九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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肩関節脱臼により腕神経叢損傷を呈した一症例
末梢神経系への介入
*内藤 勇人
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p. 67

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抄録

【症例紹介】

症例は60 歳代の女性。夜間トイレに行こうとし転倒受傷。翌日受診し右肩関節脱臼の診断後関節整復したが、腕神経叢損傷疑われ神経伝導検査実施。正中・橈骨・尺骨神経伝導速度の延長、橈骨神経の振幅減少があり、腕神経叢損傷の診断。13 病日目より外来にて理学療法開始となった。尚、受傷前のADL は自立されていた。

【評価とリーズニング】

症例は患肢を抱えた状態で来室。主訴は「右手が重く、挙がらない。痺れて痛い」であった。まず、受傷機転が明確であることからRed flag を除外。次にBodychart にて痺れはC5 ~ C 7領域にNRS 6の痛みがあったが、夜間時痛はなく腫脹や熱感もなかったため炎症性疼痛の可能性は低いと考えた。上肢は弛緩性でWaiter’ s tip position がみられた。右肩甲骨は挙上・上方回旋、頭頚部前屈位、右鎖骨半横指上方偏位が見られ、患肢を抱えた状態で来室されたことからも神経伸張を回避した姿勢であると考えた。また、神経伝導検査などの医学的情報から節前損傷の可能性は低く、より末梢での神経障害であると考え客観的評価に移った。Neurodynamic test( 以下NDT) はUpper Limb Tension Test( 以下ULTT)1・ULTT2a・ULTT2 bで陽性、ULTT3 は陰性。腱反射は患肢ですべて減弱しており、感覚検査ではC5 ~ C7 領域の表在感覚が重度鈍麻していた。また、関節可動域は他動検査より自動運動検査で優位に低下を認めROM-T(自動/ 他動)°は右肩関節屈曲20/165、伸展10/60、肘屈曲40/full、手関節掌屈70/90、背屈0/90、MMT(右上肢のみ記載)は三角筋2、上腕二頭筋2、上腕三頭筋1、手関節屈筋群2、手関節伸筋群0、手指伸筋群0、手指屈筋群3であり、橈骨神経がより障害を受けたと考えた。次に右腕神経叢の触診で疼痛があり、隣接する右斜角筋、胸鎖乳突筋の筋緊張亢進があったことから神経の圧迫による痛みも考えた。本症例は外傷性病変であり神経が周囲組織と癒着を起こす可能性がある。さらに疼痛回避姿勢により神経を圧迫し、神経痛の助長・二重挫滅症候群を起こす可能性もあった。これらから神経癒着防止、アライメント修正、拘縮予防、生活指導を行い末梢神経障害のマネジメントに焦点をあて介入することとした。

【介入内容および結果】

介入頻度は2 回/ 週で、まずは神経の圧迫を緩和する為緊張筋に対しマッサージを実施。その後橈骨神経の神経モビライゼーション( スライダーテクニック) を実施した。また、肩甲帯のアライメント修正を目的に僧帽筋中部・下部線維の収縮訓練を実施。その他に拘縮予防目的にROM 訓練や神経回復に伴い神経筋促通を図り患肢のADL 参加を促した。また、生活指導では肘をテーブルに置くなどして神経伸張緩和の姿勢指導を行った。その後59 病日目にShoulder36 を評価し減点項目に基づいた訓練を実施し、70 病日目に理学療法終了となった。最終評価では疼痛訴えなし。感覚検査では母指~中指の末梢に痺れの訴えはあるが感覚障害はなし。NDT はすべて陰性。頭頚部前屈位姿勢は残存したが肩甲骨アライメントは改善した。腕神経叢を触診しても疼痛はなくROM-T はすべてfull range。MMT は手関節伸展筋群のみ4レベルでその他は5 レベルであった。

【結論】

一般的に末梢神経障害の機能訓練としてROM 訓練、筋再教育、感覚訓練などの報告が散見されるが、神経組織への介入報告は少ない。今回、従来行われているアプローチに加え、神経組織への介入・管理を加えたことでよい成績が得られたのではないかと考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

本演題発表にあたり患者に対し説明し書面で同意を得るとともに、本院の研究倫理審査委員会に承認を得た。(承認番号:学20-0410)

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