マーケティングジャーナル
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特集論文 / 招待査読論文
パーソナライズ広告に対する消費者の知覚の多様性
竹内 亮介
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2020 年 40 巻 1 号 p. 43-55

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Abstract

パーソナライズ広告は,個人情報の収集と活用を伴うがゆえに,消費者のニーズに関連した情報を提供する可能性だけでなく,彼らのプライバシーを侵害してしまう可能性もある。パーソナライズ広告を視聴する消費者は,(1)関連性をプライバシー侵害の懸念より高く知覚したり,(2)前者より後者を高く知覚したり,(3)両者を同程度に知覚したりするであろう。これら3種類のパターンの内の特定の1種類で消費者がパーソナライズ広告を知覚するのはいかなる状況においてであるかを識別することが,本研究の目的である。研究1においては,促進焦点傾向の消費者が,利得が生じる点(/損失が生じない点)を訴求するパーソナライズ広告を視聴する場合に第一(/第三)のパターンが生じること,および,私的事実に関して予防焦点傾向の消費者が,パーソナライズ広告を視聴する場合に第二のパターンが生じることを示す。また,広告主やウェブサイトの信頼が高い状況に着目する研究2~研究3においては,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者が,利得が生じる点(/損失が生じない点)を訴求するパーソナライズ広告を視聴する場合に第三(/第一)のパターンが生じることを示す。

Translated Abstract

While personalized ads provide information that is relevant to consumers’ needs, they may also violate consumers’ privacy because such ads involve collection and use of personal information. When consumers browse a personalized ad, the level of perceived relevance can be (1) higher than, (2) lower than, or (3) equal to the level of perceived privacy concern. This research aims to identify the conditions under which each of these three patterns occurs. Study 1 shows that the first (third) pattern occurs if consumers with a promotion focus browse a personalized ad depicting the gain (non-loss) of the product, and that the second pattern occurs if consumers with a prevention focus regarding private facts browse a personalized ad. Studies 2 and 3 show that the third (first) pattern occurs if consumers with a prevention focus regarding product consumption browse a personalized ad depicting the gain (non-loss) of the product in the situation that advertisers or websites are more trusted.

I. 問題意識

情報技術の飛躍的な進展を受けて,広告を出稿するマーケターは,人口統計学的情報,位置情報,オンライン上の検索・閲覧・購買の履歴,およびアプリケーションの使用履歴といった個人情報を積極的に収集し活用するようになっている。そのようにして出稿される様々な広告は,パーソナライズ広告と総称される。その中で最も代表的な形態は,オンライン行動ターゲティング広告であろう。例えば,あるブランドのウェブサイトを閲覧すると,その消費者は,その製品カテゴリーに関してニーズを抱いている者として識別される。最終的に,同一ないし他のブランドのオンライン行動ターゲティング広告が,彼らに配信されることになる。

パーソナライズ広告が積極的に出稿されるのは,消費者のニーズに関連した情報を提供するという意味で,彼らにとっての便益を生み出しうるからであろう。しかし,「諸刃の剣」(Kim & Huh, 2017, p. 93)と評されるとおり,パーソナライズ広告は,便益以外も生み出してしまう点に注意しなければならない。具体的には,パーソナライズ広告は,個人情報が漏洩してしまっていると消費者を不安視させるという意味で,彼らにとっての心理的な費用も生み出しうるのである。このような便益と費用は,既存研究において,それぞれ関連性とプライバシー侵害の懸念と呼称され,パーソナライズ広告における中核概念として取り扱われている(e.g., Aguirre, Mahr, Grewal, de Ruyter, & Wetzels, 2015; Baek & Morimoto, 2012; Bleier & Eisenbeiss, 2015b; Kim & Huh, 2017; Kim, Barasz, & John, 2018; White, Zahay, Thorbjørnsen, & Shavitt, 2008)。

関連性とプライバシー侵害の懸念という2つの特性を考慮すると,パーソナライズ広告に対する消費者の知覚は,多岐にわたると考えられる。まず,マーケターにとって望ましい帰結として,消費者は,関連性をプライバシー侵害の懸念より高く知覚することがあろう。それとは逆に,消費者は,前者より後者を高く知覚することもあろう。さらに,これら2種類のパターンの中間に位置づけられる帰結として,消費者は,両者を同程度に知覚することもあろう。このように消費者は,パーソナライズ広告という単一の現象を3種類にも及ぶパターンで知覚するはずである。それにもかかわらず,既存研究は,そのような知覚の多様性をもたらす源泉については検討していない。そこで本研究は,上述した3種類のパターンの内の特定の1種類で消費者がパーソナライズ広告を知覚するのはいかなる状況においてであるかという問いに解答することを目的に設定する。

この目的を達成することによって,本研究は,次の3点の貢献を果たすと期待される。第一に,後述する研究1~研究3における一連の検討を通じて,制御焦点,広告情報の訴求点,および広告主やウェブサイトの信頼が,パーソナライズ広告に対する知覚の多様性をもたらすと新たに主張する。第二に,消費者が想定する3種類のネガティブな結果を区別することによって,基本的な概念枠組は保持したまま,動機づけに関する理論である制御焦点理論を改良する。第三に,パーソナライズ広告を視聴する消費者に関連性をプライバシー侵害の懸念より高く知覚させようとするマーケターにとって有用な指針を提供する。

