抄録
本稿では,青海省東部におけるアムド系チベット牧畜民(遊牧民と農牧複合民)の乳加工体系を把握することを目的とした。アムド地域では,生業形態の枠組みを越え,発酵乳系列群,クリーム分離系列群,凝固剤使用系列群の 3 つの乳加工技術が広く採用されていた。発酵乳系列群の特徴は,1)生乳を自然発酵もしくは酸乳を添加してからチャーニングしていること,2)チャーンには攪拌桶・攪拌棒と革袋の両方の技術が存在していたこと,3)乳脂肪の分画が食用にはバターで終了していること,4)バターミルクの加熱・脱水により非熟成乾燥チーズを加工していること,5)自然発酵乳/酸乳添加した生乳を用いたバター・チーズの加工(非加熱自然発酵亜系列)と酸乳の加工(加熱乳発酵亜系列)とはそれぞれ別々に加工されていることにある。クリーム分離系列群と凝固剤使用系列群の乳加工技術は,主要な乳加工技術とはなっていなかった。今後,調査件数を増やし,周辺地域の事例と比較分析することにより,アムド系チベット牧畜民の乳文化の起原と発達史を解明していくことが課題である。