マーケティングジャーナル
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特集論文 / 招待査読論文
制御焦点の違いがユーザー創造製品の発案者効果に与える影響
岡田 庄生
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ジャーナル オープンアクセス HTML

2024 年 43 巻 3 号 p. 32-43

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Abstract

デジタルの進化と共に,ユーザー共創型の新製品開発が増えている。そのような新製品を販売する際,ユーザーのアイデアから生まれたと伝えることで消費者の購買意向を高める「発案者効果」の存在が既存研究で明らかになっているが,その効果が失われる境界条件については十分に解明されているとはいえない。そこで本研究では,制御焦点理論に着目して,制御焦点の違いが発案者効果の境界条件に与える影響を探るための実験を行った。具体的には,複雑さが高い製品における促進焦点型の製品タイプに関する実験と,複雑さが低い製品における予防焦点型の広告メッセージに関する実験を行った。その結果,発案者効果が失われるとされる複雑さが高い製品であっても,促進焦点型の製品タイプでは発案者効果が得られることが明らかになった。また,複雑さが低い製品において,予防焦点型の広告メッセージとユーザー発案情報とは,負の交互作用効果があることも明らかになった。

Translated Abstract

With the evolution of digital technology, there has been increased development of new products that are co-created by the user. Studies have shown the presence of an “originator effect”, which increases consumers’ purchase intentions by informing them that the new product was ideated by a user when it is marketed. However, there has been insufficient research on the boundary conditions under which this effect is lost. In this study, two evaluations were conducted to explore the impact of a difference in regulatory focus on the boundary conditions of the originator effect, using regulatory focus theory. These evaluations were performed for promotion-focused products of high complexity and for prevention-focused advertising messages for products of low complexity. The results revealed that the originator effect was maintained even for highly complex products, for which it is possible that this effect may be lost. A negative interaction effect was found between prevention-focused advertising messages and user-ideated information for low-complexity products.

I. はじめに

1. デジタルによって広がるユーザー参加型の新製品開発

企業が新製品開発プロセスに消費者(ユーザー)を参画させる動きが増えている(Chang & Taylor, 2016; Nishikawa, 2020; Prahalad & Ramaswamy, 2004)。スターバックス,デル,スレッドレス,無印良品など数多くのブランドでユーザー参加型の新製品が生まれており,市場において成果をあげている(Bayus, 2013; Fuchs & Schreier, 2011; Hossain & Islam, 2015; Nishikawa, Schreier, & Ogawa, 2013)。ユーザーによる参加が増加している背景には,デジタル技術の発展がある。オンラインで多数のアイデアを集めたり(Füller, 2010),集まったアイデアをAIで選別するなど(Just, Ströhle, Füller, & Hutter, 2023),デジタル技術を駆使したユーザー共創型の新製品開発に関する研究が行われている。

2. ユーザー創造製品の発案者効果

ユーザーのアイデアが元になって生まれた新製品は,ユーザー創造製品(user-generated products)と呼ばれている(Nishikawa et al., 2013)。これまでの研究では,主にユーザー創造製品の製品品質や市場での成果に焦点が置かれてきたが(Nishikawa et al., 2013; Poetz & Schreier, 2012),現在の研究では,ユーザー創造製品のマーケティング・コミュニケーション戦略に注目が集まっている(Wang, Noble, Dahl, & Park, 2019)。新製品のアイデアがユーザーによって発案されたという情報(ユーザー発案情報)をパッケージや店頭POP,広告などに表示することで,市場の成果を高めることが確認されている(Fuchs, Prandelli, Schreier, & Dahl, 2013; Liljedal, 2016; Nishikawa, Schreier, Fuchs, & Ogawa, 2017; Schreier, Fuchs, & Dahl, 2012)。また,アイデア発案情報の表示が消費者の購買意向を高める効果は,ユーザー創造製品の発案者効果(originator effect)と呼ばれ,様々な研究と実践が行われている(Okada, 2019; Okada, 2022)。

