2015 年 5 巻 1 号 p. 5-
2010 年には、土居や「甘え」に関するシンポジウムや特集がゆかりの学会などでいくつか持たれた。そこでは身近な方々による新たな発表や論考から、「甘え」理論について再認識する機会であった。その中でも筆者は例えば、聖母像などに見られる「甘え」の上下関係や、「心の科学と宗教」の関係について、改めて関心を惹かれた。そこで本稿では、①最近の土居や「甘え」に関する論考や発表から新たに学んだ知見を踏まえて、「甘え理論」についての新たな理解を概観提示し、若干の考察をした。そして、②日本の禅僧良寛に、「上下関係を持ち、本来非言語的なものであるところの“甘え”」を見出し指摘した。そしてこれを、「甘え」を具体的に捉えるためのモデルとして提示した。さらに、③「心の科学はありうるか…」に対する「…宗教だよね」という土居の発言を素材にして、「心の科学と宗教」の在り方に関して「真実性」(Authenticity,ドイツ語で Wahrhaftigkeit と記す)の観点も踏まえて考察した。