マーケティングジャーナル
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レビュー論文 / 招待査読論文
社会環境によるプロシューマーの定義と活動動機の変化
鴇田 彩夏
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2020 年 40 巻 2 号 p. 74-82

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Abstract

Toffler(1980)によって提案されたプロシューマーの概念と活動は,情報技術や社会環境の変化によって拡大してきた。本稿の目的は,能動的な消費者として定義されているプロシューマーに関する研究をレビューすることによって,生産技術や社会的環境とともに変化するプロシューマーの定義と彼らの活動動機を明らかにすることである。プロシューマーの概念はさまざまな分野で応用され,類似した概念も複数存在する。これらの類似概念は活動の能動性の高さや他者へのモノ・サービスの提供という点で相違がある。これらの定義を活動の能動性と製品・サービスの消費主体という2つの軸で分類した上で,近年の社会環境に対応するためにプロシューマーの生産と利用にとどまらず,他者への提供も含めるべきであると指摘する。さらに,彼らの活動動機として,個人的動機と社会的動機に加えて,経済的動機についても考察する。最後に,これらを踏まえた上で今後の研究課題を提示する。

Translated Abstract

The concept and activities of prosumers, as proposed by Toffler (1980), have been expanded through changes in information technology and social environment. The purpose of this paper is to clarify the definition of prosumer and his/her motivation that changes with technology and social environment, by reviewing existing research on the prosumer, which is defined as active consumers. The concept of prosumer is applied in various academic fields, and there are some similar concepts. These similar concepts are different in the level of activeness and provision of goods and services to others. After categorizing these definitions into four, this paper points out that, in addition to the production and the use of prosumers, the provision to others should also be included to cope with the recent social environment. In addition to their personal and social motivation, their economic motivation is also considered in this paper. Finally, based on these, future research issues are presented.

I. はじめに

本稿の目的は,能動的な消費者として捉えられているプロシューマーについて,社会的環境とともに変化するプロシューマーの定義と彼らの活動動機に注目し,今後の研究課題を明らかにすることである。Toffler(1980)は自分自身やその身近な人々,コミュニティが消費するモノやサービスの一部を生産する人々をプロシューマーと呼んだ。プロシューマーは,「自分の所有する製品を適応させ(adapting),変更し(modifying),変換し(transforming),自分たちのために生産を行う消費者(Berthon, Pitt, McCarthy, & Kates, 2007; Toffler, 1980)」と定義されている。

しかし,プロシューマーの活動の幅はこの定義から変化しつつある。企業の経済的価値創造における消費者との価値共創の重要性が増すにつれ(Ritzer & Jurgenson, 2010),類似の概念も数多く提案されている(Cova & Dalli, 2009; Cova & Salle, 2008; Prahalad & Ramaswamy, 2000, 2004; Tapscott & Williams, 2006; Vargo & Lusch, 2004)。プロシューマーの生産消費(prosumption)活動について調査したDusi(2018)は,生産消費を①製品開発における企業とのコラボレーション(collaboration in product development),②顧客によるセルフサービス(Customer self-service),③デジタル生産消費(digital presumption),④ブリコラージュ(bricolage),⑤P2Pのコラボレーション生産消費(collaborative peer-to-peer presumption),の5つに分類している。このように,プロシューマーの活動は企業と直接関係を持つものから個人的なものまでさまざまである。さらに,個人間で取引ができる取引仲介プラットフォームが誕生したことによって,プロシューマーは不特定多数の消費者にアイディアやモノ・サービスを提供できるようになった。これによって,従来指摘されてきたプロシューマーの活動動機に加えて,経済的な動機にも注目する必要性が高まっている。

本論は,プロシューマーの活動と定義,動機の広がりに注目して既存研究をレビューすることによって,新たに生じる研究課題を指摘する。具体的には,続く第2章ではプロシューマーに関する既存研究を整理し,これらの定義を活動の能動性と製品・サービスの消費主体という2つの軸で分類することで,それぞれの特徴とToffler(1980)によって提案されたプロシューマーというコンセプトがどのような点で変化したかを述べる。第3章では,プロシューマーの活動動機に関する既存研究について概観することで,彼らの個人的動機と社会的動機がプロシューマーの行う生産と自分に近しい人々やコミュニティへの提供にどのように関わっているのかを述べる。第4章では,第2章,第3章でのレビューを元に,プロシューマー研究における今後の研究課題を明らかにする。

