抄録
本研究では,現在開発している小規模な学習者コーパスを利用し,社会的背景の異なる3つの国(ドイツ・セルビア・日本)の大学生が同じ課題「住みやすい国の条件とその理由」というテーマで作文を書いた時,どのような語を用いて思考を表現するのかを量的・質的に分析した.その結果,高頻度で出現する語が国によって異なることが確認できた.さらに,質的分析の結果,各国で共通して多用されていた語も,実際の作文では,異なる文脈で用いられていることが明らかになった.これらの結果を踏まえると,ある「ことば」をどのように捉え,用いているかは,教育を受けた環境やそれまでに得た経験によって異なることが考えられる.本研究では,母語の異なる学習者コーパスを言語知識を量的に測る言語データとしてだけではなく,質的分析と組み合わせた調査のために利用し,異文化間能力の育成に役立てる言語データ,教材として活用できることを示す.