抄録
【目的】
ゆっくりとした速度で歩く脳卒中後片麻痺患者の中には、立脚初期から膝、股関節を屈曲させた荷重応答や麻痺側立脚期の著明な短縮、歩幅の非対称などを呈している者が多く、相当のエネルギー消費が生じていると推察できる。歩行時のエネルギー消費の指標として、歩行の生理的コスト指数(Physiological Cost Index:以後、PCI)がMcgregorにより提唱されている。我が国においても、PCIの脳卒中後片麻痺者への有用性が示されており、歩行速度との関連について多数の報告がある。
今回、脳卒中後片麻痺者は、歩幅の非対称性や麻痺側支持能力の低下を抱えているケースが多いことに着目し、重複歩、麻痺側下肢荷重能力とPCIとの関連について検討したので報告する。
【方法】
当院に入院されている3分間以上の連続歩行が可能な脳卒中後片麻痺者12名を対象とした。内訳は、歩行自立8名、見守り4名。平均年齢は67.6±9.4歳。下肢Br.stageは_VI_-1名、_V_-7名、_IV_-3名、_II_-1名。発症からの平均期間は127.5±56.9日であった。なお、測定に支障をきたす疾患や、明らかな高次脳機能障害がないことを確認した。対象者に対し、PCI、麻痺側重複歩比、麻痺側下肢最大荷重率weight bearing rate(以後、麻痺側WBR)の3項目を測定した。
PCI(beats/m)は、次の式で算出した【(歩行時心拍数-安静時心拍数)/歩行速度】。60mの長方形歩行路を至適歩行速度で3分間歩行した前後の心拍数をコニカミノルタ社PULSOX-300で測定し、歩行距離から歩行速度を算出した。なお、装具や杖使用の有無は問わなかった。麻痺側重複歩比(%)は、最大10m歩行テストを実施し、麻痺側支持脚時の歩幅を重複歩距離で除した。麻痺側WBR(%)は、2台の市販体重計上の立位姿勢とし、麻痺側下肢で5秒間最大限保持可能であった荷重量(kg)を体重(kg)で除して算出した。
統計処理はExcel statcel2を用いた。3項目の単相関係についてスピアマン順位相関係数を用いて分析した。さらに、PCIを目的変数、麻痺側重複歩比、麻痺側WBRを説明変数とした重回帰分析ステップワイズ法(変数増加法)を用いて検討した。検定時の有意水準は5%とした。
【説明と同意】
対象者に研究の主旨を説明し,参加の同意を得た上で行った。本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
PCI(beats/m)は0.20~2.37(平均0.67±0.64)、麻痺側重複歩比(%)は0.30~1.22(平均0.87±0.23)、麻痺側WBR(%)は0.34~0.99(平均0.77±0.2)であった。PCIと麻痺側WBRに有意な負の相関(rs=-0.63,p<0.05)を示した。重回帰分析にて、PCIを目的変数にした回帰式に取り込まれた説明変数(標準回帰係数)は、麻痺側重複歩比(-0.71:p<0.05)、決定係数は0.46であった。
【考察】
McGregorの報告では、健常成人の至適歩行速度におけるPCIは0.11~0.51(beats/m)としている。PCIは、自身が選択した好ましいと感じる歩行速度において最小になるとの報告もある。結果より、対象者のPCI平均値0.67(beats/m)は健常成人よりも高値を示した。つまり、対象患者の歩行におけるエネルギー消費は高い値であった。また、PCIと麻痺側WBRに有意な負の相関を示したが、PCI値を目的変数として分析したステップワイズ重回帰分析の結果では、麻痺側重複歩比が抽出された。つまり、PCIとの関連においては、麻痺側下肢最大荷重能力よりも、重複歩という一連の左右交互のステップの中で、麻痺側下肢支持の歩幅比が非麻痺側に近づくあるいはそれ以上の方が強い関連があることが示唆された。
麻痺側重複歩比が高い者は、非麻痺側下肢をより前方に踏み出すことが可能であり、慣性による前方推進力が左右交互に期待できる。結果、PCIに影響を及ぼしたと考えられる。Perryは、単脚支持期のHeel Rocker時に、重心の上下動に初速を与えることが、歩行エネルギーコストに重要であると述べている。
脳卒中後片麻痺患者の歩行において、麻痺側下肢荷重能力は必要と考えられるが、麻痺側立脚期の歩幅が重複歩距離に対する割合を増大するようなステップ動作も同時に考慮する必要があると考えられた。今後は、バランス能力を加えてPCIとの関連について検討していく必要がある。
【理学療法研究としての意義】
PCIは簡便に評価が可能であり、麻痺側重複歩比、下肢荷重率など、歩行能力に必要な項目との関連を検討することで、歩行エネルギー効率向上を目的とした介入因子を探ることは意義があると考える。