福祉社会学研究
Online ISSN : 2186-6562
Print ISSN : 1349-3337
18 巻
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┃特集論文┃戦後福祉のナラティブ――政策史と生活史のまじわるところ
  • 政策史と生活史のまじわるところ
    深田 耕一郎, 宮垣 元
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 18 巻 p. 7-12
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/07/02
    ジャーナル フリー
  • ある入所者の生活史を通して
    蘭 由岐子
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 18 巻 p. 13-33
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/07/02
    ジャーナル フリー

    本稿は,島の療養所「大島青松園」で,長年自治会活動に役員として関わっ

    てきた中石俊夫の生活史を通してハンセン病療養所の戦後を素描する.論述の

    ためのデータは,著者のライフストーリー・インタビューの逐語録,自治会誌

    に掲載された中石の文章,そして,中石の死後,後見人を通して筆者に託され

    た遺品のノートからなる.

     中石は,第二次大戦末期の1944 年末に17 歳で入所し,2001 年秋に74 歳

    で没した.彼の人生を,戦中から戦後,とりわけ,「思索会」という名の無宗

    教団体を作った時期,1953 年の「らい予防法闘争」期,「転換期」の自治会役

    員を勤めた時期,「らい予防法」廃止と国賠訴訟の起こった晩年期に区分して

    考察した.

     その結果,文芸活動をしていた若者たちが戦後の自治会を担い,「転換期」

    の療養所に生じた支給金,作業切替など数々の問題に対処してきたこと,にも

    かかわらず,一般入所者の自治会への不信と無関心が増大したこと,しかし,

    中石はあくまでも草創期の自治会の理念を堅持して運動を行うことを是とした

    ことがあきらかとなった.そして,最晩年期,国賠訴訟期とその判決後の島の

    住民の状況変化に,中石は,あらためて自身の理念が壊れていくさまを見た。

     なお,本稿は,中石と筆者との対話と応答の成果でもある.

  • ある婦人保護施設の資料から
    丸山 里美
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 18 巻 p. 35-55
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/07/02
    ジャーナル フリー

    本稿は,売春防止法を根拠にした婦人保護事業について,婦人保護施設「生

    野学園」の資料から,法そのものではなく,その実施場面に焦点をあてて,事

    業の実態の変遷とそこに見られるジェンダー規範を検討するものである.1949

    ~1997 年に生野学園に入所した1520 ケースの記録を,売春防止法施行前,

    施行後,「45 通達」の出された後,国庫補助削減後の4 期にわけて,その変遷

    を見た.さらにケース記録のフォーマットの変化と,2 人のケース記録をとり

    あげて,そこに見られるジェンダー規範について検討した.ここから,下記の

    3 点が明らかになった.1 点目は,売春防止法制定前の時期は,他の時期に比

    べて,階層の高い女性たちが入所していたこと.2 点目は,入所者の抱える困

    難は売春,暴力,貧困,障害など,51 年間を通じて共通している一方で,売

    春防止法の制定によって,売春を執拗にとらえるまなざしが生まれていたよう

    に,そのどこに焦点をあてるかは,時代によって変化していたということ.3

    点目に,婦人保護事業自体は,婚姻内の女性を守り婚姻外の女性を処罰する差

    別的な売春防止法に依拠したものであっても,その実施場面に焦点をあててみ

    ると,法が内包するジェンダー規範への批判的なまなざしや,それにとらわれ

    ない柔軟な実践が見られた.こうした婦人保護事業の実施場面に焦点をあてた

    検討は,現在行われている婦人保護事業の見直しの議論にも資するものになる

    だろう.

  • 戦後福祉のナラティヴ
    麦倉 泰子
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 18 巻 p. 57-82
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/07/02
    ジャーナル フリー

    遷延性意識障害者と家族についての語りは,家族の回復の物語,制度の不十

    分さの指摘,医療における技術の革新,といったさまざまな文脈のもとに現れ

    る.ナラティヴを,制度を形作る社会意識のあらわれとして捉えるならば,遷

    延性意識障害者とその家族の生を支えるための法制度はいまだ十分とは言い難

    い状況にある.

     遷延性意識障害の人が「何もわかっていない」と考え,彼らへの働きかけを

    無意味なものとみなす意識は根深い.こうした意識は,彼らの生と尊厳をも脅

    かす脅威となって現れる.

     このような脅威にあらがうのは,遷延性意識障害者と「共にある」人たちの

    実践と,それをめぐるナラティヴである.家族や看護師,脳神経外科医といっ

    た人たちの実践とそれにまつわる語りからは,わずかでも反応を引き出し,身

    体の健康を保つという連続的な実践が「植物人間」という存在そのものを変化

    させていることを示している.実践のなかから制度を産み出し,遷延性意識障

    害者の新たな生の在り様をつくりだしているとも言えるだろう.ナラティヴは,

    制度を形作る社会意識の「あらわれ」であると同時に,制度を形作っていく「動

    因」でもあるという再帰的な実践としてある.

  • 立岩 真也
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 18 巻 p. 83-102
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/07/02
    ジャーナル フリー

    身体と社会を巡るアーカイブの必要性,それを構築しつつなされる研究の堆

    積が必要であり,急がれることを述べる.その際に留意すべきことを幾つか示

    す.そしてその作業は,例えば,いま国立療養所にいる人たちの生活の今後に

    も関わっているのだと言う.