3. 本研究の目的

これまでの発案者効果に関する研究から,ユーザー発案情報の表示を行うことで,企業の顧客志向やイノベーション能力などへの消費者の知覚が向上し,それに伴いユーザー創造製品の購買意向が高まることが明らかになっている(Dahl, Fuchs, & Schreier, 2015; Schreier et al., 2012)。ただし,全ての新製品において発案者効果が有効であるとは限らない。発案者効果が失われる境界条件(boundary condition)の研究が近年盛んに行われているが(e.g. Fuchs et al., 2013; Paharia & Swaminathan, 2019; Schreier et al., 2012; Song, Jung, & Zhang, 2021),消費者行動分野の基礎的な概念との接続がなされていないという課題が指摘されているなど,十分に明らかになっているとは言えない(Schreier et al., 2012)。

そこで本研究は,消費者の購買動機と発案者効果の関係性に着目する。具体的には,制御焦点理論(regulatory focus theory)(Higgins, 1997)を用いて,発案者効果の境界条件に与える影響を明らかにすることを目的とする。本論文は,第二章では,発案者効果と制御焦点の先行研究レビューを行い,仮説を構築する。第三章では研究1として製品タイプに関する研究を,第四章では研究2として広告メッセージに関する研究を扱う。第五章では本研究の貢献と課題について述べる。

II. 先行研究と仮説構築

1. 発案者効果の境界条件に関する先行研究

ユーザー創造製品を販売する際に,ユーザーが発案したことを示す情報を表示することで,消費者の購買意向が高まる(Schreier et al., 2012)。しかし,この効果はすべての場合において有効だとは限らない。既存の研究を整理すると,発案者効果が失われる場合の境界条件は(1)製品・ブランド要因と(2)消費者要因の2つに分類できる。

製品・ブランド要因の境界条件として,複雑さとステータスがある。Schreier et al.(2012)は,複雑さが高い製品カテゴリーにおいては,発案者効果が消失することを実証している。この研究では,複雑さが低い製品(Tシャツ,家事道具,スポーツ用品)に対する購買意向は,ユーザー発案情報の表示を付加した場合の方が,企業の開発者による発案情報の表示よりも有意に高い値を示す一方で,複雑さが高い製品(家電,ガーデニング電機製品,ロボット玩具)に対しては,発案者の違いによる有意な差は示されなかった。また,Fuchs et al.(2013)は,ハイステータスブランド(グッチ,プラダなど)がユーザー発案情報を付加した場合,企業のデザイナー発案情報と比較して,ユーザー創造製品の製品選択に対して負の影響があることを実証している。大衆的なブランド(H&M,ZARAなど)はユーザー発案情報が製品選択に対して正の影響を与えていることから,ブランドのステータスの高さが発案者効果を消失させる条件だといえる。ただし,ハイステータスブランドの場合であっても,企業のデザイナーが発案したユーザーを認めている場合や,著名なセレブリティを起用した場合,ユーザーをアーティストとして紹介した場合においては,発案者効果が効果的に作用することも確認されている(Fuchs et al., 2013)。

消費者要因の境界条件として,ユーザー共創に関する熟知性(familiarity)および権力格差信念(power-distance beliefs)があげられる。Schreier et al.(2012)によれば,ユーザー発案情報の表示が企業のイノベーション能力への知覚を高める効果は,ユーザー共創への熟知性が低い消費者の場合,すなわち,自らイノベーションを生み出した経験が無かったり,身の回りにそのような人物がいない場合には失われるという。Paharia and Swaminathan(2019)Song et al.(2021)は,消費者が持つ権力構造への信念を概念化した権力格差信念(Hofstede, Hofstede, & Minkov, 2010)に着目して,境界条件を探る研究を行なっている。これらの研究によれば,権力格差に対して保守的な見解を持つ人々に対する発案者効果は失われるという。

このように,これまで発案者効果の境界条件を探るいくつかの研究が進められてきているものの,十分に解明されているとは言えない。特に,消費者行動研究においてよく扱われる概念である関与や知識,動機といった要因がどのような影響を及ぼすのかについての明確な解明がまだなされていないという指摘がある(Schreier et al., 2012)。また,共創への熟知性や権力格差信念などの消費者要因については,企業がマーケティング活動において把握したりコントロールすることは難しく,実務への貢献も限定されている。

