日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2003年度年会
セッションID: K6-10
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珪藻のナノスケール構造とその加熱変化
*北川 結香奥野 正幸木原 國昭朝田 隆二
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抄録

はじめに
 珪藻は珪質の細胞壁を持つことが知られている。その珪質細胞壁はfrustuleと呼ばれる上下二枚の殻が合わさっている。そのシリカの殻は多孔質で様々な形をしており、古くから分類学上重要視され、近年電子顕微鏡によりそのミクロスケールの構造は詳しく調べられてきている。しかしながら、ナノメータスケールの構造、組織についての研究はほとんど行われていない。本研究では珪藻殻の分子-原子レベルの構造を主にX線回折と顕微赤外分光測定によって明らかにし、さらに加熱による構造変化を解明することを目的とした。珪藻殻は非晶質含水シリカで、珪藻の有機膜に多く存在する水酸基を持つアミノ酸(セリンとスレオニン)が多く含まれておりそれらが珪酸の重合を促進する有機鋳型であると考えられている。その詳しい構造と加熱変化から得られる知見は有機物とシリカ鉱物との相互作用についての情報を与えると期待される。
試料と実験
 珪藻は北海道の知床半島にあるカムイワッカの滝で採取した。カムイワッカの滝は強酸性温泉(pH1.0から2.0)である。この珪藻は羽状目で、大きさ(長径)約30ミクロン、左右対称の長楕円形をしている。化学組成はエネルギー分散分析器(EDX)のついたSEMによる分析によりほぼSiO2であることが確認された。加熱変化については、珪藻を電気炉中で50から1150℃の温度で24時間加熱し、室温に冷却した試料を測定に用いた。顕微赤外分光法はJasco FT/IR610+Micro-20顕微赤外分光計(対物レンズ32×)を用い、透過法で測定を行った。測定は、CaF2板を用いて2,3固体の珪藻について範囲ν=650から4000cm-1(分解能4cm-1)の範囲で行った。さらに、10mg程度の珪藻を用いて粉末X線回折測定(リガクRint2200粉末X線回折計、Cu-Kα線)を行った。
結果
1)室温での珪藻の構造
 非加熱処理の珪藻のX線回折パターンは非晶質物質に特有のブロードなものを示し、そのプロファイルから珪藻殻の構造はシリカゲルに類似した非晶質のSiO2であることがわかった。また、強度の弱い結晶相のピークがみられ、このことから少量のクリストバライトや石英などのSiO2鉱物を含むことが考えられる。赤外分光の分析により、ν=1200cm-1に四面体配位のSi-O伸縮振動に割り当てられる強いバンドが見られることから、珪藻殻の構成単位がSiO4四面体であることがわかった。また有機物に関するバンドやSi-OHのバンドもみられ構造中にそれらを含むことがわかった。
2)構造の加熱変化
 赤外分光測定より有機物や水は約400℃でなくなり、また600℃以上でSi-O伸縮振動によるバンドの変化も見られた。このSi-Oのν=1000~1300cm-1のバンドは高温で位置が高振動数側にシフトし、さらにピークが鋭くなった。珪藻の加熱サンプルのX線分析より加熱によって非晶質のブロードな回折パターンが変化することがわかった。このことから非晶質シリカの中距離構造になんらかの変化が起きていると思われる。また、結晶質の回折ピーク強度が増加することよりわずかに結晶化が進んだと考えられる。

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© 2003 日本鉱物科学会
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