┃自由論文┃
  • 桐原 尚之
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 18 巻 p. 105-128
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/07/02
    ジャーナル フリー

    従来,1987 年の精神衛生法改正は,宇都宮病院事件を契機に日本の精神医

    療が国際的な非難の的となり,人権に配慮した法改正がおこなわれたものと説

    明されてきた.こうした歴史に批判的な先行研究では,1987 年の精神衛生法

    改正が宇都宮病院の被害者らにとって意図しない帰結であったことと,もっぱ

    ら家族,医師,法律家を代表する利益集団の影響を受けた改正であったものと

    指摘されている.しかし,当事者である精神障害者がいかなる主張をしたのか

    までは明らかにされていない.そのため,当事者不在の歴史が繰り返し引用さ

    れている現状がある.本稿は,1987 年の精神衛生法改正に対して精神障害者

    がいかなる主張をしたのかを明らかにすることを目的とする.方法は,精神障

    害者による社会運動の史料を用いた主張の記述と,それらの分析である.その

    結果,精神障害者の社会運動は,精神衛生法自体が治安的性格を有した強制入

    院の根拠法であり,対案はあり得ないため改正ではなく撤廃すべきという立場

    をとっていたことが明らかになった.こうした主張は,強制入院による排除を

    通じて精神障害者を危険とみなす人々の差別意識の助長こそを問題にしたもの

    であり,精神衛生法撤廃の主張と保安処分反対の主張に共通した精神障害者の

    社会運動に特有の主張であった.これらの記述を通じて精神衛生法改正をめぐ

    る当事者不在の歴史が不可視にしてきた精神障害者の主張を明らかにすること

    ができた.

  • 社会政策におけるマルサス人口論の位置づけ
    山田 唐波里
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 18 巻 p. 129-150
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/07/02
    ジャーナル フリー

    本稿の課題は,日本における「社会的なもの」の系譜学的な検討作業を,人

    口の量的問題をめぐる議論との関連のなかであらためて行うことである.とく

    に,日本における「社会的なもの」の編成過程において重要な役割を果たした

    とされる,1920 年前後における社会政策の生存権論を中心に,それが人口論

    とどのような関係にあったのかを検討する.

     検証の結果,日本における「社会的なもの」の出発点であった生存権は,マ

    ルサスが示した人口法則によって限界づけられると同時に,その人口法則によ

    って限界を拡張していくものとされていた.人口法則の帰結としての生存競争

    が,普遍的な生存権を否定するものであると同時に,進歩の機制をも構成して

    いると考えられたのである.そして,社会政策の「進歩」の理念と結び付くこ

    とで,社会政策においてとりわけ後者の側面が重要視されることになった.

     他方で,人口増加によって生存競争が激しくなり過ぎれば,社会秩序は破綻

    してしまうとも考えられた.社会政策のもう1 つの理念である「調和」との関

    係において,生存権の問題は生活保障の問題として新たに位置づけられること

    になった.

     こうして,「進歩」と「調和」の双方を同時に可能にする範囲での競争を実

    現するために,社会政策は競争の根本条件である人口の統制へと向かうことに

    なった.そしてその議論の先に,社会的人口政策論が完成することになったの

    である.

  • 御旅屋 達
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 18 巻 p. 151-173
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/07/02
    ジャーナル フリー

    子どもの発達障害への関心の高まりを追うような形で,大人の発達障害もま

    た社会的課題となっているが,その需要に比して大人の発達障害者向けの支援

    の整備は十分とはいえず,それを代替するような形で当事者活動へのニーズが

    高まっている.しかし,多様な特性を有した発達障害者同士が,困難を共有し,

    解決する方法については不明な点が多い.本稿は,発達障害者のコミュニティ

    において,利用者がいかなる方法で相互に「信頼」を担保し,互いのメンバー

    シップを確認しているのかについて検討を行った.

     本稿で得られた知見は次のとおりである.第一に,当事者コミュニティのメ

    ンバーシップの確認において「発達障害」という診断があることそれ自体は大

    きな意味を持たない.第二に,発達障害の当事者であることが,専門家が支援

    者として信頼される条件となっている.第三に,当事者同士のコミュニティに

    おいては,同じような困難を経験しているという信頼に基づいて,儀礼的な行

    為が免責されている.第四に,コミュニティのメンバーは,メンバー同士の身

    体状況を参照しながら自身の身体の状況を確認していることがわかる.第五に,

    儀礼的行為が免責されることにより,対人関係上のリスクの無効化が図られて

    いる.

  • 親子関係,援助内容,公的サービス利用に着目したマルチレベル分析
    西野 勇人
    原稿種別: 研究論文
    2021 年 18 巻 p. 175-194
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2022/07/02
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,高齢の親に対する子世代からの実践的援助がどのようなパ

    ターンを形成しているかを明らかにすることである.特に,子世代の誰がケア

    を担いやすいのか,公的介護サービスの利用は子世代からのケアの内容とどう

    関連しているのか,という2 点を掘り下げる.分析には「全国高齢者パネル調

    査」(JAHEAD)のデータを用い,回答者と子世代からなるダイアドデータを

    作成した.分析においては,「援助なし」「身体的介護を提供」「家事・生活的

    援助のみ提供」という3 つのカテゴリをアウトカムとしたマルチレベル多項ロ

    ジスティック回帰モデルによる推定を行った.分析の結果,回答者からみた続

    柄では,娘によるケア提供の確率が高かった.また,親の性別の効果は,2 つ

    のアウトカムで異なっていた.父親と比べ母親に対しては,子世代は身体的介

    護を提供する確率が低く,また家事・生活的援助のみを提供する確率が高いこ

    とが示された.次に,タスク別に分けると,身体的なケアの提供確率に対して

    は在宅の公的介護サービスの利用が正の相関を持っていたが,家事・生活的援

    助のみを提供する確率に対しては公的サービスは明確な効果が確認できなかった.

┃書 評┃
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