そこで,本研究では,消費者行動研究分野の動機研究における代表的な概念の1つである制御焦点理論(Higgins, 1997)に着目する。発案者効果に関する既存研究において,制御焦点理論を取り上げた研究は少なく,ユーザー創造製品の購買意向を高める媒介要因として用いられた研究は存在するものの(Okada, 2020),境界条件に関する研究で制御焦点理論が援用された研究は,筆者の知る限りでは発見できなかった。発案者効果の境界条件に対して,制御焦点が与える影響を調査し,ユーザー創造製品のマーケティング・コミュニケーション研究を理論的かつ実務的に拡充することを目的とする。

2. 制御焦点の先行研究

(1) 制御焦点理論を用いた製品タイプの分類

制御焦点理論では,人間の行動は目的への動機の焦点によって手段が制御されると考えられている(Higgins, 1997)。望ましい結果への接近や達成を追求する動機は促進焦点と呼ばれ,ネガティブな状況の回避を目的とする動機は予防焦点と呼ばれている。制御焦点は状況によって変化することが知られており(Schwarz, 2006; Zhu & Meyers-Levy, 2007),制御焦点と製品特徴に関する研究や(e.g. Mourali, Böckenholt, & Laroche, 2007; Zhang, Craciun, & Shin, 2010; Zhou and Pham, 2004),制御焦点と関連する広告メッセージの研究(e.g. Aaker & Lee, 2001; Florack & Scarabis, 2006; Kim, 2006; Kim & Sung, 2013)など,マーケティング分野の多岐にわたる研究が実施されている(Ishii, 2018)。

制御焦点と製品特徴に関する研究では,消費者の制御焦点は製品のタイプによって異なることが明らかになっている。Zhou and Pham(2004)は,同じ金融商品であったとしても,退職金の投資信託は予防焦点が働き,損失というネガティブな結果に敏感になる一方で,個別株式は促進焦点と結びつき,リスクの高い投資を行う意欲が高まることを明らかにした。つまり,投資信託は予防焦点型の製品タイプ,個別株式は促進焦点型の製品タイプといえる。また,Zhou and Pham(2004)は,予防焦点型の製品タイプは実質的(substantive)な情報が重視されるのに対して,促進焦点型の製品タイプは感情的(affective)な情報が重視されると述べている。

Mourali et al.(2007)は,行動経済学で扱われる妥協効果(compromise effect)および魅力効果(attraction effect)と,制御焦点理論との関わりに関して研究を行った。この研究では,予防焦点と結びつきの強い製品タイプとして日焼け止めとマウスウォッシュが,促進焦点と結びつきの強い製品タイプとしてワインとレストランが選択されている。調査の結果,予防焦点型の製品タイプでは,消費者がリスクを回避するために無難で妥協的な製品が選ばれ,促進焦点の製品タイプでは,消費者が進化した新しさのある製品を好むため,他にはない特徴的な魅力を持つ製品が選ばれることが実証された。これらの先行研究をまとめると,予防焦点型の製品タイプは,失敗を予防するために実質的な情報が重視される一方,促進焦点型の製品タイプは,進化や新しさへの期待や感情的な情報が重視されるといえる。

発案者効果の先行研究では,ユーザー共創による新製品開発は多くの消費者にとって,企業による伝統的な開発とは異なる新しくて革新的な製品開発手法だと知覚されている(Schreier et al., 2012)。また,ユーザー発案情報の表示は,新製品開発に参加していない消費者にとっても,企業との結びつきを強め,あたかも自分自身が参加したかのような感情的な結びつきをもたらすという(Dahl et al., 2015)。既存研究では,複雑さが高い製品は発案者効果が消失することが明らかになっているが(Schreier et al., 2012),複雑さが高い製品であっても,促進焦点型の製品タイプの場合には,ユーザー発案情報によってもたらされる手法の新しさや感情的な結びつきによって,発案者効果が得られる可能性がある。よって,次の仮説を提示する。