II. 既存研究レビュー

1. パーソナライズ広告

パーソナライズ広告は,「個人情報に基づきカスタマイズされた販売促進メッセージを,有料のメディアを通じて個別の消費者に伝達する形態」(Baek & Morimoto, 2012, p. 59)と定義され,位置情報広告や先述のオンライン行動ターゲティング広告などの具体的な形態を含む。なお,メールや郵送資料など広告以外のマーケティングコミュニケーションのパーソナライゼーションに関する既存研究が,パーソナライズ広告に関する既存研究との間に引用・被引用関係を有している点を考慮して,本節においては,両者を厳密には区別せずにレビューする。

既存研究にとっての中核概念は,関連性とプライバシー侵害の懸念である。一方の関連性は,「広告メッセージが自己に関連したり,購買の目標を達成する際に有用であったりすると消費者が知覚する程度」(Kim & Huh, 2017, p. 95)と定義され,知覚効用(White et al., 2008),知覚個人化(Baek & Morimoto, 2012),知覚有用性(Bleier & Eisenbeiss, 2015b),およびパーソナライゼーションの便益(Aguirre et al., 2015)とも呼称される。他方のプライバシー侵害の懸念は,「個人情報の開示を防ぐ権利が広告によって侵害されていると消費者が心配している程度」(Baek & Morimoto, 2012, p. 63)と定義される。なお,特殊性という類似の概念が用いられることもある。この概念は,「メッセージ内の情報が,消費者を一意に識別したり特徴づけたりする程度」(White et al., 2008, p. 40)と定義され,消費者ではなく広告に焦点を合わせている。

関連性とプライバシー侵害の懸念に関する主要な仮説群は,以下の3つに大別可能である。第一の仮説群においては,クリック意図やクリック行動(Bleier & Eisenbeiss, 2015b; Kim & Huh, 2017; White et al., 2008),広告回避や注意(Baek & Morimoto, 2012; Kim & Huh, 2017),広告態度(Kim & Huh, 2017),およびリアクタンス(White et al., 2008)など様々な消費者行動に対して,関連性とプライバシー侵害の懸念が及ぼす影響が描写されている。研究ごとに被説明変数は様々であるものの,関連性がマーケターにとって望ましい帰結を導く一方,プライバシー侵害の懸念はそうでないことを含意している点は,すべての研究に共通している。

第二の仮説群においては,様々な消費者行動に対する関連性やプライバシー侵害の懸念の影響を調整する要因の役割が描写されている。そのような要因として,正当性を挙げることができる。この概念は,「広告対象製品について訴求する際,消費者の個人情報の活用がいかに適切であるかを説明すること」(White et al., 2008, p. 41)と定義される。正当性は,関連性が低い状況において,プライバシー侵害の懸念がリアクタンスに及ぼす正の影響と,プライバシー侵害の懸念がクリック意図に及ぼす負の影響をともに弱めることが見出されている(White et al., 2008)。また,別の要因として,個人情報収集の潜在性と信頼を挙げることができる。前者は,「個人情報がどのように,いつ収集されているかについて消費者が認知していない程度」(Aguirre et al., 2015, p. 36)と定義される一方,後者は,「確信を寄せる交換相手に頼る意志」(Moorman, Zaltman, & Deshpande, 1992, p. 315)と定義される。個人情報収集の潜在性は,関連性がクリック意図に及ぼす正の影響を弱めること,および,そのような働きは,ウェブサイトの信頼によって抑制されることが見出されている(Aguirre et al., 2015)。これと類似した仮説は,他の既存研究においても提唱されている(Kim et al., 2018)。

第三の仮説群においては,関連性やプライバシー侵害の懸念が他の要因から受ける影響が描写されている。具体的には,広告主の信頼は,パーソナライゼーションが関連性に及ぼす正の影響を強める一方,パーソナライゼーションがプライバシー侵害の懸念に及ぼす正の影響を弱めることが見出されている(Bleier & Eisenbeiss, 2015b)。この知見は,本研究の被説明変数である関連性とプライバシー侵害の懸念が,広告主の信頼から影響を受けることを示している点において大きな注目に値する。それでも,関連性とプライバシー侵害の懸念の水準の比較までは行われていないため,先述した3種類のパターンの内の特定の1種類で消費者がパーソナライズ広告を知覚するのはいかなる状況においてであるかという問いに対しては解答が提示されていない。

