九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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2 ステップ値を参考に歩行手段の決定について合意を得られた訪問リハビリ利用者の一症例
*田中 精一*宮内 麻衣*川上 剛*中村 浩一郎
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p. 9

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抄録

【はじめに】

訪問リハビリ(以下、訪問リハ)での主訴として「歩きたい」という希望は多く聞かれるが、歩行補助具の選定については明確な基準がなく選定に難渋するケースを多く経験する。今回、訪問リハ開始時に「杖で歩きたい」という希望が聞かれた利用者に対し、歩行補助具の選定を行う中で、2 ステップ値を用いることでシルバーカー歩行の導入がスムーズとなった症例を経験したので報告する。

【症例紹介】

A氏、90 歳代、女性、要介護度5。2020 年10 月より薬剤性間質性肺炎後廃用症候群のため当院回復期リハビリテーション病棟に入院。既往歴は咳喘息、両膝変形性関節症(以下、膝OA)。2021 年1 月退院。退院時の歩行FIM5 点(歩行器)。退院後は施設入所され、16 日後から週3 回の訪問リハ開始となった。

【初回評価】

主訴は杖で歩きたい。ROM- T(右/ 左)股関節屈曲90/80 Pain +、膝関節伸展-10/-10。MMT 下肢4 レベル。疼痛は両膝OA による安静時痛・荷重時痛を認めた。2 ステップ値= 0(上肢支持なしでの立位保持困難)。杖歩行は軽介助レベルであり、主たる施設内移動手段は車椅子全介助レベル。活動範囲は昼食時のみ食堂へ移動し、食事、入浴(週2 回)以外は日常生活において自室外へ出る機会は少なかった。

【介入経過】

訪問リハでは膝OAによる疼痛や筋力低下に対して運動療法から開始し、疼痛軽減や立位バランス能力向上に合わせて段階的に運動負荷量を上げていく方針とした。訪問リハ開始6 週目に立位バランスの向上を認めたため、自室内四点杖歩行へ移行したが転倒リスクがあり監視レベルとした。9 週目に2 ステップテストを実施し、2 ステップ値を基に歩行補助具はシルバーカーが適していると本人に説明し合意が得られた。その後施設内シルバーカー歩行監視レベルへ移行し、2021 年3 月末で訪問リハ終了となった。訪問リハ利用期間中の転倒・転落などの有害事象はなかった。

【最終評価】

主訴は自宅に置いてある荷物を取りに行きたい。ROM- T(右/ 左)股関節屈曲90/90、膝伸展-10/-10。MMT 下肢4+ レベル。疼痛の訴えなし。2 ステップ値= 0.25。施設内移動手段はシルバーカー歩行監視レベルに改善した。活動範囲として食事は全て食堂で摂取、体操やレクリエーションにもシルバーカー歩行監視にて参加できるまで改善した。

【考察】

本症例は初回の理学療法評価において「杖で歩きたい」との希望が強く聞かれたが、杖歩行は軽介助レベルであり、2 ステップ値は0 であった。訪問リハ開始9 週後の2 ステップ値は0.25 であった。その時点でも杖歩行への希望は聞かれていたが、先行研究1)の結果では杖歩行自立レベルの2 ステップ値は0.56 であり、杖歩行での転倒リスクや年齢の影響などを考慮すると、現状ではシルバーカーでの歩行が最適ではないかと説明。「歩けるようになっただけでも十分」と利用者より理解を得られたため、施設内シルバーカー歩行監視レベルへ移行となった。今回利用者の歩行能力に適した歩行補助具を決定する過程において、PT の主観ではなく、客観的な指標である2 ステップ値を用いたことによって、利用者との合意形成がより得られやすくなったと感じた。また定期的に2 ステップテストを実施することで利用者の歩行能力把握が可能であり、目標に対してのリハビリプログラムの選択や予後予測にも役立つと思われる。参考文献1)石垣智也、尾川達也、他:在宅環境での歩行能力評価としての2ステップテスト:理学療法学.2021

【倫理的配慮,説明と同意】

本症例に対して本報告について書面で説明を行い同意を得た。尚、本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:01720211)。

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© 2021 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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