H1:複雑さが高い製品カテゴリーにおいて,促進焦点型の製品タイプの場合は,ユーザー発案情報の表示が製品選択に正の影響を与える

(2) 制御焦点を用いた広告メッセージの分類

製品タイプと同様に,制御焦点によってコントールされた広告メッセージの違いも,消費者の意識に影響を及ぼす。Florack and Scarabis(2006)は,制御焦点によってコントロールされた広告メッセージと,消費者の制御焦点の志向性との関係性を研究している。この研究では,参加者に対して予防焦点や促進焦点を意図的に高めるプライミング操作を行なった上で,架空の日焼け止めブランドの広告を2種類見せ,どちらの製品が欲しいかを調査している。その結果,予防焦点を高めた消費者は予防焦点型の広告メッセージを好み,促進焦点を高めた消費者は促進焦点型の広告メッセージを好むことが明らかになった。Kim(2006)は,青少年向けの禁煙広告における制御焦点の役割について研究している。この実験では,禁煙広告とは無関係の,制御焦点でコントロールされた広告メッセージを使用して,参加者の制御焦点がコントロールされている。具体的には,黒豆豆乳の広告メッセージとして,参加者は,予防焦点型の広告メッセージ(“黒豆豆乳を飲んで病気から身を守りましょう!”)もしくは促進焦点型の広告メッセージ(“成長を促進するために 黒豆豆乳を飲みましょう!”)を見た上で,禁煙広告を評価している。その結果,黒豆豆乳の広告メッセージの制御焦点と,禁煙広告の制御焦点の方向性が一致している場合に,禁煙効果が高まることを実証している。

このように,広告メッセージの制御焦点の違いが,消費者の意思決定に影響を与えることが明らかになっている。特に,予防焦点型の広告メッセージを目撃した消費者は,失敗することを恐れ,用心深く行動するため(Kim & Sung, 2013),製品選択においては,新しいものではなく,現状維持のものを選択する傾向が強い(Chernev, 2004)。また,予防焦点による損失回避を志向する傾向は,促進焦点による新しいものを選好する傾向よりも顕著に強いことが明らかになっている(Chernev, 2004)。

発案者効果の先行研究では,消費者にとってユーザー創造製品は,従来型の製品開発とは異なり,革新的な開発手法によって生まれた新しさのある製品であると知覚されているため(Schreier et al., 2012),発案者効果が有効だとされる複雑さが低い製品であっても,予防焦点型の広告メッセージによって高まった損失回避志向が,ユーザー創造製品の選好にネガティブな影響を与える可能性がある。よって,次の仮説を提示する。

H2:複雑さが低い製品カテゴリーにおいて,ユーザー発案情報の表示が与える製品選択への正の影響は,予防焦点型の広告メッセージを表示した場合には弱まる

III. 研究1:製品タイプ

研究1では,複雑さが高い製品カテゴリーにおける,制御焦点によって分類された製品タイプの違いが発案者効果に与える影響を明らかにする(仮説1)。

1. 調査

(1) 方法

本研究では,先行研究を参考に,複雑さが高いと考えられるパソコンソフトウェアの製品カテゴリーの中から,ウィルス対策ソフトを予防焦点タイプの製品,動画編集ソフトを促進焦点タイプの製品として選択した(Zhang et al., 2010)。

まず,ウィルス対策ソフトと動画編集ソフトが,複雑さが高い製品として認知されていることを確認する1回目のプレテストを実施した1)。1回目のプレテストでは,対象となるウィルス対策ソフトと動画編集ソフトに加えて,Schreier et al.(2012)を参考に,比較対象となる製品として複雑さが低い3つの製品(Tシャツ,シリアル,スポーツ用品)と,複雑さが高い3つの製品(家電製品,園芸用電動工具,ロボット玩具)について調査を行った。参加者(N=61)は,それぞれの製品について,「この商品の商品開発は複雑である」という質問に対して,リッカート7点尺度(1=全く当てはまらない,7=とても当てはまる)で回答した。結果は,予想通り,複雑さが低い製品(MTシャツ=2.967,Mシリアル=4.115,Mスポーツ用品=4.164)は,複雑さが高い製品(M家電製品=5.705,M園芸用電動工具=4.967,Mロボット玩具=5.705)よりも低い値を示した。また,本研究で使用する2種のパソコンソフトウェア(Mウィルス対策ソフト=5.902,M動画編集ソフト=6.082)は,複雑さが高い製品よりも高い値を示していた。よって,2種のパソコンソフトウェアは複雑さが高い製品として認識されていることが確認できた2)