2. 制御焦点理論

本研究が上記の問いに解答する際に援用するのが,制御焦点理論である。この理論は,望ましい最終状態に接近する一方,望ましくない最終状態を回避するよう動機づけられている人間の行動を以下のとおりに説明している。第一に,人間が自己を制御する仕組みである制御焦点には,促進焦点と予防焦点がある。一方の促進焦点は,成長,前進,および達成に関係した制御焦点である。促進焦点傾向が強くなるのは,周囲からの支援を通じて養護されたいというニーズや高い理想を有する場合,また,利得の有無に関する情報が伝達される場合である。他方の予防焦点は,安全,責任,および保護に関係した制御焦点である。予防焦点傾向が強くなるのは,危険を退けて安全を確保したいというニーズや強い義務感を有する場合,また,損失の有無に関する情報が伝達される場合である。個人や文化が異なると,各傾向の強度や各傾向が生じる頻度こそ異なるものの,各傾向が強くなる可能性はすべての人間に存在している(Higgins, 1997, pp. 1281–1282; Higgins, 2012, p. 233)。

第二に,促進焦点傾向と予防焦点傾向のいずれが強いかに応じて,望ましい最終状態への接近の仕方と,望ましくない最終状態の回避の仕方が異なる。促進焦点傾向の人間にとって,望ましい最終状態とは,ポジティブな結果が得られる状態である一方,望ましくない最終状態とは,ポジティブな結果が得られない状態である。このように彼らは,ポジティブな結果の有無に高い感受性を有するため,ポジティブな結果が得られる状態に接近する一方,ポジティブな結果が得られない状態を回避する。他方,予防焦点傾向の人間にとって,望ましい最終状態とは,ネガティブな結果が得られない状態である一方,望ましくない最終状態とは,ネガティブな結果が得られる状態である。このように彼らは,ネガティブな結果の有無に高い感受性を有するため,ネガティブな結果が得られない状態に接近する一方,ネガティブな結果が得られる状態を回避する(Higgins, 1997, pp. 1281–1282; Higgins, 1998, p. 16)。

元来は社会心理学において開発された制御焦点理論は,広告に関する多数の既存研究においても援用されている。そのような既存研究においては,広告回避(Takeuchi, 2018),広告が訴求する製品属性(Lin & Shen, 2012),広告対象ブランドと製品カテゴリーの連想(Florack & Scarabis, 2006),広告に対する情緒的反応(Pham & Avnet, 2004),および想像を喚起する広告(Roy & Phau, 2014)など,様々な現象と制御焦点の関係性について検討が行われている。しかし,本研究の知る限り,制御焦点理論は,パーソナライズ広告に関する既存研究においては援用されていない。

III. 仮定と仮説

1. 仮定

仮説を導出するに先立って,仮定を明示する。第一に,促進焦点傾向の消費者は,ポジティブな結果の有無に高い感受性を有する(Higgins, 1997)。本研究の文脈を踏まえて具体的に換言すると,彼らは,製品の属性や便益がもたらすポジティブな結果の有無に高い感受性を有すると仮定する(仮定1)。

第二に,予防焦点傾向の消費者は,ネガティブな結果の有無に高い感受性を有する(Higgins, 1997)。強調すべきことに,制御焦点理論においては区別されていないものの,本研究は,彼らが想定するネガティブな結果として,(1)製品を消費しないことによって損失が生じる状態と,(2)私的事実が他者に把握される状態を区別する。(1)をネガティブな結果として想定する予防焦点傾向の消費者(以下,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者)は,製品の属性や便益がもたらすネガティブな結果の有無に高い感受性を有すると仮定する(仮定2)。この仮定は,促進焦点傾向の消費者を描写した仮定1と対をなしている。他方,(2)をネガティブな結果として想定する予防焦点傾向の消費者(以下,私的事実に関して予防焦点傾向の消費者)は,個人情報の収集と活用がもたらすネガティブな結果の有無に高い感受性を有すると仮定する(仮定3)。

第三に,パーソナライズ広告を視聴する消費者は,製品を消費することによって利得が生じる点か損失が生じない点のいずれかを訴求する広告情報を取得すると仮定する(仮定4)。この仮定は,制御焦点理論を援用してきた既存研究の仮定と同様である(e.g., Florack & Scarabis, 2006; Lin & Shen, 2012; Takeuchi, 2018)。

第四に,パーソナライズ広告に対する知覚パターンは,関連性をプライバシー侵害の懸念より高く知覚するパターン,前者より後者を高く知覚するパターン,および両者を同程度に知覚するパターンの3種類であると仮定する(仮定5)。

2. 仮説

(1) 促進焦点傾向

促進焦点傾向の消費者が高い感受性を有するのは,製品の属性や便益がもたらすポジティブな結果の有無である。この点を踏まえると,製品の消費によって利得が生じる点をパーソナライズ広告が訴求する場合,彼らは,広告情報がニーズに関連していると知覚するであろう。また,彼らは,個人情報の収集と活用がもたらすネガティブな結果の有無には低い感受性しか有さないため,たとえパーソナライズ広告を視聴しても,個人情報が漏洩してしまっているとは知覚しないであろう。その結果,関連性をプライバシー侵害の懸念より高く知覚するパターンが生じると考えられる。

他方,製品の消費によって損失が生じない点をパーソナライズ広告が訴求する場合,彼らは,広告情報がニーズに関連しているとは知覚しないであろう。また,前段落と同一の理由により,彼らは,個人情報が漏洩してしまっているとは知覚しないであろう。その結果,関連性とプライバシー侵害の懸念を同程度に知覚するパターンが生じると考えられる。

