文章の文体特徴を品詞構成の観点から捉える指標としてMVRがあるが,MVRと具体的な文体特徴の対応関係に関する実証的・理論的検討は十分であるとは言えない.本研究では,校歌の歌詞という変異の幅が比較的限られた文章を対象として,品詞構成と文体特徴との対応関係を探索的に検討した.東京都の小中高の学校の校歌を分析したところ,MVRは小学校で中学・高校よりも高いことが確認された.ただし,その違いはM率のわずかな差によるものであった.具体的な文章の違いを検討したところ,N率の高い歌詞は倒置法や体言止めを多用した詩文的な形式をとる傾向が強く,V率が高い歌詞は述語で区切る物語的な形式をとる傾向があることがうかがわれた.M率はこれらのパターンを乱すような働きをしており,いずれかの表現形式への傾きを和らげているようであった.これらのことから,校歌の歌詞という文脈において品詞構成の違いがどのような表現の実現形態と結びつくのかを論じた.