物体に超音波を照射すると,その表面には超音波周波数の圧力変動に加えて直流成分の放射力(音響放射力)が働く。この音響放射力を利用すると,音響定在波中において物体を非接触で浮揚・搬送することができる。本稿では,著者らのグループがこれまでに開発した超音波による非接触搬送装置(一次元搬送,周回搬送,二次元搬送)について紹介した。いずれの装置においても,圧電超音波振動子への入力電気信号によって超音波振動と音場を制御し,物体の空間位置を操る点で本質的には同じ技術を用いている。装置の構造は有限要素解析による数値シミュレーションによって決定している。また,物体の浮揚位置と搬送軌跡は数値計算結果と音響放射力に関する理論式によって予測することが可能である。本技術は将来的に,精密電子部品や錠剤などの製造ラインへの応用のみならず,粉体のハンドリング技術,バイオテクノロジー分野における液体や細胞などのマニピュレーション技術への展開が期待される。