以上の議論は,仮説1~仮説2に要約されるとおりである。

仮説1:促進焦点傾向の消費者は,利得が生じる点を訴求するパーソナライズ広告を視聴する場合,関連性をプライバシー侵害の懸念より高く知覚する。

仮説2:促進焦点傾向の消費者は,損失が生じない点を訴求するパーソナライズ広告を視聴する場合,関連性とプライバシー侵害の懸念を同程度に知覚する。

(2) 予防焦点傾向

最初に,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者に着目する。彼らが高い感受性を有するのは,製品の属性や便益がもたらすネガティブな結果の有無である。この点を踏まえると,製品の消費によって利得が生じる点をパーソナライズ広告が訴求する場合,彼らは,広告情報がニーズに関連しているとは知覚しないであろう。また,彼らは,個人情報の収集と活用がもたらすネガティブな結果の有無には低い感受性しか有さないため,たとえパーソナライズ広告を視聴しても,個人情報が漏洩してしまっているとは知覚しないであろう。その結果,関連性とプライバシー侵害の懸念を同程度に知覚するパターンが生じると考えられる。

他方,製品の消費によって損失が生じない点をパーソナライズ広告が訴求する場合,彼らは,広告情報がニーズに関連していると知覚するであろう。また,前段落と同一の理由により,彼らは,個人情報が漏洩してしまっているとは知覚しないであろう。その結果,関連性をプライバシー侵害の懸念より高く知覚するパターンが生じると考えられる。

以上の議論は,仮説3~仮説4に要約されるとおりである。

仮説3:製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者は,利得が生じる点を訴求するパーソナライズ広告を視聴する場合,関連性とプライバシー侵害の懸念を同程度に知覚する。

仮説4:製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者は,損失が生じない点を訴求するパーソナライズ広告を視聴する場合,関連性をプライバシー侵害の懸念より高く知覚する。

最後に,私的事実に関して予防焦点傾向の消費者に着目する。彼らが高い感受性を有するのは,個人情報の収集と活用がもたらすネガティブな結果の有無である。この点を踏まえると,彼らは,パーソナライズ広告を視聴すると,個人情報が漏洩してしまっていると知覚するであろう。また,彼らは,製品の属性や便益がもたらすポジティブな結果やネガティブな結果の有無には低い感受性しか有さないため,パーソナライズ広告の訴求点に関係なく,広告情報がニーズに関連しているとは知覚しないであろう。その結果,関連性よりプライバシー侵害の懸念を高く知覚するパターンが生じると考えられる。

以上の議論は,仮説5に要約されるとおりである。

仮説5:私的事実に関して予防焦点傾向の消費者は,パーソナライズ広告を視聴する場合,関連性よりプライバシー侵害の懸念を高く知覚する。

IV. 研究1

1. 実験

(1) 事前テスト

第2-1節において概観したとおり,関連性とプライバシー侵害の懸念は,広告主の信頼から影響を受ける(Bleier & Eisenbeiss, 2015b)。また,仮説化されていないものの,ウェブサイトの信頼(Aguirre et al., 2015; Kim et al., 2018)も,同様の役割を果たす可能性がある。そこで両変数を統制するために,事前テスト1を実施した。第一に,Bleier and Eisenbeiss(2015b)と同様に,デジタルカメラを調査対象の製品カテゴリーとして設定した。第二に,業界団体の資料(Camera & Imaging Products Association, 2018)に掲載されている全9社を調査対象の広告主として選定した。第三に,Aguirre et al.(2015)を参考にして,ソーシャルネットワーキングサービスやニュースを提供する10個のウェブサイトを調査対象として選定した。第四に,広告主とウェブサイトそれぞれの信頼を測定するために,22名の大学生に「このメーカーを信頼できる」と「このウェブサイトを信頼できる」という7点リッカート尺度の質問項目(Aguirre et al., 2015)に回答してもらった。第五に,1点~7点の中央値である4点に信頼の平均が最も近かった広告主AM=3.82)とウェブサイトAM=4.36)を実験対象として選定した。

また,実験対象の広告メッセージを決定するために,事前テスト2を実施した。第一に,業界団体の資料(Camera & Imaging Products Association, 2019)を参考にして,10個の製品属性を調査対象として選定した。第二に,属性重視度を測定するために,24名の大学生に「1:この特徴は全く重要でない~7:この特徴はとても重要である」という7段階の質問項目(Lee & Lee, 2007)に回答してもらった。第三に,属性重視度の平均が同等であった解像度(M=5.17)と手ぶれ補正機能(M=5.08)を実験対象の製品属性として選定した。第四に,実在の例を参考にして,利得が生じる点を訴求する広告メッセージを「圧倒的な解像度」,損失が生じない点を訴求する広告メッセージを「絶対にブレない想い出」に決定した。

