近畿理学療法学術大会
第48回近畿理学療法学術大会
セッションID: 96
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視覚探索活動を重度感覚障害に用いた固有感覚との統合
*伊月 幸宏青山 真由子白木 麻里亀井 圭介田中 健一田畑 博崇古川 博一森田 翔子 ( ST )佐藤 将人 ( OT )
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キーワード: 視覚探索, 固有感覚, 歩行
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抄録
【はじめに】全ての課題遂行は移動を背景とし,ヒトが特化してきた機能に歩行がある.今回,担当した症例の歩行は足底接地面へ固視し,移動を特定する外部環境からの視覚情報を捉えることができず,移動空間へ連続した反応が乏しかった.この移動を特定する視覚と固有感覚の統合に着目し,視覚的安定と固有受容的安定を考慮した介入により自律的制御下へ歩行に改善がみられたので報告する.
【症例紹介】51歳,男性.平成18年6月に左被殻出血発症.Barthel index:90点,歩行項目15点.
【臨床像】 歩行において視線は固定的で周囲を窺えず,頸部,非麻痺側体幹での屈曲固定により,体幹回旋や肩甲帯の柔軟性が乏しく連合反応を助長していた.麻痺側立脚期から遊脚期では下部体幹での滞空が行えず背部筋での制動がみられ,麻痺側体幹・下肢の連結が乏しく麻痺側下肢の方向付けた運動性および安定性が低下していた.また,周囲へ先行する視線の動きがなく,追随した姿勢セットの連続性が欠如し,非効率的な歩行であった.
【治療仮説から介入】流動的な視覚探索によって視覚と固有感覚との統合を図り,身体が空間内に定位されることで,行為に即した姿勢セットから環境に対して自律的で効率的な歩行へ期待した.治療は支持面を強調することで安定性を保障し,動く為の情報提供から定位を経験させ,同時に踵部を強調し,足関節背屈を促した.次いで,非麻痺側上肢でのリーチアウトから覗き込みを通して視覚探索を行い肌理の変化を捉えさせ,徒手的に頭頚部・体幹・下肢の運動連鎖を賦活させた.
【結果】歩行において屈曲固定の減少から,頭頚部,体幹の柔軟性が現れ,麻痺側遊脚相では下部体幹の滞空が向上し選択的な下肢の振り出しがみられ,立脚相への構えから下肢の抗重力伸展活動が現れた.また,周辺視野を捉えることで対象物に対する構えがみられ、環境に即した効率的な歩行へ改善した.
【考察】柏木は「片麻痺患者は視知覚に固執するが,それはかえって姿勢制御における視覚機能自体を低下させる」と述べている.症例は麻痺側不安定性に対して視覚を固定的に利用し姿勢制御を図っていた.その為,自己が動くことによって生じる視覚情報と固有感覚情報の協調関係が図れず,空間定位が崩れ非効率な歩行となっていた.治療では非麻痺側上肢のリーチアウトから探索的に肌理の変化を捉えることで空間への適応を図り,視覚と固有感覚の協調性から,行為に即した姿勢セットに連続性が得られた.これは,流動的変化を探索し分節化された環境への肌理の変化といった視覚的手がかりに基づく視覚探索が誘発され固有感覚との統合が促進されたと考える.また,自律的制御への手がかりにより,頭部から運動連鎖機構が賦活され,足底からの固有感覚情報が前庭システムの中で統合され抗重力伸展活動が促進された.そして進行方向に対する視覚探索活動から自律的に環境へ即した歩行へ改善されたのではないかと考えられる.
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© 2008 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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