II. プロシューマーの定義

本章ではプロシューマーの定義を生産の能動性と生産物の消費主体という2つの軸によって4つに区分し,既存研究の空白であった4つ目の定義を提案する。加えて,それぞれの特徴とプロシューマーの活動範囲の拡張をもたらした社会環境の変化を明らかにする。

第一に,能動的に生産し,自分や比較的自分に近しい人がモノ・サービスを消費することを想定した定義がある。Toffler(1980)はプロシューマーを「自分の所有する製品を適応させ,変更し,変換し,自分達のために生産する消費者」(Berthon et al., 2007; Toffler, 1980)と定義した。これは積極的に生産活動を行うような消費者であり,生産したモノ・サービスを自分自身,あるいは身近な人々が使用することを念頭に置いている。彼らは,消費者と生産者の役割を同時に担う個人(Kotler, 1986; Tapscott & Williams, 2006)とも呼ばれ,Self-help groupや新生産技術,DIYトレンドなどがプロシューマームーブメントに含まれている(Chandler & Chen, 2015)。しかし,ここでのプロシューマー像は他者へモノ・サービスを提供する存在としての認識が薄く,この生産行為は個人的な趣味の範疇から出ない。今日の技術の変化や社会的環境の変化によって変わりつつあるプロシューマーの活動から見ても,この定義を拡張させる必要があると考えられる。

第二に,プロシューマーをVargo and Lusch(2004, 2008)が示した「企業から提供されたもの(what)の価値を,すること(doing)によって補佐する消費者」であるとし,価値の共創者(Akaka & Chandler, 2011; Sampson & Spring, 2012)として捉える定義がある(Chandler & Chenn, 2015)。この定義ではモノ・サービスを消費する活動を価値共創のための生産活動と捉えており,第1の定義で見られたような能動的な生産活動とは性格が異なる。消費活動が生産活動を内包しているため,生産物の消費主体は生産者と同一である。この定義では生産と消費を分離せず,両者がサービスで結びつけられた相互依存的プロセスであると考えている(Bitner, Faranda, Hubbert, & Zeithaml, 1997; Grönroos & Voima, 2013)。企業はモノ・サービス,消費者はそれを使用するための行動を提供し合う存在であり,全ての消費者はプロシューマーで,価値共創者となる(Akaka & Chandler, 2011; Sampson & Spring, 2012)。ここでのプロシューマーは,「リアクティブな顧客(Cova & Salle, 2008)」,「働く消費者(Cova & Dalli, 2009)」などとも呼ばれる。全ての消費者をプロシューマーとして認識するこの定義では,消費全体を価値の生産と認識することによって生産活動の範囲を拡張しているため,プロシューマー固有の現象を特定できないという問題が指摘できる。さらに,彼らの活動動機を議論していない点や個人の消費のみに焦点を当てている点で,能動的な生産を行ったり,生産物を他者に提供するような近年のプロシューマーの性質を包含できていないと考えられる。生産に関する彼らの創造的な欲求や社会的欲求を考慮しないことで,プロシューマーが本来持つ活動動機を考慮せず,企業が想定した通りに消費を行う人々もプロシューマーに含まれてしまう。したがって,この定義ではプロシューマーに関する現象を十分に捉えることができない。

第三に,生産活動に対する能動性が低く,生産物の消費主体が多様であるプロシューマーの存在がある。ここではプロシューマーを,モノ・サービスを生産に対する能動性は低いが,生産物を他者へ提供する消費者(Lavrijssen, 2017; Parag & Sovacool, 2016)としている。エネルギー分野では,エネルギーを生産してネットワークに供給する消費者をプロシューマーと呼んでいる(Lavrijssen, 2017)。Parag and Sovacool(2016)はプロシューマーの活動として電力の生産と使用,そしてネットワークへの提供や販売に言及している。この定義は,技術の変化や社会的環境の変化によってモノ・サービスの生産方法が多様かつ容易になった今日のプロシューマー像を反映するものであり,かつモノ・サービスの提供にも言及されているが,プロシューマーの行う生産行為が能動的でないことが問題である。これはToffler(1980)によって提案された第一の定義にあるプロシューマーの積極的な生産活動に当てはまらず,第二の定義同様に彼らの持つ本来の活動動機を考慮できていないと言えるだろう。