続いて,ウィルス対策ソフトと動画編集ソフトの架空の商品説明ページを作成し,想定通りに予防焦点型の製品タイプと促進焦点型の製品タイプに別れているかを確認するために,2回目のプレテストを実施した。なお,企業名やブランド名による影響を排除するために,匿名にて実験を行った。2回目のプレテストでは,Zhang et al.(2010)を参考に,参加者(N=105)に対して「予防タイプ:生活の安全性を高める製品。悪い結果を避けるために必要なもの」「促進タイプ:生活の楽しみを高める製品。気持ちよく幸せに過ごすために手に入れたいもの」という予防焦点型の製品タイプと促進焦点型の製品タイプの説明が表示された。続いて,それぞれの画像刺激を見た上で,予防タイプだと思うか(1=全く予防タイプではない,7=非常に予防タイプである),促進タイプだと思うか(1=全く促進タイプではない,7=非常に促進タイプである)というリッカート7尺度で測定を行った。その結果,ウィルス対策ソフトは予防タイプのスコアの平均値が促進タイプよりも有意に高く,動画編集ソフトは促進タイプのスコアの平均値が予防タイプよりも有意に高かった3)。よって,適切にタイプ分けされていると判断した。

本調査(N=1,201)では,参加者は製品タイプ(ウィルス対策ソフト・動画編集ソフト)×発案者(ユーザー・企業の開発者)の4つのグループにランダムに振り分けられた4)。各グループでは,2種類のソフトウェアのうち一方がユーザー発案,もう一方が企業発案になるように設定された画像を見た上で,「もしあなたが,表示された2つの新製品のうち1つを購入するとしたら,どちらを選びますか?」という質問に対して,どちらか一方を選択した(図1)。続いて,コントロール変数として性別5),年齢,最終学歴6)について質問した。不適切なものを除いた回答(N=1,093)を対象に,仮説1に関して検証を行なった。各項目の記述統計は表1の通りである。

図1

研究1の画像刺激の一部

表1

研究1の記述統計表

(2) 結果

予防焦点型の製品タイプにおける発案者効果を検証するために,グループ1とグループ2のデータを統合して,従属変数を製品選択ダミー(ウィルス対策ソフトAを選択=1,Bを選択=0),独立変数を発案情報ダミー(ウィルス対策ソフトAの発案者がユーザー=1,ウィルス対策ソフトAの発案者が企業の開発者=0),コントロール変数を性別,年齢,最終学歴としたロジスティック回帰分析を行なった。また,グループ3とグループ4を統合して,促進焦点型の製品タイプに関する同様の分析を行った(表2)。その結果,予防焦点型の製品タイプではユーザー発案情報の表示は製品選択に対して有意な結果を示さなかった(b=−.098, p=.572)。一方で,促進焦点型の製品タイプではユーザー発案情報の表示が有意な正の影響を示した(b=1.167, p<.001)。よって,仮説1は支持された。

表2

製品選択に関するロジスティック回帰分析の結果

p<.10, *p<.05, **p<.01, ***p<.001

1 Aを選択=1,Bを選択=0,2 Aの発案者がユーザー=1 Aの発案者が企業の開発者=0,3 男性=1 女性=0

4 中学校卒=1,高校卒または高卒資格=2,高等専門学校卒=3,専門学校卒=4,短期大学卒=5,大学卒=6,大学院卒=7

2. 考察

研究1では,複雑さが高い製品カテゴリーにおいて,制御焦点による製品タイプの違いが発案者効果に与える影響について検証した。分析の結果,発案者効果が失われるとされている複雑さが高い製品カテゴリーであっても,促進焦点型の製品タイプの場合には,ユーザー発案情報の表示が,製品選択に対して正の影響があることが明らかになった。新しさや感情的な情報が重視される促進焦点型製品タイプの特徴と,ユーザー発案情報がもたらす革新的なイメージや企業との感情的な結びつきが一致して,ユーザー創造製品が選好された可能性がある。