(2) 計画

実験参加者は,便宜的に抽出した155名の大学生であった(平均年齢20.21歳,男性比率47.7%)。実験計画は,制御焦点(促進焦点傾向/予防焦点傾向)と広告情報の訴求点(利得が生じる点/損失が生じない点)という2要因2水準の被験者間実験計画であった。なお,予防焦点傾向の実験参加者が想定するネガティブな結果の操作は困難であると判断したため,後述するとおり,その変数は質問項目によって測定することにした。

(3) 手続

第一に,A群(促進焦点傾向×利得が生じる点),B群(促進焦点傾向×損失が生じない点),C群(予防焦点傾向×利得が生じる点),およびD群(予防焦点傾向×損失が生じない点)に実験参加者を割り当てた。後述するとおり,C群~D群の実験参加者をE群~G群の3群に割り当て直す点を考慮して,C群~D群(それぞれn=46とn=47)の標本の大きさが,A群~B群(ともにn=31)の1.5倍になるよう留意した。

第二に,Florack and Scarabis(2006)の実験2,Lin and Shen(2012)Pham and Avnet(2004)の研究1~研究3,およびRoy and Phau(2014)と同様に,プライミング課題によって制御焦点を操作した。具体的には,希望や願望(A群~B群)または義務や責任(C群~D群)を過去と現在で2つずつ思い浮かべてもらったうえで,それらを自由回答形式で記述してもらった。その後,広告視聴の際に想定するネガティブな結果(C群~D群のみ)と操作チェック(A群~D群すべて)の質問項目に回答してもらった。

第三に,要求特性の効果を最小化するために,デジタルカメラに関する消費者の意見を調査するという架空の目的を実験参加者に伝えた。そのうえで,Bleier and Eisenbeiss(2015b)と同様に,パソコンの画面に表示される指示に従うよう依頼した。まず,広告主Aのオンライン店舗を訪問して,デジタルカメラの情報を収集する状況を想定してもらった。次に,その数日後にウェブサイトAにアクセスする状況を想定してもらった。続いて,広告が表示された際には必ず注意を向けるよう伝えたうえで,3分間にわたりウェブサイトAの実際のページを自由に閲覧してもらった。1分が経過後,そのページの下部に,広告主Aのブランドロゴ,製品の画像,および広告メッセージ(A群とC群は「圧倒的な解像度」,B群とD群は「絶対にブレない想い出」)を含むバナー広告を表示した。

第四に,広告情報の訴求点,および,パーソナライズ広告に対する知覚パターンの質問項目に回答してもらった。回答の終了後,パーソナライズ広告に対する知覚の分析が実際の目的であった点と,本研究の著者が実在する素材を用いて実験対象の素材を作成した点を実験参加者に伝えた。

(4) 測定

制御焦点の操作チェックの質問項目は,「1:自分がすべきことを行うのが重要である~7:自分がしたいことを行うのが重要である」という7段階の質問項目(Lin & Shen, 2012)であった。また,広告視聴の際に想定するネガティブな結果の質問項目は,「広告が目に入った後に気にする点は,1:広告メッセージの内容である/2:個人情報の取り扱われ方である」という2択の質問項目(Takeuchi, 2018を修正)であった。その回答として,1を選択したC群の29名をE群(製品の消費に関して予防焦点傾向×利得が生じる点),1を選択したD群の25名をF群(製品の消費に関して予防焦点傾向×損失が生じない点)にそれぞれ割り当てた。他方,2を選択したC群の残り17名とD群の残り22名の合計39名をG群(私的事実に関して予防焦点傾向)に割り当てた。

広告情報の訴求点の操作チェックの質問項目は,「1:デジタルカメラを使用すると不都合なことがない点が広告で強調されていた~7:デジタルカメラを使用すると好都合なことがある点が広告で強調されていた」という7段階の質問項目(Lin & Shen, 2012を修正)であった。

パーソナライズ広告に対する知覚パターンの質問項目は,「デジタルカメラの広告は,1:プライバシーを侵害してしまうというより,自分に合った情報を提供してくれると感じた/2:自分に合った情報を提供してくれるというより,プライバシーを侵害してしまうと感じた/3:自分に合った情報を提供してくれるのと同時に,プライバシーを侵害してしまうとも感じた」という本研究が作成した3択の質問項目であった。このように,7点リッカート尺度などによって関連性とプライバシー侵害の懸念を定量的に測定して両者を比較する方法は採用しなかった。その理由は,両変数の知覚水準が同程度である状況を描写した仮説2~仮説3が支持されると結論づけるために,統計的仮説検定における帰無仮説の採択が必要になることを避けるためであった。

2. 分析結果

(1) 操作チェック

制御焦点の平均は,A群~B群において4.24(SD=1.67, 95%CI[3.82, 4.67]),E群~G群において3.62(SD=1.59, 95%CI[3.30, 3.95])であり,前者が後者より高かった(t[153]=2.33, p=0.02, d=0.38)。また,広告情報の訴求点に対する知覚の平均は,A群とC群において4.52(SD=1.92, 95%CI[4.08, 4.95]),B群とD群において3.41(SD=1.76, 95%CI[3.01, 3.81])であり,前者が後者より高かった(t[153]=3.75, p=0.00, d=0.60)。以上より,操作は,意図したとおりに行われたと判断できる。

