抄録
尿や血液などの体液中に含まれる代謝成分は比較的定常値を保っている. 代謝性疾患では体液成分に変動が生ずるため, 変動した成分を検索することによって病態を明らかにすることができる. われわれは, 健康なイヌと病状を伴ったイヌとについてガスクロマトグラフイー質量分析計(GC・MS)を用いて代謝プロフィルを調べるとともに, ヒトの代謝プロフィルとの違いについても検討した. 本報では健康なイヌの種による違いと, ヒト新生児との尿中代謝プロフィルの違いを検討した結果について述べる. 実験にはDalmatian種とShetland sheepdog種のイヌを用い, ヒトでは新生児期の子供の尿を用いた. 尿は大過剰に存在する尿素をウレアーゼ処理して除いた後凍結乾燥し, トリメチルシリル化剤を加えてトリメチルシリル誘導体としてGC/MS分析した. その結果, 1) ヒトではプリン体の異化終産物は尿酸であるが, Shetland sheepdog種ではアラントイン, Dalmatian種ではヒトと同じ尿酸が終産物として検出された. 2) またShetland sheepdog 種のイヌでも腎疾患のイヌでは尿酸が最終産物として検出された. 3) ヒト尿中に検出されないフェニルアセチルグリシンがイヌ尿中に大量に排泄され, グリシン抱合能が高いことが示された. 以上の知見に基づいて, イヌの代謝生化学における特徴について考察し, 実験動物として用いる場合の問題点について考察した.