九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 49
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慢性腰痛を有する症例の一考察
仙腸関節の動きから考える
*桑野 敬子栄 美映豊田 彩古田 幸一
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キーワード: 慢性腰痛, 仙腸関節, 筋連結
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抄録

【はじめに】
 臨床現場では慢性的な腰痛を訴える患者の原因部位の特定に難渋するケースは多々ある。今回、妊娠・出産を機に仙腸関節に疼痛を有している症例に対して、仙骨の動きとコアユニットの関与に着目し、解剖学的に原因追求を行った。
【症例紹介と理学療法評価】
慢性腰痛(非外傷性 20年前の出産直後から)を有する42歳女性 身長154cm 体重45kg BMI19 hypertonus:左広背筋、右大殿筋・梨状筋・大腿二頭筋・多裂筋・骨盤底筋群 圧痛:右長背側仙腸靭帯、右仙結節靭帯 疼痛出現動作:歩行右立脚期、右側への寝返り動作時、股関節伸展位からの起きあがり動作時 ActiveSLR:右側下肢挙上時に仙腸関節に疼痛(+) 呼吸:胸郭の可動性(Lt>Rt)
【アプローチ及び考察】
 仙腸関節には閉鎖位と閉鎖力をもつセルフロッキング機構があり、仙骨うなずきによる関節面の適合性、それに伴い張力を増す靱帯によって安定性を有している。この機構の安定性は動的なものであり、仙骨のうなずきが動的に起きることによって負荷を効率的に伝えている。症例は歩行立脚期、起き上がり動作時の仙骨の起き上がり運動が助長される動作において痛みを生じていた。仙骨の動きと圧痛を生じている1)長背側仙腸靭帯2)仙結節靭帯について解剖学的に考察する。1)長背側仙腸靭帯は多裂筋とともに仙骨の起き上がり運動を制御しており、小さな神経と自由神経終末の分布が豊富である。2)仙結節靱帯の上部線維は長背側の表層を走行しており、長背側仙腸靱帯と同様に仙骨の動きを制御する。また、内・外側部の線維は梨状筋、大腿二頭筋、大殿筋との連結があり、過剰収縮していることから靱帯が伸張され、負荷が生じている。以上のことから仙骨の動きに関する二つの靭帯に疼痛の原因があると推測した。症例は右大殿筋を過剰収縮させ、アウターユニットを構成している左広背筋を連動して収縮させることで動作時の仙腸関節の不安定性を補っていた。アプローチとして、仙骨を中心とした骨盤帯の機能改善を図るため、骨盤帯の安定性に寄与する横隔膜、腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群のコアユニットに着目した。骨盤底筋群、横隔膜は仙骨の起き上がり運動に、多裂筋、腹横筋は仙骨のうなずき運動に関与していることから、まず横隔膜の柔軟性を獲得し、吸気時の横隔膜の下方収縮と同時に下方への遠心性収縮として働く骨盤底筋群の柔軟性を促した。更に坐位にて骨盤正中位での呼吸exを行い、多裂筋、腹横筋および胸腰筋膜を含めて協調的な収縮を促した。結果、コアユニット機能改善により動的な仙骨の動きに対して骨盤帯の安定化が図れ、疼痛軽減に至った。
【まとめ】
 一般的な産後腰痛を抱える症例を通して、仙腸関節やコアユニットの重要性を再認識した。今後、骨盤帯に関連する腰仙関節や股関節に対しても更なる理解を深め、理学療法を展開していきたい。

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© 2008 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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