(2) 仮説検定

パーソナライズ広告に対する各知覚パターンの観測度数(上段)と期待度数(下段)は,表1のとおりである。同表の知覚パターン1~知覚パターン3は,関連性をプライバシー侵害の懸念より高く知覚するパターン,前者より後者を高く知覚するパターン,および両者を同程度に知覚するパターンにそれぞれ対応している。また,仮説1~仮説5の検定には,Habermanの残差分析を用いた。

表1

仮説1~仮説5の分析結果

注)*は1%水準,**は5%水準で有意に期待度数と異なる。

A群において,知覚パターン1の観測度数と期待度数は,14と9.20であった。分析の結果,前者は後者より有意に大きかったため,仮説1は支持された(d=2.11, p=0.04)。B群において,知覚パターン3の観測度数と期待度数は,16と11.20であった。分析の結果,前者は後者より有意に大きかったため,仮説2は支持された(d=2.01, p=0.045)。

E群において,知覚パターン3の観測度数と期待度数は,11と10.48であった。分析の結果,前者は後者より有意に大きくなかったため,仮説3は支持されなかった(d=0.22, p=0.82)。F群において,知覚パターン1の観測度数と期待度数は,10と7.42であった。分析の結果,前者は後者より有意に大きくなかったため,仮説4は支持されなかった(d=1.23, p=0.22)。G群において,知覚パターン2の観測度数と期待度数は,20と13.34であった。分析の結果,前者は後者より有意に大きかったため,仮説5は支持された(d=2.60, p=0.009)。

(3) 考察

以上のとおり,仮説1~仮説2と仮説5は支持された一方,仮説3~仮説4は支持されなかった。仮説3~仮説4の不支持は,仮説の予測と比べて,(1)E群において,知覚パターン2が多く,知覚パターン3が少なかった点と,(2)F群において,知覚パターン1が少なく,知覚パターン2~知覚パターン3が多かった点に起因していると考えられる。重要なことに,これら2点は,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者が,仮説の予測と比べて,関連性を低く知覚したことを表している。

このような傾向が生じた理由として,事前テスト1を通じて,広告主の信頼(Bleier & Eisenbeiss, 2015b)もウェブサイトの信頼(Aguirre et al., 2015; Kim et al., 2018)も中程度に統制していた点が挙げられる。双方の信頼がともに高くない状況においては,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者は,広告情報に誤りが含まれる状態もネガティブな結果として想定したため,関連性を低く知覚したかもしれない。そこで,彼らの知覚パターンについて再検討するために,広告主の信頼が高い状況に着目する研究2と,ウェブサイトの信頼が高い状況に着目する研究3を行っていく。

V. 研究2

1. 仮定と仮説

広告主の信頼が高い状況について検討するに先立って,前章末尾の考察を踏まえながら,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者を描写した仮定2(cf. 第3-1節)を修正する。具体的には,彼らは,製品の属性や便益がもたらすネガティブな結果の有無に加えて,不当な広告情報がもたらすネガティブな結果の有無にも高い感受性を有すると新たに仮定する。ここでいう不当な広告情報とは,景品表示法によって禁止されている優良誤認表示や有利誤認表示のように,製品の属性や便益が実際より優れているように見せる広告情報のことである。

製品の消費によって利得が生じる点を信頼の高い広告主のパーソナライズ広告が訴求する場合,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者は,仮説3の導出時(cf. 第3-2-2項)と同一の論理により,広告情報がニーズに関連しているとも,個人情報が漏洩してしまっているとも知覚しないであろう。このとき,彼らは,広告主の高い信頼に基づき,不当な広告情報がもたらすネガティブな結果は得られないと判断するであろう。その分だけ,彼らが関連性を極めて低く知覚してしまう恐れがないため,研究1のE群のように知覚パターン2が多く,知覚パターン3が少ないという帰結(cf. 第4-2-2項と第4-2-3項)は生じにくいと考えられる。

他方,製品の消費によって損失が生じない点を信頼の高い広告主のパーソナライズ広告が訴求する場合,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者は,仮説4の導出時(cf. 第3-2-2項)と同一の論理により,広告情報がニーズに関連していると知覚する一方,個人情報が漏洩してしまっているとは知覚しないであろう。このとき,彼らは,広告主の高い信頼に基づき,不当な広告情報がもたらすネガティブな結果は得られないと判断するであろう。その分だけ,彼らが関連性を低く知覚してしまう恐れがないため,研究1のF群のように知覚パターン1が少なく,知覚パターン2~知覚パターン3が多いという帰結(cf. 第4-2-2項と第4-2-3項)は生じにくいと考えられる。

以上の議論は,仮説6~仮説7に要約されるとおりである。

仮説6:広告主の信頼が高い状況において,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者は,利得が生じる点を訴求するパーソナライズ広告を視聴する場合,関連性とプライバシー侵害の懸念を同程度に知覚する。

