抄録
きのこの子実体発生研究において,菌株の選抜は非常に重要である.トキイロヒラタケは,子実体形成期への移行がピンク色発色により容易に肉眼で確認できるため,子実体形成メカニズム研究に適したきのこである.本きのこは,菌糸および子実体の形態観察,和合性試験により,ヘテロタリックな生活環をもつ四極性であることが明らかとなった.二核菌糸を用いた場合,ゲノムデータベース構築や,遺伝子挿入および破壊実験が複雑化する.単核菌糸を用いることが有用であるという考えのもと,単核体で子実体形成株と非形成株の分離を目的に,トキイロヒラタケNBRC3185株を親株とした単胞子分離を行なった.単胞子分離株の形態とその生育速度を比較したところ,様々な表現形を示した.PDA培地と,木材を基礎とした固体培地上で類似した生育を示し,かつ,子実体非形成(N81株),子実体形成(N13株)という表現型を示す菌株を取得した.