上述の定義から,能動的な生産活動と生産物の消費主体が多様であるという2つを満たす,第四のプロシューマーの存在が想定できる。積極的な活動動機を持って能動的にモノ・サービスを生産し,さらに自分や自分に近い人々のみでなく,それ以外の人々にもモノ・サービスの消費主体を広げたプロシューマーである。Tapscott and Williams(2006)は,このようなプロシューマー像と類似する,共同イノベーターという概念を提示している。彼らは,プロシューマーを自分のニーズに合わせて製品の設計またはカスタマイズに関わり,企業とのマス・コラボレーションを実現できる存在であると述べた。企業がプロシューマーのアイディアを利用できるため,企業にとってプロシューマーは製品の開発を共に行う共同イノベーターとなる。これは,技術革新や社会的変化からプロシューマーの定義について再考するものである。今後はプロシューマーの生産や使用,提供という全ての活動に着目した研究が必要になると考えらえられる。

上述した4つの定義が促された要因には,3つの社会的環境の変化がある。

第一に,製品・サービスの生産方法の変化が挙げられる。生産活動に対する能動性が低い人々もプロシューマーと呼ばれるようになった第二の定義や第三の定義の誕生は,この変化によるものである。Toffler(1980)の述べた第一の定義では,プロシューマーは能動的に生産を行う存在であったが,第三のプロシューマーの定義には,企業からの提供物を利用して受動的に生産を行うという側面がある。さらに,一部ではあるが第二の定義のプロシューマーの中にも,非常に能動性の低い生産活動を行う消費者が包含されている。プロシューマーのコンセプトが生まれた時点では,彼らの生産消費活動として手作業による製品・サービスの生産が考えられていたが,現在ではスイッチ1つで電力を生産するような消費者もプロシューマーと呼ばれているのである。これによって能動性の低い生産活動もプロシューマーの活動の一部として認識されるようになり,定義の変化が発生したと考えられる。

第二に,プロシューマーがモノ・サービスを提供できる範囲が広がっているという点が挙げられる。第一のプロシューマーの定義では自分,もしくは自分に近い人々や地域コミュニティのために生産消費を行っていたが,それ以降の定義に当てはまる近年のプロシューマーはネットワークを通じて第三者へ製品を提供したり,企業の生産プロセスに貢献することによって自分のアイディアの提供範囲を広げている。例えば,プロシューマーのアイディアを企業が取り込み製品化することで,それを不特定多数の顧客に届けることが可能である。プロシューマーと類似する存在である共同イノベーターは,彼ら自身で企業から提供された製品を改良し,開発するユーザーイノベーションを起こす(von Hippel, 2005, 2016)。そしてこの元となったアイディアを企業が自社製品の開発や改良に利用し,新しい製品として多くの消費者に提供されるのである。共同イノベーターは製品・サービスの使用者という側面と,それらの専門家という2つの側面を持ち合わせている。この両面性を持つ消費者は,Toffler(1980)Berthon et al.(2007)の提案した第一のプロシューマーの定義と類似した存在と考えることが可能であるが,生産物の消費主体は第一の定義よりもはるかに広がっている。