仮説7:広告主の信頼が高い状況において,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者は,損失が生じない点を訴求するパーソナライズ広告を視聴する場合,関連性をプライバシー侵害の懸念より高く知覚する。

2. 実験

実験方法は,次の3点を除いて研究1の実験と同様であった。第一に,事前テスト1において信頼の平均が最も高かった広告主BM=5.55)と,信頼の平均が中程度であったウェブサイトAM=4.36)を実験対象として選定した。

第二に,実験参加者は,便宜的に抽出した102名の大学生であった(平均年齢20.29歳,男性比率43.1%)。また,実験計画は,広告情報の訴求点(利得が生じる点/損失が生じない点)という1要因2水準の被験者間実験計画であった。

第三に,H群(利得が生じる点)とI群(損失が生じない点)に実験参加者を無作為に割り当てた(ともにn=51)。そのうえで,全員に予防焦点のプライミング課題に取り組んでもらい,広告視聴の際に想定するネガティブな結果の質問項目への回答として,1を選択したH群の36名とI群の28名を分析対象として設定した。

3. 分析結果

(1) 操作チェック

制御焦点の平均は,研究1のA群~B群において4.24(SD=1.67, 95%CI[3.82, 4.67]),H群~I群において3.48(SD=1.57, 95%CI[3.09, 3.88])であり,前者が後者より高かった(t[124]=2.63, p=0.01, d=0.47)。また,広告情報の訴求点に対する知覚の平均は,H群において4.28(SD=1.52, 95%CI[3.76, 4.79]),I群において3.46(SD=1.60, 95%CI[2.84, 4.08])であり,前者が後者より高かった(t[62]=2.07, p=0.04, d=0.52)。以上より,操作は,意図したとおりに行われたと判断できる。

(2) 仮説検定

パーソナライズ広告に対する各知覚パターンの観測度数(上段)と期待度数(下段)は,表2のとおりである。同表の知覚パターン1~知覚パターン3は,表1の表記と同一である。また,仮説6~仮説7の検定には,Habermanの残差分析を用いた。

表2

仮説6~仮説7の分析結果

注)*は1%水準,***は10%水準で有意に期待度数と異なる。

H群において,知覚パターン3の観測度数と期待度数は,17と13.50であった。分析の結果,前者は後者より有意に大きかったため,仮説6は支持された(d=1.82, p=0.07)。I群において,知覚パターン1の観測度数と期待度数は,15と10.06であった。分析の結果,前者は後者より有意に大きかったため,仮説7は支持された(d=2.59, p=0.0095)。以上より,広告主の信頼が高い状況は,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者の知覚パターンを説明するための前提条件であることが示された。

VI. 研究3

1. 仮説

広告主の信頼に着目した研究2に続いて,研究3においては,ウェブサイトの信頼に着目することによって,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者について再検討する。ウェブサイトの信頼は,広告主の信頼と同様の役割を果たすと考えられるため,広告主の信頼が高い状況を描写した仮説6~仮説7の導出時(cf. 第5-1節)と同一の論理により,次の仮説8~仮説9を導出する。

仮説8:ウェブサイトの信頼が高い状況において,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者は,利得が生じる点を訴求するパーソナライズ広告を視聴する場合,関連性とプライバシー侵害の懸念を同程度に知覚する。

仮説9:ウェブサイトの信頼が高い状況において,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者は,損失が生じない点を訴求するパーソナライズ広告を視聴する場合,関連性をプライバシー侵害の懸念より高く知覚する。

2. 実験

実験方法は,次の3点を除いて研究1の実験と同様であった。第一に,事前テスト1において信頼の平均が中程度であった広告主AM=3.82)と,信頼の平均が最も高かったウェブサイトBM=5.73)を実験対象として選定した。

第二に,実験参加者は,便宜的に抽出した114名の大学生であった(平均年齢20.39歳,男性比率49.1%)。また,実験計画は,広告情報の訴求点(利得が生じる点/損失が生じない点)という1要因2水準の被験者間実験計画であった。

第三に,J群(利得が生じる点)とK群(損失が生じない点)に実験参加者を無作為に割り当てた(ともにn=57)。そのうえで,全員に予防焦点のプライミング課題に取り組んでもらい,広告視聴の際に想定するネガティブな結果の質問項目への回答として,1を選択したJ群の37名とK群の31名を分析対象として設定した。

3. 分析結果

(1) 操作チェック

制御焦点の平均は,研究1のA群~B群において4.24(SD=1.67, 95%CI[3.82, 4.67]),J群~K群において3.59(SD=1.82, 95%CI[3.15, 4.03])であり,前者が後者より高かった(t[128]=2.13, p=0.04, d=0.37)。また,広告情報の訴求点に対する知覚の平均は,J群において4.41(SD=1.61, 95%CI[3.87, 4.94]),K群において3.26(SD=1.79, 95%CI[2.60, 3.91])であり,前者が後者より高かった(t[66]=2.79, p=0.01, d=0.68)。以上より,操作は,意図したとおりに行われたと判断できる。

