主催: (社)日本理学療法士協会近畿ブロック
【目的】
筋疲労の回復手段においては,軽運動が効果的だという報告は多くある.しかし,軽運動による筋疲労回復効果の違いについて比較されている報告は少ない.臨床上,運動療法後の疲労を最小限にするために筋疲労の回復に対して最も効果的な軽運動の運動強度を知ることは,その後の治療を円滑に進めていく上で役立つと考える.そこで本研究では軽運動の運動強度を変えることで筋疲労の回復効果にどのような違いが出るか比較検討した.
【方法】
対象は健常成人男性28名(年齢21.25±0.59歳)とし,軽運動の運動強度による筋疲労の回復効果を比較するため,対象者を安静群(7名)と運動群(21名)に分類した.筋疲労後の回復手段として,安静群はベッド上臥位にて安静にさせ,一方,運動群は3群に分け,自転車エルゴメーター(OG技研社製EC-1600)を用いて、各群に30W,60W,90Wで6分間の運動負荷(以下、軽運動)を与えた.
まず,自転車エルゴメータを用いて全対象者に5分間のウォーミングアップをさせた.その後に,サイベックスNORM(ヘンリージャパン社)を用いて各対象者の疲労前の膝関節伸展等尺性収縮時のピークトルク値を計測した.この際,膝関節屈曲角度は60度とし,5秒間の最大収縮と3秒間の休憩を1セットとし,これを3セット行い,最大値を各対象者のピークトルク値とした.その後,筋疲労誘発運動を行った.筋疲労誘発運動として,膝関節屈曲60度で5秒間の等尺性最大収縮と5秒間の休息を繰り返す運動を行わせた.この運動は膝関節伸展のピークトルク値の70%以下が3回連続するまで行わせ,これを本研究の筋疲労発生の目安とした.筋疲労誘発運動後,各群に回復手段をとらせ,筋疲労誘発運動前と同様の方法でピークトルク値を計測し,疲労前のピークトルク値を100%として軽運動後のピークトルク値の回復率を算出した.
統計学的検討として,各群の回復率に対して一元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を行った.なお,有意水準は5%未満とした(Statcel97使用).
【説明と同意】
対象には本研究の目的を十分に説明し同意を得た.
【結果】
安静群の回復率は84.00±6.30%,30W群の回復率は95.00±3.06%,60W群の回復率は91.29±5.44%,90W群の回復率は84.00±10.65%であった.安静群と30W群間では30W群の方が回復率は有意に高値を示した(p<0.05).また,30W群と90W群間では30W群の方が有意に高値を示した(p<0.05).
【考察】
本研究では対象者に筋疲労誘発運動を行わせた.各対象者によって本研究で規定した筋疲労を認めるまでの実施回数に差はあったが,全対象者で筋疲労の発生を確認できた.Sahlinによると,短時間の最大努力での筋収縮維持,特に等尺性収縮の場合,中枢性因子より末梢性因子が筋疲労の主要因となると報告されている.本研究の筋収縮形態は等尺性最大随意収縮であるので,筋疲労の中でも特に末梢性因子が多く関与していると考えられる.
本研究では安静群,90W群よりも30W群で有意に疲労回復効果が認められた.八田は軽運動を実施することで安静よりも乳酸の除去効果が高く,筋疲労回復に効果的であると報告しており,本研究では30Wは安静群に比べ,回復率は高値を示した.また,山本らは84Wから99Wのような運動強度が高い軽運動では乳酸の回復には有意な効果を示したが,作業能力の改善は望めないと報告しており,本研究でも30W群と比べて90W群の回復率は低値を示した.本研究では等尺性筋力を指標として疲労回復に着目した結果,乳酸や作業能力を指標とした先行研究と同様の結果が得られた.つまり、安静群に比べ30W群では筋疲労回復に効果があり,90W群は軽運動の運動強度としては高すぎるため,疲労回復効果がみられなかったと考える.
本研究で60W群は30W群や90W群間と有意な差はなかったため,60Wが疲労回復に対して効果的であるか否かを述べることはできない.しかし,30Wが疲労回復に対して効果的であり,90Wでは運動強度が高すぎることは明らかとなったため,今後30Wから60Wの間で疲労回復を目的とする軽運動として最も効果的な負荷量を運動強度の設定を増やし検討していく必要があると考える.
【理学療法研究としての意義】
疲労回復を目的とした軽運動には方法,負荷量など様々なものがあるが,今回の実験結果は適切な負荷量を決めるにあたって有用な指標となる.