いままでの歯科医療では、患者さんが人生の最終段階を迎えた時に、どのように関わる
必要があるのか、あまり考えられてきませんでした。しかし高齢社会が到来し、歯科訪問
診療を中心に、患者さんの人生の最終段階に関わる機会が増えることで、そのような知識
を欲する歯科医師も増えてきました。
一方、1960年代に欧米で盛んにおこなわれるようになった緩和医療は、死生学という学
問分野と関連し、一般的にも知られるほど普及してきました。死生学は古くは江戸時代か
ら教育や哲学として日本でも語られてきた学問ですが、その死生学を緩和医療と合わせた
形にすることで普及させたのは、歯科医師であることはあまり知られていません。コロン
ビア大学歯学部教授であったAustin H. Kutscherは、Oral medicineの第1人者であったの
と同時に、死生学の第1人者でもあったと言われています1)。Austin H. Kutscherは、著
書の中で、当時のアメリカ国内では人生の最終段階にある患者の口腔ケアが普及しておら
ず、悲惨な光景を目の当たりにしたことを綴っています。そして口腔ケアの重要性を説き、
歯科医師・歯科衛生士の積極的な参加も呼び掛けています。また、同時に歯科医療関係者
にも死生学的な知識を得ることを勧め、患者の最後まで寄り添える歯科医療の拡充を切望
していました。
Austin H. Kutscherの著書には歯科医師に向けて次のような記述があります。
He must also be made to feel that his obligations do not end when the patient walks
from his office but extend, as do the physician's, to the deathbed.
「医師が臨終の場面まで立ち会うように、歯科医師は患者が診療室を出ていったら、それで
終わりということではなく、その責務がそれ以降も続くことを意識しなければなりません。」
今回の特別講演では、Austin H. Kutscherが説いた死生学と歯科との関連を中心に、患
者さんの人生の最終段階における歯科の役割について解説していきたいと思います。
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