主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 19
【はじめに】
これまでにわれわれは,慢性疼痛を呈した要介護高齢者の抑うつ状態が訪問リハビリテーション(訪問リハ)による痛みや生活機能の改善に影響することを報告した(田中陽理・他:PAIN REHABILIATION 11,2021).今回,頚椎症性脊髄症術後に慢性疼痛と抑うつ状態を呈し,閉じこもりとなった要介護高齢者に対し社会参加を促した訪問リハを行った結果,良好な成績が得られたため報告する.
【方法】
症例はX-2 ヵ月に頚椎症性脊髄症術を施行した後に自宅療養となった要介護4の80 代女性で, X 日より週2 回の訪問リハが開始となった.初期評価時の問診では,症例からは「手術したのに歩けません.こんな体になってしまって,誰とも会いたくありません.」との発言が聞かれた.姿勢は円背が著明で,頭痛・腰背部痛・両膝痛の訴えがありNRS で5,痛みの破局的思考を評価するPain catastrophizing scale(PCS) は34 点, 抑うつ(GDS-15) は14 点, TUGT は44 秒,1.6 ~ 2.9METs の低強度の活動時間は1 日平均103分, ADL(FIM) は106 点,Frenchay activities index(FAI) は4 点, 生活空間の評価であるLife space assessment(LSA)は15 点,QOL の評価であるEuroQol5Dimension(EQ5D)の効用値は0.050,社会的孤立を評価するLubben social network scale 短縮版(LSNS-6) は8 点であった.以上の評価結果から,加齢や疾患に伴う異常姿勢,歩行能力・ADL・IADL の低下があり,痛みの破局的思考が強く,抑うつ状態であり,さらに医療への過度の期待から負の感情が強化されており,生活空間の狭小化に伴う閉じこもり状態といった活動・参加能力の低下に加え,QOL の低下を招いているものと考えられた.
【介入と経過】
訪問リハでは症例の「以前のように歩けるようになりたいが,外には出たくない.」という意向を聞き取り,リハ時間以外での活動の重要性を説明し,活動量を増やすように指導した上で,普段使用する椅子での起立練習や歩行練習,自主練習表を用いたセルフエクササイズの定着を図った.3 ヵ月後の評価では,TUGT:25 秒と運動機能に改善を認めたものの,NRS:7,PCS:30 点,GDS-15:12 点と痛みや認知情動面の改善は不十分であった.症例の意向を確認したところ「歩く練習を頑張ろうとしても上手く歩けないし痛くなってしまいます」との発言が聞かれた.そこで以前は友人との交流が盛んであったことを聞き取り,屋外での歩行練習や,近所の方々と交流していた自宅縁側に移動する練習を行った.屋外歩行練習時に近所の方々から声掛けがあったことをきっかけに,週に2 ~ 3 回程度は自宅縁側で過ごすことが習慣となり,自発的に近所の方々との交流が増えていった. 6 か月後の評価ではNRS:2,GDS-15:7点,PCS:15 点,低強度の活動時間は1 日平均122 分,LSA:22 点,LSNS-6:14 点と痛みや痛みの破局的思考・抑うつ・活動量・生活空間・社会的孤立が改善した.症例からは「痛みはあるけど気にならない.外で声がしたらできるだけ玄関の外や縁側には出るようにしています.」といった発言が聞かれた.
【結論】
慢性疼痛や抑うつ状態を呈し,閉じこもりとなった本症例においては,生活場面での運動療法に加え,症例の意向に合わせた自宅縁側での近所との交流や生活空間の拡大といった社会参加の促しは,慢性疼痛・抑うつ状態・閉じこもりの改善に有効であった.
【倫理的配慮,説明と同意】
症例と家族に症例報告のついての説明を行い書面にて承諾を得た,なお,個人情報取り扱いについては当院が定める個人情報取り扱い指針に基づき実施した.