抄録
一度失われた組織を修復、さらには再生することが可能となれば、あらゆる疾患の問題
を解決することができるため、我々医療に携わるものにとって再生療法は患者のニーズに
応える最善の治療法ではないだろうか。歯科における再生療法としては自家骨移植が古く
から行われており、今現在も骨の再生を考慮した際のゴールドスタンダードと考えられて
いる。1980年代になり、遮蔽膜を用いたGTR法が登場し、その他にもハイドロキシアパタ
イトなどの人工骨を用いた骨補填材による骨造成、さらにはエナメルマトリックスタンパ
クやFGF-2等の特定のタンパクを用いた歯周組織再生療法など、これまで数多くの再生療
法が考案されている。また、これらの骨補填材やタンパク製剤を併用した再生療法により
良好な臨床成績を収めており、現在では治療を考慮する際の第一選択であるともいえる。
しかしながら、既存の治療では改善困難な広範な組織欠損、いわゆるアンメットメディカ
ルニーズに対する絶対的な治療法は未だ確立するに至ってないのも事実である。
1993年にLanger & Vacantiにより提唱された組織工学の概念では、細胞・足場・成長因
子の3要素が組織の構築に必要不可欠であることが示されている。自家骨移植を除く上記
の再生療法は、宿主に存在する健全で未分化な細胞に働きかけるのみであり、重要な因子
である細胞を用いることが次世代の再生療法の鍵となる。こうして、再生療法の研究フィー
ルドは細胞治療へと移り変わっており、数多の研究者が様々な種類の細胞を用いて基礎的
研究を行い、臨床応用を目指すべく研究開発に着手した。特に歯周組織再生療法では体性
幹細胞(人体のあらゆる組織に存在しており、限定した分化能を持ち、かつ造腫瘍性のリ
スクが極めて低いといった細胞)に分類される間葉系幹細胞(MSCs)が注目されており、現
在では実用可能な再生医療等製品も開発されている。このような細胞を用いた治療法は、
これまでよりもさらに良好な成績が期待でき、今後も加速度的に再生療法研究は発展して
いくと考えられる。その一方で、いまだどのような症例にも対応し得る万能な再生療法も
確立されておらず、まだまだ課題は多いとも言える。
本シンポジウムでは歯科における再生療法の変遷と、口腔疾患を対象とした細胞治療の
主役となるMSCsの基礎、および臨床研究の実態、さらには再生療法の今後の展望や課題
などについて解説したい。