日本鉱物学会年会講演要旨集
日本鉱物学会2004年度年会
セッションID: k09-08
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斜方輝石のFe-Mg相互拡散係数:Petersburgユークライト隕石への適用
*海田 博司ブキャナン ポール
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抄録
 輝石は,カンラン石と同様,隕石や地球産の岩石に普遍的に産出する鉱物であるが,熱変成過程等の熱的歴史の解析に必要な拡散のデータはカンラン石に比べ,詳細に検討されている例が少ない(例えば[1])。本研究では,これまで報告されている斜方輝石の拡散係数のうち二種類を比較・検討した。また,その拡散係数をポリミクトユークライトであるPetersburg隕石中の斜方輝石鉱物片に適用し,熱変成過程を考察した。 比較した拡散係数は,Ganguly and Tazzoli [2](以下,G&T)とMiyamoto and Takeda [3](以下,M&T)で報告されているものである。一般に拡散係数は,温度,元素の濃度,酸素分圧等の関数であるが,M&Tでは温度の関数としてのみ報告されており,G&Tでも温度とFe濃度依存性のみである。しかしながら,G&Tの拡散係数はiron-wüstite bufferで求められたことが分かっているので,補正をすることによって温度,Fe濃度,酸素分圧の関数として表すことが可能である[4]。これらの拡散係数の値を比較すると,酸素分圧よりもFe濃度の依存性が大きいことが分かった。また,比較的高温域(∼1000℃から∼800℃)では,G&TとM&Tの拡散係数は非常に近い値となるが,より低温域(∼500℃)では両拡散係数は三桁程度異なる値となる。 これらの拡散係数をBuchanan and Kaiden [5]によって解析されたPetersburg隕石中の斜方輝石鉱物片の化学的ゾーニングに適用して計算を行ったところ,850℃から400℃の冷却速度としてG&Tからは0.12℃/年,M&Tからは0.25℃/年が得られた。低温域での拡散係数の値の相違にもかかわらず近い値が得られ,これらの冷却速度はいずれもこの温度範囲の冷却期間として数千年に相当する。この冷却期間は,Buchanan and Kaiden [5]がPetersburg隕石の熱変成が母天体上でのマグマの貫入による接触変成作用によるものであるとして熱伝導の計算から求めた冷却期間と調和的である。【参考文献】[1] Miyamoto M. et al. (2002) Antarct. Meteorite Res., 15, 143-151.[2] Ganguly J. and Tazzoli V. (1994) American Mineralogist, 79, 930-937.[3] Miyamoto M. and Takeda H. (1994) J. Geophys. Res., 99, 5669-5677.[4] Miyamoto M. et al. (1986) J. Geophys. Res., 91, 12804-12816.[5] Buchanan P. C. and Kaiden H. (2004) LPS, XXXV, #1502.
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© 2004 日本鉱物科学会
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