第三に,プロシューマーによって生産されたモノ・サービスの提供範囲が広がったことによって,それらが販売されるようになったことが挙げられる。第一の定義の段階では,プロシューマーの生産消費活動によって,金銭が発生することは少なかった。しかし第三の定義や第四にあたるこれからのプロシューマー像では,プラットフォーム化したネットワークがプロシューマーと彼らの生産した製品の購入者とをつなげ,取引が行われている。第三の定義を利用しているエネルギー分野では,ネットワークからエネルギーを引き出すだけでなく,エネルギーを生産してネットワークに供給する消費者をプロシューマーと呼んでいる(Lavrijssen, 2017)。消費者は,ソーラーパネルを自宅に設置し,自分自身で使用する電力を発電し,さらにそれらをエネルギーネットワークに供給することでプロシューマーとなるのである(Parag & Sovacool, 2016)。現在では,プロシューマーが余剰を提供するネットワークが販売プラットフォームとして機能し,消費者が自分で生産したエネルギーを他者に販売できるようになっている。近年では,インターネットの普及によりプロシューマー同士が集うことのできるオンラインコミュニティが出現したことで,複数のプロシューマーが共同で製品を生産することも多くなった(Tapscott & Williams, 2006)。さらに,オークションサイトや古物取引サイト,オンラインハンドメイドマーケットなど,消費者同士の取引を仲介するオンラインプラットフォームの出現により,彼らが個人的に生産した製品を販売することも可能になった。プロシューマーと彼らの生産したモノ・サービスの買い手をつなげるプラットフォームの誕生によって,販売活動を行うプロシューマーが生まれたと考えられ,第三の定義に続く新しいプロシューマー像を反映した定義が必要になるだろう。

このように,多くの分野でプロシューマーという言葉が使用されているものの,近年の技術発展や社会的変化によってプロシューマーの定義やその活動は大きく変わりつつある。

III. プロシューマーの活動動機

プロシューマーの動機について議論することは,企業がプロシューマーのアイディアを取り込み,彼らをマネジメントしていく上で重要となる(Espe, Potdar, & Chang, 2018)。既存研究ではプロシューマーの活動動機として個人的動機と社会的動機の2つが指摘されている。消費者行動と創造性に関する研究からプロシューマーの活動動機について調査したChandler and Chen(2015)は,彼らの活動動機を表1のように説明している。

表1

プロシューマーの活動動機

出典:Chandler and Chen(2015)Dahl and Moreau(2007)より筆者作成

1. 個人的動機

個人的動機は,「心理的成長,誠実さ,幸福」という要素に関連したものであり(Deci & Ryan, 2000, p. 229),プロシューマーの生産活動に深く関係している。Chandler and Chen(2015)Dahl and Moreau(2007)は,個人的動機を①自立性,②能力,③楽しさと気晴らし,④学習,⑤セルフアイデンティティ,⑥対処の6つに分けて説明している。

個人的動機は,主にプロシューマーの生産活動に関連すると考えられる。彼らの生産活動は主に個人で行われる。消費者による生産技術の受け入れ,そして使用という,消費者がプロシューマーに変化する要因について調査したHalassi, Semeijn, and Kiratli(2019)は,人々が生産活動に使用するツールである3Dプリンターの購入とその使用意図を決定する要因として,快楽的動機とDIY精神という個人的要素を指摘している。さらに,Brown and Venkatesh(2005)Raman and Don(2013)は,快楽的な動機付けは生産活動のためのツールの購入とその使用に関して非常に重要であること示している。これらの既存研究から,個人的動機は生産活動そのものを行う上で重要であることがわかる。しかし,私たちが主に利用しているモノ・サービスの生産は,主に企業やその他の集団によって行われている。企業はモノ・サービスを生産する一般的な存在であるが,この主な目的は経済的利益であり,生産活動は労働と捉えられている。同じ活動をしているにもかかわらず,プロシューマーは生産活動を単なる労働として認識しているのではなく,個人的動機という心理的な豊かさを充足するための自発的な活動として捉えているのである。

2. 社会的動機

プロシューマーは社会的にも動機づけられており,外的な結果を求めている(Chandler & Chen, 2015)。Chandler and Chen(2015)Dahl and Moreau(2007)は,社会的動機を①コミュニティ,②関係性,③達成の公共心に分けて説明している。

コミュニティは,同じ個人的動機を持って活動する他者と生産活動を共有したいという,プロシューマーの生産活動に関連する動機である。一方で,関係性と達成の公共心は,生産したモノ・サービスを提供することによって他者と繋がったり,他者に認められたいという,主にプロシューマーが生産したモノ・サービスの提供に関する動機であると考えられる。プロシューマーは,自分に近しい人々やコミュニティへ生産したモノ・サービスを提供することよって,他者との共有や関係性の構築し,そして他者から認められることが可能となっている。