IV. 研究2:広告メッセージ

研究1は,複雑さが高い製品における制御焦点の違いが発案者効果に与える影響について検証した。研究2では,複雑さが低い製品において,制御焦点の違いが発案者効果に与える影響を検証する。特に,制御焦点によってコントロールされた広告メッセージが発案者効果に与える影響について検証する(仮説2)。

1. 調査

(1) 方法

研究2では,先行研究(Ishii, 2018; Schreier et al., 2012)を参考に,研究1のプレテストにて複雑さが低いことが確認できているシリアル(グラノーラ)を対象とした。そして,同じ製品に対して,中立型の広告メッセージ,予防焦点型の広告メッセージ,促進焦点型の広告メッセージ7)の3種類の広告メッセージを付加した刺激画像を作成し,調査を行った(図2)。

図2

研究2の画像刺激の一部

まず,Kim(2006)を参考に,制御焦点による広告メッセージが正しく操作されているのかを確認するプレテスト(N=106)を行った。参加者は画像刺激をみた上で,制御焦点を確認する質問に回答した8)。3種類の広告メッセージに対する予防焦点および促進焦点の平均値を一元配置分散分析で検証した結果,いずれも条件間に有意な差がみられ,広告メッセージの操作は成功していることを確認した9)

続いて,本調査(N=1,854)では,参加者は広告メッセージ(中立・予防焦点・促進焦点)×発案者(ユーザー・企業の開発者)の6つのグループ10)にランダムに振り分けられた。そして,研究1と同様に,2種類の広告画像を見た上で一方を選択した。続いて性別,年齢,最終学歴について回答を行なった。不適切なものを除いた回答(N=1,692)を対象に,仮説2の検証を行なった。各項目の記述統計は表3の通りである。

表3

研究2の記述統計表

(2) 結果

仮説2の検証を行う前に,複雑さが低い製品(グラノーラ)において,先行研究(e.g. Schreier et al., 2012)と同様に発案者効果が有効であるかを確認する追試を行った。中立型の広告メッセージを使用したグループ1とグループ2の2つのグループのデータを統合し(N=563),製品選択ダミー(広告Aの新製品を選択=1,広告Bを選択=0)を従属変数に,発案者情報(広告Aの発案者がユーザー=1,広告Aの発案者が企業の開発者=0)を独立変数に,年齢,性別,最終学歴をコントロール変数としたロジスティック回帰分析を行った。その結果,予想通り,ユーザー発案情報は製品選択に対して有意な正の影響を示していた(b=.800, p<.001)。

続いて仮説2の検証を行うために,中立型の広告メッセージを付加したグループ1とグループ2,予防焦点型の広告メッセージを付加したグループ3と4の4つのグループのデータを統合した上で,上記と同様に,製品選択ダミーを従属変数に,発案者情報と制御焦点(広告Aが予防焦点型メッセージ=1,広告Aが中立型メッセージ=0)を独立変数に,年齢,性別,最終学歴をコントロール変数としたロジスティック回帰分析を行った(表4)。発案者情報と予防焦点の交互作用を確認したところ,マージナルではあるものの,製品選択に負の効果を与えていた(b=−.404, p<.10)。また,下位検定として単純傾斜分析を行なった結果,ユーザー発案情報が製品選択に与える正の影響は,予防型の広告メッセージの場合の方が(b=0.364, p<.05),中立型の広告メッセージの場合よりも(b=0.792, p<.001)弱まっていることが確認できた。よって,仮説2は支持された。

表4

製品選択に関するロジスティック回帰の結果

p<.10, *p<.05, **p<.01, ***p<.001

1 Aを選択=1,Bを選択=0,2 Aの発案者がユーザー=1 Aの発案者が企業の開発者=0,3 予防(促進)焦点型広告メッセージ=1 中立型広告メッセージ=0,4 男性=1 女性=0 5 中学校卒=1,高校卒または高卒資格=2,高等専門学校卒=3,専門学校卒=4,短期大学卒=5,大学卒=6,大学院卒=7

