T. sergenti感染に伴う赤血球膜のガングリオシドの組成の特徴的な変化であることが示された.