主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 47
【はじめに】
心臓リハビリテーション(心リハ)において,運動療法はその中核をなしており,中高年の心筋梗塞患者に対しては前期回復期より集団運動療法が実施されるのが一般的である。しかし,高齢心不全患者においては,症状や治療反応性に個人差が大きい,複数の慢性疾患に罹患している等の理由から集団運動療法が困難なことが少なくない。そのため,当院では入院期高齢心不全患者に対する運動療法はウォームアップおよびクールダウンも含め,他動的に実施するストレッチングや全身調整運動で個別に対応してきた。一方,慢性心不全患者の再入院率は高く,その要因の一つに運動アドヒアランスの不良が挙げられている。また,集団運動療法は,不安を軽減する心理的効果や,運動に対する自己効力感を向上させる効果を有することが報告されている。そのため,当院では運動アドヒアランスの向上を目的に,2018 年より入院期高齢心不全患者に対してもウォームアップおよびクールダウンを集団運動療法にて実施するよう変更した。しかし,高齢心不全患者における集団運動療法の効果に関する報告は少なく,入院早期からの集団運動療法の多面的効果は不明である。そこで,本研究では入院期高齢心不全患者に対する運動療法効果の基礎資料を得ることを目的に,心リハ前後のウォームアップおよびクールダウンを集団運動療法にて実施した効果を多面的に検討した。
【方法】
対象は,2017 年1 月から2019 年12 月に急性心不全または慢性心不全の急性増悪で入院期心リハを実施した除外基準を除いた76 例(中央値85 歳;78.3-87.0 歳)である。心リハ室訓練開始後,ウォームアップおよびクールダウンを個別で他動的に実施し,通常の心リハを実施した従来群41 例と,ウォームアップおよびクールダウンを集団でセラピストが行う体操を模倣しながら実施し,通常の心リハを実施した集団群35 例に振り分けた。集団運動療法の実施において,対象が高齢者のため転倒には十分配慮し,座位での体操を中心として実施した。また,骨関節疾患等の合併によりセラピストが実施する体操の模倣が困難な患者に対しては,部分的に補助を行った。対象の属性とベースライン(BL)データはカルテより後方視的に聴取し,それぞれ入院時のデータを採用した。心リハ評価は,認知・精神心理・QOL の評価としてMini-MentalState Examination(MMSE),Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS),EuroQol 5 Dimension(EQ-5D)を,身体活動能力の指標として膝伸展筋力,歩行速度,TUG,6 分間歩行距離(6MWD)をそれぞれ心リハ室訓練開始時と退院時に評価した。統計学的解析には対応のあるt 検定およびWilcoxon の符号付順位検定,χ 2 検定を用い,BL における各群の比較,各群内の入退院時評価を比較した。
【結果】
基本属性は,年齢,BMI,在院日数,CONUT,入院前BI は両群間に有意差は認められなかったが,併存疾患指数および心リハ開始までの日数は集団群が従来群に比べ有意に低値であった。MMSE,膝伸展筋力,歩行速度,TUG,6MWD は,両群とも有意に改善を認めた。HADS の不安およびEQ-5D は,従来群では有意な変化を認めなかったが,集団群では有意な改善を認めた。
【まとめ】
ウォームアップおよびクールダウンを集団運動療法で実施することは,個別介入の運動療法に比べ,不安や健康関連QOL を改善する可能性がある。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究にあたり,ヘルシンキ宣言に基づき対象者の個人情報の取り扱いについて個人情報保護法を遵守した。