なお,促進焦点型の広告メッセージの影響について確認するために,中立型の広告メッセージを付加したグループ1とグループ2,促進型の広告メッセージを付加したグループ5と6の4つのグループを統合した上で,上記と同様の分析を行った。その結果,発案者情報と促進焦点の交互作用は有意な結果を示さなかった(b=−.296, p=.233)。よって,発案者効果に与える影響は,予防焦点型の広告メッセージ特有のものだといえる。

2. 考察

実験2では,複雑さが低い製品に予防焦点型の広告メッセージを付加した際の,発案者効果に与える影響について検証した。その結果,ユーザー発案情報の表示と予防焦点型の広告メッセージには負の交互作用があることが確認できた。これは,ユーザー創造製品が持つ革新的なイメージに対して,予防焦点型の広告メッセージがもたらす現状維持を好む損失回避志向がネガティブな影響を与えた結果だと考えることができる。

V. 議論

ユーザー創造製品の発案者効果に関する既存研究では,その効果が得られる範囲を探る境界条件の研究が進められている。これまで,複雑さやステータス,共創への熟知性や権力格差信念など,いくつかの境界条件が検討されているが,その詳細は十分に明らかになっていない(Fuchs et al., 2013; Paharia & Swaminathan, 2019; Schreier et al., 2012; Song et al., 2021)。また,消費者行動分野で扱われている基礎的な概念との接続が弱いという課題も指摘されていた(Schreier et al., 2012)。

そこで本研究では,消費者の購買動機に着目し,制御焦点理論を用いて発案者効果の境界条件について分析を行なった。その結果,発案者効果が失われるとされている複雑さが高い製品カテゴリーであっても,促進焦点タイプの製品の場合には,発案者効果を獲得することが確認された。また,発案者効果が有効であるとされる複雑さが低い製品カテゴリーにおいて,予防焦点型の広告メッセージの表示とユーザー発案情報の表示には負の交互作用効果があることが明らかになった。

本研究の理論的貢献は,発案者効果の境界条件研究を,制御焦点理論という消費者行動分野の概念を用いて拡張した点である。制御焦点理論は消費者の購買動機という基礎的な概念であり,またマーケティング分野で近年数多くの研究が進められているため,本研究を足掛かりにして,さらなる研究が進められることが期待される。また,既存の発案者効果研究で明らかにされていた製品の複雑さという境界条件が,制御焦点で分類された製品タイプの違いによって変化することを明らかにした点も貢献である。同様に,複雑さが低い製品において,発案者効果は広告メッセージに含まれる制御焦点の違いによって影響を受けることも明らかになった。

実務的な貢献としては,企業のマーケターに対して,いくつかの知見を示した。1つ目は,ユーザー創造製品を販売する際に,対象となる製品が複雑さが高い場合においても,促進焦点型の製品タイプの場合は,ユーザーと共創したという事実を表示した方が市場での成果につながる可能性が高いという点である。2つ目は,複雑さが低い製品において,ユーザーと共創したという情報の表示を行う際に,予防焦点型の広告メッセージによるネガティブな影響に注意を払うべきだという点である。企業のマーケターは,開発プロセスにおいてはユーザーのイノベーティブなアイデアを活用しつつ,それを販売する際には制御焦点の視点で製品タイプや広告メッセージを分析し,その影響を配慮しながらユーザー発案情報の表示を検討する必要があるといえる。

本研究の限界として,取り扱った製品が限られており,他の製品での検証が必要だと考えられる。本研究では,先行研究を参考にパソコンソフトウェアとグラノーラを取り上げたが,他の製品においても検証することで,より強固な結果が得られると考えられる。特に調査2で使用したグラノーラは,促進焦点的な要素も,予防焦点的な要素も含んでおり,調査の参加者によって捉え方が異なった可能性がある。研究1のように製品タイプを分類したり,製品タイプの知覚をコントール変数として扱うなどして影響を排除した上で,広告メッセージの効果についてさらに深く検証することも今後の検討課題である。また,本研究はブランド名が持つ知覚による影響を取り除くために,架空のブランドを用いて調査を行なっているが,今後は実在するブランドを用いた調査や,フィールド実験に拡張していくことが必要となるであろう。