プロシューマーの能動的な生産活動だけではなく,彼らによって生産されたモノ・サービスの提供先,消費先に焦点を当てた第四のプロシューマー像を利用した研究や後者のみに焦点を当てた第三の定義を利用した研究においては,社会的動機が指摘されることが多く,この動機が彼らの生産活動以外の部分,つまりモノ・サービスの提供に深く関わっていることがわかる。現在,個人の取引を仲介するプラットフォームの誕生や消費者のアイディアを採用する企業の登場によって,プロシューマー自身と関わり合いのない赤の他人に彼らのアイディアやモノ・サービスを提供できるようになった。この提供範囲の拡大は,彼らの持つ提供に関する社会的動機にも影響を与えると考えられる。特に,オンラインプラットフォームの誕生は,モノ・サービスの提供範囲を大きく拡大させた。これにより,プロシューマーは地理的距離に捉われず,多くの人々にその存在や活動を認知,評価されるようになった。社会的動機達成のための環境が整ったことで,この動機がプロシューマー研究において重要となってくるだろう。提供を目的とした生産が行われるようになることで,彼らをマネジメントする上で,この社会的動機に関する理解が必要となるだろう。

以上のプロシューマーの動機と社会的環境の変化は密接に関係していると考えられる。個人的動機は生産に着目した動機であるが,社会的動機は生産したモノ・サービスの提供に着目した動機である。個人で満たすことのできる動機と異なり,社会的動機にはそれを満たす上で他者と接する必要がある。プロシューマーの第一の定義の段階では,プロシューマー同士がつながる機会やそのためのツールが存在しなかった。しかしながら,インターネットの普及とともにSNSや彼らの集うオンラインプラットフォームが現れたことによって,プロシューマー同士で接触できるようになった。さらに自分の身近な人や地域コミュニティ以外の人々にモノ・サービスを提供することが可能になった。この社会的環境の変化は,プロシューマーの社会的欲求を生み出し,活動動機を変化させたのである。今後も環境変化や技術発展によって彼らの活動動機が変化していくことが考えられ,学術分野でもそれを考慮し,取り入れた研究が必要となるだろう。

IV. 研究課題

本稿ではプロシューマー研究を概観し,プロシューマーの定義を生産と提供という2つの軸に沿って分類した。本章では,技術変化によって可能になったプロシューマーの販売活動に焦点を当て,今後の研究課題について述べる。

第一に,プロシューマーの持つ経済的動機に関する研究の必要性が挙げられる。プロシューマーが生産したモノ・サービスの提供と販売を可能にするプラットフォームの誕生によって,提供範囲が拡大したことと同時に,金銭を伴う取引を可能にした。これまでのプロシューマー研究では,生産行動を促す個人的動機に着目した研究が多く,生産されたモノ・サービスの販売活動に言及してこなかった。第一の定義としてToffler(1980)がプロシューマーの存在を指摘した段階で,彼らが生産したモノ・サービスが彼ら自身や近しい人々以外の他者,つまり彼らと繋がりを持たない人々に提供されることがなく,販売機会を持たなかった。さらに,彼らの生産は個人の自発的な生産活動であると捉えられていたために,経済的動機が想定されていなかったことが考えられる。しかし現代では,ICTの発展やインターネットの普及によって誕生したプラットフォームがプロシューマーの生産したモノ・サービスの販売を可能にし,彼らは生産活動によって経済的利益が生むことができるようになった。本稿で述べた第三の定義では,エネルギーネットワークを利用することによって生産物を販売し,経済的な利益を生むことが可能である。さらに,第四のプロシューマー像では自分以外の人々の使用を視野に入れた生産活動が行われており,この生産物の販売を行うことによって金銭的利益を得ることができる。生産物の販売によって経済的利益を得ることが可能になったことで,これを目的とした生産活動が行われるようになったと考えられる。

