2021 年 68 巻 1 号 p. 70-75
侵入害虫クビアカツヤカミキリは,幼虫がモモ,ウメ,サクラ等の樹幹内部を食い荒らすことで,樹木を衰弱・枯死に至らしめる。国内では 2013 年に愛知県のサクラで,また,2015 年に徳島県でモモの被害が初めて確認された。栃木県では 2017 年に佐野市のモモ産地において約 4 割の園地で被害が確認され,翌年には被害園地率は約 8 割に拡大した。本害虫の被害拡大を防ぐため,モモの生産現場では成虫を対象とした薬剤散布が実施されているが,適期防除を行うためには詳細な成虫発生時期の把握が不可欠である。そこで,被害の発生しているモモ園で,2018 ~ 2020 年の 3 か年にわたって成虫の捕獲調査を実施し,その発生消長を明らかにした。調査園地における成虫の確認期間は,2018 年は 6 月 1 日~ 8 月 1 日,2019 年は 6 月 14 日 ~ 8 月 13 日,2020 年は 6 月 17 日 ~ 8 月 5 日で概ね 2 か月間にわたり,捕獲数のピークは 3 か年とも 6 月下旬であった。このため,成虫を対象とした薬剤散布は 6 月上中旬 ~ 8 月中旬にかけて,特に 6 月下旬の前後を重点的に実施する必要があると考えられた。また,被害樹に成虫脱出防止のために設置されたネット内における成虫捕獲推移を調査し,本虫の被害樹からの脱出消長を明らかにした。成虫の脱出が最後に認められたのは,2018 年は 7 月 4 日,2019 年は 7 月 16 日,2020 年は 7 月 20 日であり,脱出期間は概ね 1 か月間に及ぶことが明らかとなった。これらのことから,ネット内の見回りと捕殺の重点実施時期は 6 ~ 7 月下旬の期間であると考えられた。2018 年および 2019 年に捕獲された成虫の体サイズを雌雄別に調査した結果,雄は体長 17.4 ~ 37.4 mm,体幅 4.7 ~ 11.1 mm,雌は体長 19.8 ~ 37.8 mm,体幅 5.4 ~ 11.8 mmであり,これまでに報告のあった標準的な体長の約半分程度の矮小個体が一定数認められた。また,2018 年の雌雄間と雄の年次間で体長に統計的に有意な差が認められた。2019 年および2020 年に調査園地で成虫に対して実施された主な防除対策を調査した結果,被害樹のネットによる被覆,本種に対し農薬登録されている糸状菌製剤の設置,成虫に農薬登録のある薬剤の散布が実施されていた。このうち,ネット被覆実施園では,園内の総捕獲成虫数の約 3 ~ 8 割がネット内に留められていたことから,園内の成虫数抑制効果が認められた。糸状菌製剤の設置園と非設置園では成虫密度に差異は見られず,捕獲成虫の感染死虫率も低かったため,効果は不明であった。薬剤散布については,散布実施園の成虫密度の平均は 0.7 頭/樹であった一方,防除を実施していない放棄園では 21.9 頭/樹と差異が認められ,高い効果が示唆された。