1996 年 58 巻 9 号 p. 849-854
中国東北地方のシカ牧場で運動失調症を示した梅花シカ(Cervus nippon Temminck)13頭を病理組織学的に検索した. 特徴的病理所見は, 脊髄および脳幹の白質部における海綿様空胞・髄鞘欠之, 脊髄動脈の線維化および弾性板の崩壊, クモ膜における中皮細胞の肥厚性増生であった. その他の所見として, 大動脈, 腎臓, 肺の血管弾性板の形成異常および脾臓と肝臓にヘモジデリンの沈着が観察された. また, 生化学的に, 血清および肝臓の銅含有量は低値を示していた. 脊髄および脳幹の白質部における脱髄は, 髄鞘形成不全と二次的な髄鞘破壊の共存により発現していた. それら種々の病変形成には銅含有酵素活性の低下が関与し, 銅欠之が運動失調症の発現および病変形成に重要な役割をになっていると考察された.