デジタルを用いたユーザーとの共創型による新製品開発は,今後も活性化していくことが予想される。共創型のプロセスが持つユニークな価値を伝えるためにも,発案者効果研究の重要性はさらに増していくと考えられる。

1)  本研究の全ての調査は,クラウドワークス(https://crowdworks.jp/)を通じて参加者を募集した。

2)  複雑さが低い製品群(M=3.749),複雑さが高い製品群(M=5.459),およびパソコンソフト2種(M=5.992)の合成変数を,一元配置分散分析(対応あり)にて分析した結果,3群に有意な差がみられた(F(1,120)=129.320, p<.001)。また,ボンフェローニの多重比較によると,3群のそれぞれに有意な差がみられた。

3)  ウィルス対策ソフトA:M予防=6.429(0.93), M促進=3.210(1.67), t=16.454, p<.001,ウィルス対策ソフトB:M予防=6.276(1.09), M促進=3.067(1.63), t=16.000, p<.001,動画編集ソフトA:M予防=2.514(1.39), M促進=5.876(.96), t=−16.937, p<.001,動画編集ソフトB:M予防=2.429(1.47), M促進=5.914(1.05), t=−15.672, p<.001。括弧内は標準偏差

4)  グループ1:予防焦点型製品タイプ,新製品A=ユーザー,新製品B=開発者,グループ2:予防焦点型製品タイプ,新製品A=開発者,新製品B=ユーザー,グループ3:促進焦点型製品タイプ,新製品A=ユーザー,新製品B=開発者,グループ4:促進焦点型製品タイプ,新製品A=開発者,新製品B=ユーザー

5)  男性=1,女性=0

6)  中学校卒=1,高校卒または高卒資格=2,高等専門学校卒=3,専門学校卒=4,短期大学卒=5,大学卒=6,大学院卒=7

7)  促進焦点型の広告については,予防焦点型の広告と同じレイアウトを用いて,以下のようなメッセージを作成:元気をおいしくプラス! 朝食をしっかりとると,元気がわいてきます。勉強や仕事で成功するために,おいしく食べて,元気をプラスしましょう。ローストナッツ(完熟バナナ)に,はちみつ(ココア)をミックス。開発者の考えたレシピから生まれた,身体を元気にするためのグラノーラです。

8)  質問項目は「この広告は,保護に関する内容を伝えようとしている」「この広告は,強化に関する内容を伝えようとしている」の2問を採用した。質問はリッカート7点尺度(1=全く当てはまらない,7=とても当てはまる)で行われた。なお,「予防」「促進」という直接的な言葉ではなく,Kim(2006)で用いられている「保護」「強化」という言葉を採用した。

9)  ローストナッツ&ハニー 保護:M中立=2.406(1.263), M予防=4.745(1.685), M促進=3.321(1.425), F(2,315)=68.38, p<0.001,強化:M中立=2.745 (1.435), M予防=4.094(1.444), M促進=5.368(1.206), F(2,315)=97.70, p<0.001,完熟バナナ&ココア 保護:M中立=2.330(1.201), M予防=4.858(1.687), M促進=3.283(1.452), F(2,315)=81.03, p<0.001,強化:M中立=2.708(1.324), M予防=4.236(1.509), M促進=5.236(1.356), F(2,315)=87.86, p<0.001,全ての項目間においてp<.05基準で有意差あり。括弧内は標準偏差

10)  グループ1:中立型広告メッセージ,広告A=ユーザー,広告B=開発者,グループ2:中立型広告メッセージ,広告A=開発者,広告B=ユーザー,グループ3:予防焦点型広告メッセージ,広告A=ユーザー,広告B=開発者,グループ4:予防焦点型広告メッセージ,広告A=開発者,広告B=ユーザー,グループ5:促進焦点型広告メッセージ,広告A=ユーザー,広告B=開発者,グループ6:促進焦点型広告メッセージ,広告A=開発者,広告B=ユーザー

岡田 庄生(おかだ しょうお)

法政大学イノベーション・マネジメント研究センター 客員研究員。博士(経営学)。株式会社博報堂(本務)。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 客員教授。同大学アントレプレナーシップ研究所 客員研究員。専門は,ユーザー・イノベーション,マーケティング・コミュニケーション。

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