例えば,ハンドメイド作品を扱うオンラインプラットフォーム「Etsy」や「minne」は,プロシューマーが生産した製品を販売する場である。これらのサイトの登録作家数や参加者数は増加を続けており,2019年1月時点で登録作家数は50万人を超えた。しかし,自ら生産したモノ・サービスの販売を行うプロシューマー数の増加やプラットフォームの活性化による取引量の増大,取引による経済的利益という外部報酬が個人の内発的動機を低減させるかもしれず,プロシューマーの経済的動機や彼らの持つ経済的利益に関する認識についての研究を行うことは重要であると考えられる。さらに,ここでのプラットフォーム企業やプロシューマーのアイディアを採用しようとする企業にとっても,経済的利益のような外発的報酬が彼らの生産活動に与える影響を理解することは重要であり,実務的な面でも研究が求められている。プラットフォーム上で販売される製品の増加は利用者を増やすネットワーク効果を生み,より質の高いアイディアの採用は自社製品のユーザーイノベーションを促進したり,生産プロセスの改善(Cova, Dalli, & Zwick, 2011)にも役立つ。プロシューマーの経済的動機について議論することは,学術的にも実務的にも大きな意味を持つと言えるのである。

第二に,プロシューマーの販売活動に伴う,生産者と消費者の関係の変化について研究が必要である。この2者間の関係性についての議論はこれまでも行われてきたが(e.g., Humphreys & Grayson, 2008; Thomke & von Hippel, 2002),近年のプロシューマーのコンセプトの拡大はこの関係を曖昧にすると考えられる。消費者と生産者という関係は交換関係から生まれたものであり(Bagozzi, 1975),プロシューマーは特に消費者として分類されていた。これはMarx(1967/2019)の述べた交換価値を生み出す存在として生産者が認識されており,使用価値を生み出す存在として消費者が認識されていたことに由来する。近年の情報通信技術の発達によって消費者像の変化や生産者と消費者という関係性について疑問を投げかける研究は多くなった(e.g., Humphreys & Grayson, 2008; Thomke & von Hippel, 2002)。これらの研究の多くは,消費活動を価値を生み出すプロセスとして考えており,生産者と消費者という関係の再考を促している。ただし,実際のところ,消費が生産の一部と捉えるようなこの議論では,生産者の生み出した価値を補完する役割として消費者を捉えるにとどまっている(Humphreys & Grayson, 2008)。しかし,プロシューマーはこのような生産者や企業に対して補完的な役割を担うだけではない。本稿におけるプロシューマーの第一,第二の定義では,プロシューマーがモノ・サービスを販売しなかったため,彼らの生み出す使用価値にのみ焦点が当てられてきた。しかし彼らの活動の幅が広がったことで,モノ・サービスの販売,つまり彼らが潜在的に生み出してきた交換価値が観察できるようになった。プラットフォームの誕生によって,プロシューマーは使用価値を生み出すための補完的な活動を超えて交換価値を生産できる存在となったのである。そして,生産者と消費者の関係を曖昧にする存在になったといえるだろう。

プロシューマー研究は,生産のための3Dプリンターのようなツールキットの増加や技術発展,彼らが生産したモノ・サービスを流通させるプラットフォームの増加によって,重要性を増すことが予想される。能動的な消費者としてのプロシューマーがさらに積極的に販売活動を行なっていくことによって,近い将来企業という売り手と同等の存在として彼らが認識されるかもしれない。彼らをマネジメントする立場のプラットフォーマーや彼らのアイディアを採用しようとする企業にとって,プロシューマーは非常に重要な存在となるだろう。プロシューマー研究は,能動的な消費者の理解を深めるだけでなく,取引市場における役割の変化を明らかにするものでもある。よって,この研究分野が拡大は,学術的にも実務的にも大きな貢献となるだろう。

謝辞

一橋大学の上原渉先生には,拙稿の執筆に際して懇切丁寧なご指導を賜りました。ここに記して,心より感謝いたします。

鴇田 彩夏(ときた さやか)

東京経済大学経営学部卒業,一橋大学大学院商学研究科修士課程修了,一橋大学大学院経営管理研究科博士後期課程に在学中。

専攻はマーケティング論,消費者行動論。

References
 
© 2020 The Author(s).
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