(2) 仮説検定

パーソナライズ広告に対する各知覚パターンの観測度数(上段)と期待度数(下段)は,表3のとおりである。同表の知覚パターン1~知覚パターン3は,表1~表2の表記と同一である。また,仮説8~仮説9の検定には,Habermanの残差分析を用いた。

表3

仮説8~仮説9の分析結果

注)**は5%水準で有意に期待度数と異なる。

J群において,知覚パターン3の観測度数と期待度数は,19と14.15であった。分析の結果,前者は後者より有意に大きかったため,仮説8は支持された(d=2.43, p=0.02)。K群において,知覚パターン1の観測度数と期待度数は,16と11.85であった。分析の結果,前者は後者より有意に大きかったため,仮説9は支持された(d=2.08, p=0.04)。以上より,広告主の信頼が高い状況(研究2)に加えて,ウェブサイトの信頼が高い状況(研究3)も,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者の知覚パターンを説明するための前提条件であることが示された。

VII. 総括

1. 貢献

本研究は,(1)関連性をプライバシー侵害の懸念より高く知覚するパターン,(2)前者より後者を高く知覚するパターン,および(3)両者を同程度に知覚するパターンの内の特定の1種類で消費者がパーソナライズ広告を知覚するのはいかなる状況においてであるかという問いに解答した。研究1においては,促進焦点傾向の消費者が,利得が生じる点(/損失が生じない点)を訴求するパーソナライズ広告を視聴する場合に第一(/第三)のパターンが生じること,および,私的事実に関して予防焦点傾向の消費者が,パーソナライズ広告を視聴する場合に第二のパターンが生じることを示した。広告主やウェブサイトの信頼が高い状況に着目した研究2~研究3においては,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者が,利得が生じる点(/損失が生じない点)を訴求するパーソナライズ広告を視聴する場合に第三(/第一)のパターンが生じることを示した。

また,本研究は,予防焦点傾向の消費者が想定する3種類のネガティブな結果(製品を消費しないことによって損失が生じる状態,広告情報に誤りが含まれる状態,および私的事実が他者に把握される状態)を区別することによって,基本的な概念枠組は保持したまま制御焦点理論を改良した。この試みによって初めて,パーソナライズ広告に対する彼らの知覚の多様性という,従来は説明が不可能であった現象を説明できるようになったと考えられる。

さらに,本研究は,市場調査や顧客データベースを通じて消費者の制御焦点を把握したうえで,それにフィットした広告情報を訴求することが,彼らに関連性をプライバシー侵害の懸念より高く知覚させようとするマーケターにとって有用であることを示した。本研究の知見に基づくと,促進焦点傾向の消費者には,利得が生じる点を訴求することが効果的であると考えられる。また,製品の消費に関して予防焦点傾向の消費者には,広告主やウェブサイトの信頼が高い状況において,損失が生じない点を訴求することが効果的であると考えられる。なお,私的事実に関して予防焦点傾向の消費者には,パーソナライズ広告以外のマーケティングコミュニケーションを実施することが得策であろう。

2. 限界と課題

本研究は,促進焦点傾向の消費者の中でも,製品を消費することによって利得が生じる状態以外の状態をポジティブな結果として想定する者について検討できなかった。また,促進焦点傾向も予防焦点傾向も強い人間が存在する可能性が,制御焦点理論において示されているものの(Higgins, 1998, p. 16),そのような特性を有する消費者についても検討できなかった。これらの消費者像を新たに仮定したうえで,パーソナライズ広告に対する彼らの知覚パターンを仮説化すること,そして,彼らの制御焦点を実験的に操作する方法を開発する必要がある。

また,本研究は,標本を便宜的に抽出したため標本の代表性を確保できなかった点や,製品カテゴリーをデジタルカメラに限定した点など,実験方法に改良の余地を残していた。市場調査会社の協力の下で代表性を高められる標本抽出法を用いたり,複数の製品カテゴリーを実験対象として選定したりしたうえで,研究1~研究3と同様の実験を行う必要がある。

今後の課題は,関連性とプライバシー侵害の懸念以外で,パーソナライズ広告に関する既存研究が着目している諸要因を考慮することである。そのような要因として,個人情報の取り扱われ方の制御可能性(Tucker, 2014),時間の経過(Bleier & Eisenbeiss, 2015a),自己知覚(Summers, Smith, & Reczek, 2016),および選好が確立している程度(Lambrecht & Tucker, 2013)を挙げることができる。今後は,これらの要因と本研究の仮説群の関係性を明確化していくことが期待される。

謝辞

本研究の公表に際して,慶應義塾大学商学部の小野晃典先生に謝意を表したい。なお,本研究は,JSPS科研費JP19K13833の助成を受けて実施された。

竹内 亮介(たけうち りょうすけ)

東洋大学経営学部講師。

2013年 慶應義塾大学商学部卒業。同大学商学研究科修士課程・博士課程修了。博士(商学)。日本学術振興会特別研究員(DC1)を経て,2018年より現職。専門分野は,広告論,消費者行動論。

References
 
© 2020 The Author(s).
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