抄録
近年,偏った栄養摂取や不規則な食事,摂食時の不良姿勢など食生活が変化している.しかし一般的な摂食時の姿勢である足底の接地の有無や体幹の傾斜が咬合接触面積および咀嚼能力に及ぼす影響について述べた報告は極めて少ない.そこで,本研究では成人を対象に足底の接地の有無や体幹の傾斜と咬合接触面積および咀嚼能力との関連について検討を行った.
咬合接触面積はT-scanⅢ®にて測定し,咀嚼能力は検査用グミゼリーの嚥下までの咀嚼回数と咀嚼時間を測定した.被験位はいずれも座位によるもので,足底を接地した状態で床面に対して体幹を垂直に,眼耳平面を水平にした姿勢を基準位とし,不良姿勢を想定した他の3種の姿勢の4種の姿勢を条件とした.基準位における咬合接触面積,嚥下までの咀嚼回数及び咀嚼時間については各々の相関性,性別との関連性および肥満度との関連性を比較検討した.また4種類の姿勢での咬合接触面積または嚥下までの咀嚼回数及び咀嚼時間の比較について検討を行った.
その結果,性別での咬合接触面積は有意差が認められなかったが,嚥下までの咀嚼回数は男性が有意に少なく,咀嚼時間も男性の方が短かった.また肥満度別での咬合接触面積は有意差が認められなかったが,嚥下までの咀嚼回数は肥満群が標準体重群,低体重群より有意に少なく,咀嚼時間も有意に短かった.嚥下までの咀嚼回数と咀嚼時間の間には高い相関性が認められたが,咬合接触面積と咀嚼回数,咬合接触面積と咀嚼時間の間には相関性は見られなかった.姿勢の変化に伴い,咬合接触面積は他の3種の姿勢で基準位より有意に減少し,嚥下までの咀嚼回数,咀嚼時間は有意に増加した.
以上の結果から,嚥下までの咀嚼回数または咀嚼時間は性別および肥満度で相違があること,また不良姿勢が咬合接触面積,嚥下までの咀嚼回数,咀嚼時間に影響を及ぼすことが示唆された.