マイコトキシン
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Research Paper
クエン酸高生産菌Aspergillus tubingensisA. niger)WU-2223Lのマイコトキシン非生産性:ゲノム配列情報と代謝産物の解析に基づく生物的安全性の検証
吉岡 育哲中川 博之桐村 光太郎
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2022 年 72 巻 2 号 p. 75-83

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抄録

 工業的利用が期待できる有機酸産生菌であるAspergillus tubingensis(以前はA. nigerに分類されていた)WU-2223Lについて4種の主要なカビ毒(アフラトキシン,オクラトキシン,フモニシン,パツリン)の非生産性を確認するために,ゲノム配列解析とLC-MS/MS分析を行った.ゲノム配列解析から,WU-2223LのゲノムDNAにはアフラトキシンおよびパツリンの生合成クラスターを含まれる遺伝子が含まれないことを明らかにした.また,オクラトキシンAおよびフモニシンB2の生合成クラスターのホモログ遺伝子の一部と想定される短い遺伝子領域が見出されたが,その他の大部分の遺伝子領域を欠失していた.すなわち,本菌株においてこれらの生合成クラスターの大規模な欠損が起きたことが示唆された.いくつかの典型的な培地を用いて調製した本菌株の培養物についてLC-MS/MS分析を行ったところ,これらの4種の主要カビ毒は不検出(検出限界未満)であった.以上より,WU-2223L株において4種の主要カビ毒の産生能力がないことがゲノム配列情報だけでなく代謝物分析からも明らかにした.我々が得た知見からA. tubingensis WU-2223Lはクエン酸のような有用物質の発酵生産に利用できる安全な菌であることが示された.

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© 2022 日本マイコトキシン学会
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